小説の書きかけ(Pさん)

 言葉でしか知らせだと知らない人間からの知らせが届くと焦るような気持ちでそれを開いた。綿菓子のように簡単に飛ぶようなものと想像しなかったけれども眼球の底からそれであると信じた節があった。何物にも構わない限界集落の感じの井戸水と浮き上がるビニール製イルカとご褒美にもらった細身の剣が諸共に崖の上に置かれた。私に残された時間はあと僅かだと悟った。

 一人が歩くともう一人がそれに従った。実はそれが無限に続いていて、その途中でサザエさんの試聴や植物の踊り食いなどが挟まっていた、あたかもCMのようだった、際立ってはいなかったからCMカットの技術から漏れていたようで本編の途中にまるで挟まっているかのような有り様で佇んでいて、どちらの側にも組しないぞという決意のような血判状が向こう岸までを埋め尽くして撓んでいた。

 遂に繰り返しにはなるが無限と思えるような歌の終わりの方が見えた。芸能人の顔が南原清隆から順番に、日めくりカレンダーのように完璧にソートされて現れてきた。足跡が目に見えるようだった。蒸気が沸き立って我々の足元の群青色にも見えるアスファルトの面を明るく照らした、改めて繰り返しになるかもしれないが、果てしない足の踏みしだきのように明らかでラジオ体操のように執拗に、健康的に。

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