思考のバイアス
網走の北方民族博物館に行きたくて、ついでに山登り、にチョイスした雌阿寒岳は博物館から90kmも離れてた。道東は距離感と時間の感覚が狂う。でも行けて良かった。
天気は最高で全部すごかった。オンネトー野営場に車中泊、早朝にはけあらしが見られた。
今回、初めてルートミスというか、登山道でないところを結構歩いてしまった。YAMAPの軌跡を見ると距離的には往復で500mくらいのよう。
リカバリーできて良かった。何というか、こういうのは、一つのミスではなく、いろいろなことが重なって、変なバイアスのかかった思考のもと、どんどん深みにハマっていくのだという事が、大変よく分かったので、自分の後々の戒めのためにも、少し詳しく、その時の心理状態を記録しておこうと思う。
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そういえば、ずっと親切についていたピンクテープが全然見当たらない。苔むして、切れ込んでいる沢底で、倒木も多く、荒れている。「なんかおかしいな、ここ登山道かな」と思ってYAMAP開くと、登山道から少しズレて歩いている。でも何となく登山道に沿っていると見えなくも無い。「何かの不具合かな、歩いていけばそのうち修正されるだろう」と思った。
短時間だったけど、そういうようなのは、他にもたくさんある。
・倒木多数で全体的に荒れていて登山道っぽくない
→自然豊かな道東の山だから、これが普通なのかもしれない
・両側が切れ込んだ沢底で、こんな場所はもし冬だったら地形の罠、土砂崩れでもあったら危険そうだし、クマには上から見られるし、こんなところ登山道にするかな
→人が歩くから侵食されてこうなったのだろう、だからここは登山道なのだ
・さっきまではっきり残っていた靴跡が見当たらない
→それっぽいのを見つけては、「ああ、あるある」と安心する
・YAMAPが登山道から少しずれたログを記録したことは今まで一度もないのに、今回はズレている
→アプリかGPSの不具合か(そんなことあるか?)、もしくは、登山道が少し変わったのかも。まぁこんなこともあるのだろう、と思う(あくまでも自分は正しいことを疑わない)
・あんなにたくさんあったピンクテープがない→途中で地面に落ちているボロボロのピンクテープを発見
→あった!やっぱり間違えてはいないようだ、良かった!(明らかにそれは劣化して飛ばされて落ちているヤツ)
・道を間違えているかもしれない
→もし間違えていたとしても、このまま登っていけば、そのうち登山道に合流するだろう
後で考えると、この時は、何か様子がおかしいので不安だらけなので、その不安をどうにか打ち消したくて、「大丈夫」という理由を何とか見つけて安心したい心理が強く働いていたように思う。すぐに引き返せば良いのに、何故かそうしないという遭難のセオリーみたいなのは本当だった。これらの一連のおかしな心理状態は、我ながら大変興味深い。
その後も早く安心できるところに出たくて(この先に安心できる場所があると信じ込んでいる)、せっせと気味の悪いところを登り続けて、でもずっと登山道と並行して歩くだけで、等高線を見ると、この先はますます谷が切れ込んで、登山道とは合流しそうになかった。ここで初めて、道から外れてしまっているかもしれない、と、半分くらい認めざるを得なくなった。
すると今度は、「せっかく登ったのに…」という心理が働く。下りて登り返すのめんどくさいし…時間もかかるし…もし間違えてなかったら悲劇だし…
横を見ると、よじ登れそうになくもない。ここを登れば登山道があるかどうか確かめられる、と思ったのだけど、自宅付近の山の中で、下から見れば何でも無さそうな斜面でも、登ると結構大変で、途中で土や草が滑ってグリップが効かず、上にも下にも行けなくなるようなことになった経験を思い出した。早朝だから草も土も濡れている。絶対滑る。変なところを登って落ちて怪我でもして動けなくなったら困る。
「よし、戻ろう!」と声に出して言って気持ちを切り替えて、ピンクテープがあった所まで素直に引き返すことにした。もし間違えてなかったとしても、不安なまま登るよりも安心して登る方がずっと良い。
結果、大いに間違えていて、登山道は歩きやすくて明るくて、希望に満ち溢れていた。引き返して良かったと心底思った。
帰り、登山道から、自分が歩いた谷底を覗いてみた。底が見えないくらいに切れ込んでいて、あんなところを歩いたのかと思ったら、ゾッとした。そもそも、早い段階で地図の等高線を見て、地形から自分のいる位置を把握していれば、間違いに気づけたはずだった。
今回は、登りだったからまだ良かった(引き返すのが下りなので、まぁまぁ心理的にはハードルが低い)。もし、これが下りで、あと2つ3つアクシデントが重なって、思考のバイアスがますますかかったり、パニックになったりしたら、遭難リスクは高まるのだろう、ちょっとヒヤリな体験でした。
それでも無事に山を堪能して帰ってこられたので、そんな体験も含めて全てが素晴らしい山行、素晴らしいプチ旅となりました。
北方民族博物館の展示についてのレポートはいつかまた。
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