詳細な日記(Pさん)

 ずっと懸念していた仕事の山場が終わって、ひどくほっとした。残業する職場仲間の人を放っといてほぼ定時で上がった。解放感に包まれてもいいはずだが、それより定時で先に上がったことが気になって、身に纏わりつくようだった。じっさい気分はすぐれなかった。涼しいを通り越して寒いくらいの気温になった。ずぶ濡れになるほど雨に降られることはなかった。それほどの時間でもないのに異様に薄暗かったのは、分厚い雲のせいなのか、それとも陽が落ちるのが早くなったせいなのか、わからない。バスが、たいてい、駅前の交差点を通るときに、ウィンカーを光らせながらこちらに向かってくる。曲がる方向が分かれば、自分はその反対側を進行方向に取って自転車を進めた。その先に、何度も懸念事項になっている、ムロツヨシのポスターが、十人分くらいの顔を並べていて、目を背けたくなるのだが絶対に視線は引き寄せられる。僕はムロツヨシとワッキーと塚地の顔が大嫌いで、見ると鼻を曲げたくなる。前に、別の場所でムロツヨシの、同じポスターを見掛けることがあった。誰かに付いて回られているような気分になった。そのまま自転車を右に進めて、スーパーの駐輪場に停めると、入り口のところにたいていチューハイの空き缶が転がっている。カップ酒の瓶だったこともある。毎回ここに酒の類を捨てるのはおそらく同一人物だろう。他の場所に転がっていることはほとんどない。原色で塗ったような、何の店だかわからない看板がその向かいに見える。ある時、その看板が立ててあるアパートの一階部分の屋根、というか他の階に比べて少し出張ったところがある所、狭くて本来人が通る場所には見えないところを人が通った時があった。修理業者がごくたまにそこを通路として使うというような感じだった。亡霊が通ったのかと思った。その場所を注視してはおらず、目の端に空中を歩く人の姿が見えたからだった。蓋を開けたら大した光景でもないのかもしれないが、今思い出してもどこか超然とした雰囲気があった。もしかしたら、修理という用事でもなかったのかもしれない。

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