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リンゴのソロ作品を聴け!

 ビートルズ・ファンであっても、1970年のグループ解散後の4人のソロ作品を追いかけている人は限られているようだ。ジョン・レノンやポール・マッカートニーのソロ・アルバムならいざしらず、リンゴ・スターのソロ時代の作品をフォローし続けている人は”絶滅危惧種”なのではないか。
 リンゴの代表作は、今でも『リンゴ』(1973)だと信じている人が多い。確かにいいアルバムだと思う。他の元ビートルズ3人が制作に参加したことから「ビートルズ再結成か」などと騒がれた。


 いい曲が入っていると思う。リンゴとジョージ・ハリスンの共作「想い出のフォトグラフ」とカバー曲「ユア・シックスティーン」の2曲は全米ヒットチャート首位を獲得したほど。「オー・マイ・マイ」も最高5位。
 私は『グッドナイト・ウィーン」(1974)『リンゴズ・ロートグラビア』(1976)といったアルバムもよかったと思う。『ウィングズ~リンゴIV』(1977)のタイトル曲も渋くて大好きだった。
 『バッド・ボーイ』(1978)はちょっといただけなかったかな。ジョンの死後リリースされた『バラの香りを』(1981)はジョージやポールが参加していてPR効果が高かったわりには今一つ。
 『オールド・ウェイヴ』(1983)は当時流行っていた「ニュー・ウェイブ」に対抗してという心意気はよかったと思うけれど、ジョー・ウォルシュのサウンドがリンゴに合っていないような気がした。
 80年代の大半はリンゴにとって「暗黒の時代」だったのではないか。アルコールやドラッグにおぼれ、妻バーバラとともにリハビリ施設に入っていた。復活の兆しは、ジョージとともにステージに立ったチャールズ英皇太子(現国王)主催の「プリンス・トラスト・コンサート87」だったと思う。89年には今まで続いているオール・スター・バンドが立ち上がった。
 1992年、9年ぶりのオリジナル・アルバムが届けられた。『タイム・テイクス・タイム』だ。ジェフ・リン、ピーター・アッシャー、フィル・ラモーンら豪華プロデューサーに支えられ、「ウェイト・オブ・ザ・ワールド」などビートリーな楽曲もあって、リンゴの復活を印象づけた。

 その後、リンゴはコンスタントにスタジオ・アルバムを発表していく。
 〇『ヴァーティカル・マン~リンゴズ・リターン』(1998)
 (「ラヴ・ミー・ドゥ」のセルフカバー、ジョージがスライドを弾く「キング・オブ・ブロークン・ハーツ」など聴きどころあり)
 〇『アイ・ウォナ・ビー・サンタ・クロース』(1999)
 (リンゴの人柄ならではの楽しい楽しい楽しいクリスマスアルバム。ビートルズの「クリスマス・タイム・イズ・ヒア・アゲイン」のカバーも)


 〇『リンゴラマ』(2003)
 (ジョージを追悼する「ネバ―・ウィズアウト・ユー」収録)
 〇『チューズ・ラヴ』(2005)
 (リンゴ版「マイ・スウィート・ロード」の「オー・マイ・ロード」も)
 〇『思い出のリヴァプール』(2008)
 (デビュー前のハンブルクの話、ビートルズの全米進出の話などが盛り込まれているタイトル曲が聞きもの。懐古趣味を強めていくリンゴ)
 〇『ワイ・ノット』(2010)
 (ポールがベースとボーカルで参加した「ウォーク・ウィズ・ユー」。インド風サウンドが聞かれるタイトル・ナンバーなどよく出来たアルバム)


 〇『リンゴ2012』(2012)
 (バディ・ホリーのカバー「シンク・イット・オーヴァー」。「ウィングズ」と「ステップ・ライトリー」をセルフカバー)
 〇『ポストカーズ・フロム・パラダイス』(2015)
 (リンゴがビートルズ以前にいたバンドを歌った「ロリー・アンド・ザ・ハリケーンズ」。ビートルズの曲名が多く盛り込まれている表題曲)
 〇『ギヴ・モア・ラヴ』(2017)
 (オープニングの「ウィアー・オン・ザ・ロード・アゲイン」にはポールがベースで参加。「バック・オフ・ブーガルー」のセルフカバーも)
 〇『ホワッツ・マイ・ネーム』(2019)
 (ジョンの「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」をカバー。ライブで自分の名前を言わせるためによく口にする「俺の名前は何だ?」を歌に)
 〇『Zoom In』(2021)
 (5曲入りのEP)
 〇『チェンジ・ザ・ワールド』(2021)
 (4曲入りのEP。うち1曲は「ロック・アラウンド・ザ・クロック」)
 〇『EP3』(2022)
 (4曲入りのEP)



 ビートルズが4人一緒だった時のマジックが忘れられないという人が一人一人になった「ビートル」たちにあまり関心を示さないようである。
 しかし、考えてみてほしい。1970年にグループが解散して、80年にジョンが亡くなり、2001年にはジョージがこの世を去り、健在なのはポールとリンゴだが、みんな解散後の人生の方が長いのだ。
 そこを無視して、やれジョンだ、ポールだ、ジョージだ、リンゴだといっていて、なんだか物足りなくはないのか。
 彼らの解散後のソロ・アルバムにも素晴らしいものが少なくない。『ジョンの魂』、『イマジン』、『ダブル・ファンタジー』『バンド・オン・ザ・ラン』、『タッグ・オブ・ウォー』、『ラム』、『オール・シングス・マスト・パス』、『クラウド・ナイン』などなど。
 1960年代という時代のせいでもあった。ビートルズは自らが輝き、時代の輝きにも照らされていた。70年代以降のビートルたちにはシックスティーズという時代の光が足りなかったのかもしれない。でも・・・なのだ。
 とりわけリンゴのソロ作品、特に2000年以降、軽視されすぎだと思う。


 

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