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あさは、夜のつぎ

 トレンチコートが秋風に揺れる。ひと月前まで半袖を着ていたのに。1時間早く家を出たから、いつもより冷えている。いつもと違う朝であることが嬉しくて、家から10歩ほど歩いた所で立ち止まってみる。空気が澄んでいて、深呼吸しがいがある。

 ここら辺に住みついている3匹の猫のうちの1匹が向かってくる。愛くるしいその姿に自然と笑みが溢れる。近所の誰かが手懐けているのだろう、人間に慣れている。猫に背を向けて歩き出す。

 朝の繁華街はまだ昨晩に人々が交わり合った余韻が残っている。耳をすませばその声が聞こえてきそうだ。昨晩の街を想像しながら、直近の楽しかった夜と重ね合わせる。今晩は飲みに出掛けてみるか。

 幼少時代、コンクリートの色の付いている所だけを歩いた。誰にも言えないが、今もやっている。左足で白線を踏むと、右足でも白線を踏まないと気が済まない。誰にも気付かれないように、色の付いた道を交互の足で踏みながら歩いている。

 喫茶店に行こうと思って外に出たが、街を歩くだけで満たされしまった。どうでもいいことを考えながら家の周りを歩くことって意外と機会が無いことに気づく。毎日家の周りを歩いているが、朝は忙しないし、帰り道は空腹であることが多いから、頭が回っていなかったんだろうな。

 まだ妻は寝ている。静かにコーヒーでも飲むか。



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