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上田優紀ネパールの山をゆく

 1988年生まれの写真家、上田優紀(うえだゆうき)さん。この5年くらいはヒマラヤの山に登って撮影をしている。アマ・ダブラム、マナスル、エベレストの3つの山に登った。
 その中で一番有名なエベレストの話をするトークイベント「ネパールの山をゆく」が2024年2月24日(土)にとしま区民センター(東京都豊島区東池袋1-20-10)で行われた。
 活動的な上田さん。先週までアイスランドそして来週からスリランカでシロナガスクジラを海中で撮影する予定となっている。
 「山だけでなく地球の自然を全部撮りたい」と上田さんはいう。

 エベレストの標高は8848メートルとされる。「しかし、地殻変動で年々高くなっているといいます」と上田さん。世界には8000メートル超えの山は14ある。そのうちの2つを上田さんは登っている。
 もちろん危険を伴う。
 山の8000メートルより上のことを「デスゾーン」というと上田さん。「空気が地上の三分の一で、(適切な対応を取らないと)10-20分で死ぬような場所です。実際、死体がごろごろ転がっている場所でした」。

アイスフォール(氷の滝)
 登り始めて最初の難関は「アイスフォール」だと上田さんはいう。フォールとは滝のこと。「ここからが本当に山に入ってゆくというイメージです。ビルの3階とか5階ぐらいの氷の固まりがごろごろしていて、それが当たれば死ぬし、当たらなければ越えてゆかれる」。
 「運がいいか悪いか、ロシアンルーレットのように危ない所です」。
 クレバスも危ない。上田さんは「雪に隠れているのです。クレバスという穴がです。とても危険です。(エベレスト登山で)一番人が亡くなっているのはクレバスかもしれません」と語った。
 そういう危険を乗り越えていきたい気持ちから山に入る前に行う「儀式」があると上田さん。「”プジャ”とよばれるお祈りで、石で祭壇を作って、山の下からお坊さんを呼んで2時間くらい読経してもらいます」。
 「そのために2日前くらいから皆で祭壇を作るのです。この儀式をしないと山に入ってはいけないというしきたりがあります」。
 登頂間近になっても安心出来ない。

登頂間近の「渋滞」で亡くなる人も
 「8750メートルくらい登るとすれ違うことが出来ないので渋滞が起きます。天候がいい時をみな狙うので人がたまる。2010年代終わりに大渋滞が起きて最大10時間くらい進めず戻れずだったそうです。酸素ボンベは1本6時間なので、酸素切れで亡くなった人がいたそうです」。
 「死体の利点」があるという。「死体はル―ト上にあるので目印になるのです。あの死体のところを右側にとか」と上田さん。
 上田さんの経験では「8500メートルくらいになった時に太陽が昇ってきてくれて朝になりました。暖かさに光というエネルギーを感じ、希望のように見えて印象的な風景」だったという。
 出発から帰国までだいたい2か月かかった。
 では登山料はいったいいくらだったのか?日本からの場合、「およそ500-1000万円といわれています」。
 「ぼくの場合は800万円くらいかかりました。半分は写真家として稼いでいるので自前で負担して、残りをスポンサー企業4社に均等で支払っていただきました」と上田さんは話した。
 エベレストに登って上田さんが強く思ったことは「自然にとって人間なんて関係ないってことです。意思なく人を殺すし助けもする」ことだという。

上田優紀「エベレストの空」(光文社新書)

 上田さんは京都外国語大学を卒業後、24歳の時に世界一周の旅に出て、1年半かけて45か国を回る。帰国後就職。2016年よりフリーランス。写真集「空と大地の間、夢と現の境界線ーEVERESTー」(玄光社)もある。

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