宇宙(Pさん)

 サイコロを転がすと、一面には宇宙、二面には天井、三面には骨折した松島トモ子、四面には二面、五面にはサイクロイド曲線、六面には元気な頃のあいつの顔がプリントされたTシャツが閃いて、そのうち消えた。あいつは、森の中を走り抜けて、じきに破傷風に悩むことになった。なんで、と聞くと、奴は無言で自分の足の裏を指した。小役で有名になった芸能人の面影が、そこにネガとなって映っていた。踏みしめられる度に苦悶の表情を浮かべるが、当然、誰もそれを見ることはなかった。名演だった。三代目菊次郎を継いでも良かったと、その時の私は思った。その時の私は、サプライズケーキが静かに土俵内に運ばれてくるのを、錆びた針金に身体中グルグル巻きにされてただ眺めているだけだった。公園の飲み水を飲むくらいの自由はあったかもしれない。クラウチングスタートから走り込みを始める食いしん坊の与太話が二時間ほど続いた。夏の暑い日に、何℃かわからない溶けた糖を無理やり耳の穴に流し込まれる感想を五段階評価で表記しろという方が間違っている。静かに、じきに静かに呼吸音が聞こえる。走り込みは続き、ベース音に反応するようにエコーの度を強めた。何重にも回帰した。プラスチックの容器の蓋のパッキンをなくして、探し回った。床に散らばっている以外は、どこにも見つかる筋合いがなかった。宇宙とは大体こんなものなんだろう。

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