超時空SFマンガ「出会って4光年で合体」

それは太ったおばさん著の R18同人作品である。全382ページの…382ページの!?
R18(しかも表紙の少女から察せられるだろうがロリだ!)だけに誰にでもは勧められないが、それでも紛うことなき超大作でした。

無料サンプル分の内容

時は平安時代。四国のある所で散々色仕掛けを働いていた化け狐は弘法大師に懲らしめられ、追放されることとなった。時は下り現代、場面はある思春期を迎えた少年の放精から始まるーーー
待て待て時間飛び過ぎだろ!?というかどんな場面転換だ!?
と、思うじゃないですか。2周目で気付いたんですが、この無料サンプルの最終ページ本作のかなりエッセンスだったりします。嘘だろ…?

前半分くらいまでの内容(ネタバレ

基本的には伝奇ものっぽい文脈で話は進む。瀬戸内海の島に伝わる妖狐の伝説、その伝承と色濃く結びつく、少女くえんとの出会い、そして契り…。
だが、その物語には常に異物が唐突に挿し挟まれる。「世界的企業体カテドラル」「田んぼに佇むくねくね的クリーチャー」「陰謀論を語るババァ」「女流官能小説家」「暗示」。長閑な島の空気、少年少女の青春、淫靡なシーンと裏腹に、理由不明の不穏さが積み重なっていく。
そしてある時、少女くえんは姿を消す。

以降、確信的なネタバレを含む感想書き散らし



▼漫画という媒体による「時間」の描き方が、無法…!
無料サンプル分の時間のカッ飛び方。しかしそれは序章に過ぎなかった。
・写実的と幻想的のおり混ざる背景による険しい山道に、これでもかとページを割き時間の経過を表現する。
・少女の振り向く一瞬を、超長文の吹き出しを重ね極限に引き伸ばす。
さらには、
・ページまたぎでもない、小さな一コマだけで16年が過ぎる。えっ…えっ?と2度見してしまった
・遂には「一方その頃」で生命誕生まで遡る…遡り過ぎだろ!結局石器時代まですぐ下るんだから要らないじゃんそれギャグか!?
ギャグじゃないんだよなぁ…兎に角、漫画という媒体でしか出来なそうな縦横無尽の時間描写が凄まじい。というのが1番印象深いところでした。

▼キャラクターについて
・本作品、登場人物に基本悪い人はいないので気持ちよく読めた。いや職務に忠実で手段を選ばないって人はいるのだけれども。
・主人公の橘はやとが、醜男で不器用で生き方がうまく行かないんだけどその死に至るまでひたむきに善良なのがいい。こういう壮大な物語を駆動させているのが主人公の素朴な善性というの私はとても弱い。
・くえん可愛いよくえん。私は広島弁の美少女にもとても弱い。
・最後の時点で長宗我部真男の声も姿も見えないのがすごい想像力をかき立てられるんですよ。子供世代が成人してるんで老年に差し掛かってるわけで。地球に帰ってきたはやとは友とどんな会話を交わすんだろうね。
・この同級生の親である官能小説家、登場時に異様に細かい背景が語られるなと思ったけど、まさかクリ爆先生がそんな重要な役回りと思わないじゃん!…というか結局アナルビーズ入れてやがる…!

▼序盤と終盤のリフレインが嫌いなオタクはいません
・タヌキの置物と鳥居の看板が、序盤と終盤で出てきて韻を踏んでいるんだけど、拒絶→歓迎というように意味は変わっている
・「かかるかーーーっ!!」→「くるかーーーっ!!」で、ヒトの叡智によってくえんの予想を覆し、不可能を可能にしてみせる
・精によってかかる橋
と、非常に丁寧なリフレインがされていて気持ちがいい。
しかし、クライマックスの「星々をバックに精の橋がかかる」カット。この作品を象徴するものだし、感動的なんだけどなんてきたなくてきれいなんだ…

▼祝福を君に
・かくして、300ページ以上とSF的大仕掛けによって繰り出された「セックスしないと出られない部屋」!
・に対して、エピローグで語られたのは「セックスしないと出られなかった星」なので最初違和感があったのですが、これ「一方その頃」の生命誕生の下りに対するアンサーなんですよね。気付いて衝撃を受けた。
・二人への、ヒトへの、生命への…祝ぎに満ちた温かい終幕でした。

▼おまけ:2周目での気づき
・カセドラルのCはカンパネルラになっていて、この物語の下敷きになっている銀河鉄道の夜にかかっているわけですね
・そういえば突然田んぼにくねくねみたいな奴がいたなと思ったが、これヒトの形を取るのに慣れてない「C」か!
・生命の始まりに出てくる球が連なったような分子、穴に入りたいとか書かれているし思いっきりアナルビーズじゃないですか…!

この作品形式でしか出来なさそうな、とんでもない傑作でした。星雲賞とか取らないかなぁ…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?