常用字解を読む(Pさん)
何かしら、勉強しようと思った。
手始めに、漢字の成り立ちを、白川静先生の「常用字解」から、習おうと思った。
この、かなり普通の辞書の体裁に近い、「字書」は、おそらくだが、白川静が順番に、段階を踏むように作っていった、「字統」「字訓」「字通」の三書、これを総合し、日常的には見掛けない字を省き、普段使いができるようにしたものである。
初期の三書の中では、特に「字訓」が、思想的に飛びぬけている。ふつう、漢字の原義を遡ろうとしたときに、中国の、漢字発祥のあたりを参考にするだろう。あるいは、漢字の意味の起源を、一元的に担っている、「説文解字」という辞書を参考にするだろう。
しかし、「字訓」の考えは、ひとつの字に対して、それがどう訓じられたか、つまり、日本語としての読みがあてられたのかという点に絞った、辞典なのである。
もちろん、現代の訓読みに留まるものではない。聞いたこともない読みが含まれている。では、「字訓」は、訓読みの方法に特化した、字書なのだろうか。
どうも違うらしい。場合によっては、字書の本尊ともいえる「説文解字」では間違って載っている漢字の起源や原義に対して、日本語の読みの方が、核心をついている語義を明らかにしているという。
ここにおいて、文字、あるいはどんな文化を見るにも一元的に、系統樹を遡るように分解していくのではなく、常にたえざる交易にさらされている、いわば野ざらしのものとして漢字をとらえるというヴィジョンが見えてくる。
そんな思想も、現代の言葉に通用するように切りそろえられたものは、パワーが落ちた感じもする。しかし、それでも面白い。
今日読んだ文字は「玄」。ゲン、あるいはクロである。玄人の玄。この字は、撚った紐を、六回、染汁につけて黒くなった紐を表しているという。その紐は、少し赤く光るような黒色をしていて、派手ではなく静かな色合いがあることから、「幽玄」という意味が生まれた。
また、静かで奥深い技術を表すという意味で、玄人の意味になった。逆に、染められていない糸のことは「素」、シロという。それで素人だという。
「常用字解」を読んでいると、どこを読んでも、何かしらの発見をしたような心持になって、気軽に楽しめる。たまにはこういうのもいいだろう。
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