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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学の教員が大学と学問の魅力を伝えるために執筆したエッセイです。自身の経験など踏まえ個性豊かな作品が多数収録されています。 1986年創刊、2020年か…
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#国際日本学部

「未知の知」への誘い 難解本の扉を開けて

 大学は、自分を深め、高めていく場所です。 私は大学入学から20歳までは、とても多感で敏感な学生でした。 大学入学前後は、アルチュール・ランボーの詩『地獄の一季節』や中原中也の詩が好きで、詩は書くのも読むのも大好きでした。創造的感性を一番大切にしていた頃かもしれません。 同時に哲学に憧れがありました。大学ではヘーゲル哲学を学びたかったのですが、他方、国際にも興味があり、結局は、国際関係で身を立て、今に至っています。国際政治分析は、自分が人と異なる分析ができる得意分野で天職かと

良い子は真似しないでね

今から書くことは、良い子は決して真似してはいけません。もし万が一真似しても、私は責任をとれませんからね。 貧乏ではないけど裕福でもない母子家庭に育った私は、「良い大学に入って良い仕事に就いて安定した生活をする」という模範的な目標を胸に中高六年間を真面目に過ごしました。高校では吹奏楽部に没頭した時期もありましたが、勉強はずっと真面目にやっていました。大学受験では滑り止めなしで第一志望に現役合格。ここまでは文句なしで「良い子」でした。 ところが、大学に入ってから……はじけちゃい

大学での出会い、そしてその先へ

 私が大学に入学したのは1986年、皆さんほとんどの方が生まれるずっと前、もう35年も前の話です。皆さんは、もしかすると1986年なんて想像つかないかもしれません。「戦後すぐでまだ日本が貧しかったころ?」なんていう人もいるかも。でも当時は戦後41年も経っていて戦後ではないし、貧しい時代では全くありませんでした。それどころかちょうどバブルの始まりのころ、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』というエズラ・ヴォーゲル氏の著書が有名になった1979年からもう何年も経っていて日本経済は絶好

妖怪が語る近世 ―「ヘマムシヨ入道」を読む―|関口博巨

 子どものころの日曜日の夕方、私は水木しげる原作のアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』を欠かさずに観ていた。「ゲッゲッゲゲゲのゲー、朝は寝床でグーグーグー、楽しいな楽しいな、お化けにゃ学校も試験もなんにもない……」というオープニングの歌をききながら、本気でお化けや妖怪を羨ましく思っていた。その名曲は、日曜の終わりと憂鬱な一週間の始まりを知らせる合図のようでもあった。鬼太郎は大好きだけど、この歌をきくと勉強嫌いの私の気分は落ち込んだ。  『ゲゲゲの鬼太郎』は妖怪ブームの先駆けといわれる。

言の葉ノートを開く時~言葉の記憶|原 良枝

 あなたの好きな言葉は? 心が動いた言葉はありますか。  例えば「意志あるところ道は開ける。」よく聞く言葉だとは思いますが、私にとっては特別で大切な言葉です。大学三年生の秋、将来の進路を決めかねて安易な方向へ進もうとしていた時に友人がかけてくれた言葉だからです。不思議なもので、この言葉を口にすると私はたちまち大学生へ逆戻りし気持ちまで若返ります。まるで、タイムマシンのような作用を引き起こすマジックワードです。  私はこういった好きな言葉や気になる言葉、小説の一節などをノート

「リベラル・アーツ」とは何か?|深澤 徹

 せっかく法学部や工学部(ここは経済学部や理学部、医学部や看護学部でもかまわないのだが)に入ったのに、その学部に特有の専門領域をあつかう科目は、なかなか受けさせてもらえず、その前に、めんどくさい語学とか、高校の授業の延長のような一般教養なんかの、まどろっこしい科目ばかり受けさせられて、うんざりだ!  大学に入ったばかりの新入生は、そんな感想を抱くのではないだろうか。どうしてこんな回り道をしなければならないのか。こんなことやって、なんの役に立つのか、と。  一般教育とか、共通教