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住民税控除額や受入額データで見るふるさと納税の影響-ふるさと納税による流出入額はどの程度?-

神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
中村春樹・浦沢聡士

経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、ふるさと納税に係る住民税控除額や受入額データを使って見えた横浜市の姿を紹介します。横浜市ではふるさと納税によりどういった影響を受けていると思いますか?


 横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、住民税控除額や受入額データを使って、ふるさと納税により横浜市の税収がどの程度減り、また横浜市への寄付がどの程度増えているのかを見る。

 まず、データの説明に先立ち、「ふるさと納税制度」のおさらいから始める。制度のポイントは、納税者が自分で選んだ自治体に寄付を行った場合に(これを、ふるさと納税と呼ぶ)、特例的に寄付額のうち2000円を超える分について、一定の上限のもとに原則全額が住民税や所得税の納税額から控除されるといった点にある 。その元来の趣旨は、生まれ育った故郷や応援したい自治体に対し、自分の意志でいくらかでも納税を行うことを可能にするものと説明されている。

 要すれば、納税者が、その一部とはいえ、本来は自分が住んでいる自治体(住民票のある自治体)に納めるべき税を自分で選んだ他の自治体に寄付できる制度と言えるが、その是非は別として寄付を受けた自治体からの寄附者へのお礼(いわゆる返礼品)の存在を介し、税を巡る自治体間の競争が促されることとなっている。その結果、自治体によって、他の地域から税が流入する(寄付が集まる)自治体もあれば、逆に他の地域へ税が流出してしまう(他の自治体への寄付により本来納められる税がその分減少する)自治体も出現することとなる。

 住民税控除額データは、各自治体に納められる住民税のうち税の支払いが免除される額を記録するものであるが、「ふるさと納税制度」によるものに着目すると、制度のもとでの各自治体からの税の流出額を捉えるものと言え、「ふるさと納税に関する現況調査」(総務省)よりダウンロードすることが出来る。調査の中では、あわせて各自治体への税の流入額を捉える寄付の受入額データについても報告されており、毎年のデータが、その年が終わってから概ね半年後に公表されている(例えば、2022年度の受入額や2022年に行われたふるさと納税に適用される2023年の控除額のデータは2023年8月に公表)。

 このように、「ふるさと納税に関する現況調査」を用い、ふるさと納税の影響を受けた税の流出入状況を見ることができるが、近年の推移を見た時、「ふるさと納税制度」のもとで横浜市の税収はどの程度減り、また横浜市への寄付はどの程度増えてきたのだろうか。

 まず、図1を用いて、横浜市の流出額(赤色)を見ると、2023年には272億円と、全国の自治体の中で最も大きくなっている(次いで、名古屋市、大阪市、川崎市の順)。ただし、これは全国で一番人口規模が大きく、その結果、「ふるさと納税制度」の利用者が多くなっていることが背景にある。実際、市民(およそ377万人)一人当たりの額に換算すると、7200円程度と、2番目に流出額が大きい名古屋市の6800円程度と比べても、概ね同程度となっている。次に、図2を用いて、流出額の拡大ペースを全国的な動きを含め比較すると、2016年から2023年にかけて8~9倍と、流出額の規模が大きい他の都市と同程度となっていることが確認できる。

 一般に、税の流出額が大きいことは自治体の財源を減らすことになるため、行政サービスへの影響も懸念されるが、横浜市については、(地方交付税の交付団体であり)流出額の4分の3が国から補填されており、実質的な税収の減少は70億円弱(市民一人当たりでは1年間で1800円程度)にとどまっている。

 図3では、今度は、横浜市の流入額(赤色)を見ているが、大都市に顕著な特徴でもあるように、2022年度には4億円と、流出額に比べその額は圧倒的に小さい。横浜市では、2023年度から本格的に寄付受入の取組強化を図り、寄付用ポータルサイトの複数化や横浜らしい返礼品の充実といった取組を通じて流入額の増加を目指している(2023年12月時点で流入額が10億円に達したとの報道もある)。これに関して、近年、流入額の拡大を実現させている名古屋市の取組(2021年10月に返礼品を大幅に拡充、リニューアル)は1つの参考になるかもしれない。図4では、ふるさと納税の受入件数を示しているが、名古屋市では、2021年度以降受入件数の増加とともに流入額が増えていることが確認できる。

 近年、控除上限の倍増やワンストップ特例といった制度改正の影響もあり、制度自体の規模が拡大している。そうした中、これまで税の流出主体であった大都市においても寄付の獲得に向けた積極的な動きが見られるようになっている。こうした自治体間での税の獲得競争は今後も続いていくのであろうか、また、そうした中で横浜市の取組は流入額を増やすことになるのであろうか。「ふるさと納税制度」のもとでの市の取組を評価する上でも、また、市の財政に与える影響を見る上でも、住民税控除額や受入額データは欠かせない。


[1] 確定申告が不要になる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用した場合、所得税からの控除は行われず、その分も含めた控除額の全額が、翌年度の住民税から控除される。