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世の中の見え方が変わる!?神奈川大学情報学部システム数理学科「システム数理概論」紹介

神奈川大学に2023年4月、新たな学科が誕生しました。情報学部システム数理学科です。この学科ではどういったことを学べるのでしょうか。
今日はシステム数理学科の初年度の必修科目である「システム数理概論」について、授業を担当されている秋吉政徳教授にその面白さをお聞きしました。

【プロフィール】 秋吉政徳(あきよし・まさのり)/博士(工学)。
福岡県生まれ大阪府育ち。1987年京都大学大学院工学研究科数理工学専攻修了、
1996年同大学博士号の学位取得。三菱電機株式会社中央研究所、大阪大学、広島工業大学を経て、2014年に神奈川大学工学部に着任。現在は神奈川大学情報学部所属。
一般社団法人電気学会フェロー。専門は、知能情報学、人間情報学、システム工学。

システム数理概論は「ものの見方」を学ぶ場

-システム数理概論の前に、まずシステム数理学科について教えてください。システム数理学科では、4年という年月をかけてどのようなことが学べるのでしょうか。
秋吉先生
 神奈川大学のシステム数理学科では、「数学」「情報学」「数理的視点」を学ぶことができます。これらは、日常生活や社会生活におけるさまざまな現象をモデル化(数理モデリング)する際に必要となる知識です。数理モデリングとは、社会生活で起きるさまざまな現象の本質を、数学やシステムモデルで表現することです。

-初年時の必修科目である「システム数理概論」はどういった授業ですか。秋吉先生 システム数理概論は、本学科におけるいわば「入り口」です。この授業は、物事の本質を見つめるために必要な「ものの見方」を学ぶ場です。
 
昔と違い、今はコンピュータの中に広がる世界のサイバー空間と、現実の世界を行き来するようになりました。これらを行ったり来たりするためには、両方の世界の物事をきちんと見ることが必要になります。それでは、「物事をきちんと見る」とはどういうことを指すのか。これは、さまざまな角度から見つめることがポイントとなります。角度(視点)を変えて見ると、世の中の出来事はいろいろな見方ができるのです。

「8つの視点で整理」「3教授によるリレー授業」が最大の特長

-「ものの見方」をどのように学ぶか、詳しく教えてください。
秋吉先生
 神奈川大学のシステム数理概論では、先ほどお話しした「さまざまな角度から見つめる」ことを8つの視点に分類・整理して教えています。ある現象や対象を、8つの視点を用いて捉えていくということです(下図参照)。

例えば、「論理的視点」は、矛盾がない世界をどのように作るかを考える視点のことです。私たちが住むリアルの世界には矛盾が多く存在しますが、コンピュータの世界では矛盾があっては計算ができません。そこで、矛盾がないかをチェックする必要があります。「計算量的視点」は、ある計算を解く時に、現実的な時間内で終わるかを考える視点のことです。仮に解くのに1万年かかってしまうとしたら、他の方法を考える必要がありますよね。

このように、整理された視点を通して、ものの見方を習得してもらえるようにしています。この8つの視点の概念は、本学のシステム数理学科のオリジナルなので、大きな特長の1つです。

-その他にも、神奈川大学のシステム数理概論ならではの特長はありますか。
秋吉先生
 3人の先生が数回ずつ講義を担当する「オムニバス形式」で構成されている点ですね。オムニバス形式の授業自体は珍しくないのですが、バックグラウンドの異なる3人が担当している点がユニークで、特長です。私は工学の面から応用数学を学んだ研究者、他の2人は情報科学の基礎数学を学んだ研究者と、理工学の面で情報と数学を学んだ研究者です。三者三様の異なる視点からシステム数理概論にアプローチしてもらおうという狙いがあるため、この形式にしています。

システム数理の学びによって社会を変革してもらいたい

-授業をされる際に意識していることがあれば、教えてください。
秋吉先生
 理解しやすいように、なるべく身近で想像しやすい例で説明したり、演習を出すようにしています。例えば、「ゴールデンウィークにリゾート地に行きます。どのような経路で行くと、ガソリンの消費量と疲労度を合わせた観点から最小にできるでしょうか」「目盛りのない3つの異なる大きさの容器に入った水を、6リットルずつに分ける方法を考えましょう」といった感じです。

身近な例にすることでとっつきやすくなりますし、同時に、日常生活を送る中でも、事象をどう見るかという視点を常に意識することに繋がるのではないかと思っています。そのため、「スマートフォンの画面ばかりでなく、周囲を見渡しながら歩いて」「身の回りのことに目を向けて」というメッセージも授業中に繰り返し伝えています。

-授業を通じて「ものの見方」を学び、新しい視点で日常生活を見るようになったら、何が変わるのでしょうか。
秋吉先生
 ものの見方を学んだ後に身の回りのことに目を向けてみると、見え方が変わるはずです。見え方が変われば、そこから深く探究して分析をしたり、問題を解いてみようと思うかもしれないですね。

例えば、毎日の通学路が、ある日を境に別世界に見えるようになるかもしれません。大学に行く時、駅の改札で交通系ICカードをタッチすれば、自分が乗った駅、降りた駅が記録されます。電鉄会社はその情報をもとに、利便性や快適な移動を実現させるための工夫を考えます。「ICカードをタッチする」という行動だけではなく、「電鉄会社にデータを渡し、これが将来の快適な移動につながっている」と考えるようになるかもしれません。

また、花火大会に行ったら、交通渋滞に巻き込まれたり、混雑によって十分に楽しめなかった、という経験をしたことはありませんか。来場した人たちが花火大会を楽しめること、また、会場近辺に住む人たちも含めた全員の安心安全を維持することは大切です。そのためには、人の流れなどを分析、コントロールする仕掛けが必要ですが、数理モデルを用いると、この仕掛けを作ることができます。「混んでいて大変だなぁ」という感想をもつだけでなく、「こんな混雑が起こらないように、どのような仕掛けが作れるかな」と考えるようになるかもしれません。

-新しい見方、そしてそれを起点とする「数理的な考え方」ができるようになったら、社会でどのように生かすことができるでしょうか。
秋吉先生
 学んだことは、社会で大いに役立てるべきです。システム数理概論を入り口として、システム数理学科での4年間の学びは、「世の中を豊かにすること」「社会課題を解決すること」に役立てることができると思います。便利になる、効率が良くなる、コストが下がる。それから愉快になる、といったことも含まれるでしょう。
安心で安全な、さらには「愉快な」社会を作るために、実はシステム数理の知識が社会生活基盤として根を張って支えています。いわばシステム数理は「縁の下の力持ち」なんです。

-システム数理学科の学生に、どのような人材になってもらいたいと思っていますか。
秋吉先生 世の中をもっと良くするために、システム数理の学びを使ってほしい。情報技術をもとに、社会を変革できる人材になってもらいたい。そう思っています。
社会を変革できる人材を輩出することが、私自身ができる社会貢献だと考えています。

-ありがとうございました。

●システム数理概論 シラバス(授業計画)
https://webstation-koukai.kanagawa-u.ac.jp/syllabus/2023/330/330_13HB001_ja_JP.html


■コラム:「システム数理概論」の授業をのぞいてみた!

毎週月曜の2限目、神奈川大学の横浜キャンパス(横浜市神奈川区)。情報学部 システム数理学科の1年生を含めた約140名が続々と講義室に入っていきます。ここはシステム数理概論を学ぶ教室。席につくと談笑しながらパソコンとノートを開いて準備をします。講義が始まると、学生たちは講義スライドを真剣な眼差しで見つめながら授業を聞きます。この日の講義は、情報科学を専門とする西澤弘毅先生が担当です。講義のキーワードは「探索」。

講義中、「目盛りのない3つの異なる大きさの容器に入った水を、6リットルずつに分ける方法を考える」という身近な例を用いた演習問題が出されました。この演習を解く際、パソコンをにらみながらプログラミングをするのかと思いきや、周囲と相談したり、ノートに書き出しながら取り組む様子が見られました。
また、教室には先生の他に、先輩に当たる大学院生がサポートのために巡回しています。気さくな先輩に教えてもらいながら安心して演習に取り組める環境がそこにはありました。


YOKOHAMAから未来を変える研究は、現在進行中です。
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情報学部 システム数理学科の詳細は下記よりご覧いただけます。

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