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「正道派」今井正監督

 戦後日本映画の左翼ヒューマニズムを代表する名匠である今井正監督。独立プロの旗手として数々の社会派作品を生み出した。人の心に寄り添う情緒的な作品も得意とした。キネマ旬報ベスト・テンでは5本の監督作品がベスト・ワンに選出されるなど、内外での受賞歴多数。
 そんな今井監督の作品8本が2023年6月14日(水)から20日(火)まで上映される。会場は「ギャラリー古藤(ふるとう)」(東京都練馬区栄町9-16:電話03-3948-5328)。最寄り駅は西武池袋線の江古田駅、西武有楽町線の新桜台駅、都営地下鉄線の新江古田駅。
 電話あるいはメール(hwge7555@nifty.com)で予約されたし。チケット代は大人(当日)1200円、(予約)1000円。大学生・ハンディのある方800円。高校生以下無料。チケット3枚つづり2700円。トークがある時は上記料金に含まれる。トークのみは500円。予約優先入場各回35名定員制。上映日程はホームページ(http://furuto.info)で確認のこと。

 上映作品は次の通り。
『どっこい生きてる』(1951年)-出演:河原崎長十郎、河原崎しづ江、中村翫右衛門ー日雇い労働者一家の食うや食わずの生活と絶望から再起に向けた格闘を描いた作品。レッド・パージで追放された映画人らによる独立プロ運動の初期の作品。

『山びこ学校』(1952年)-出演:木村功、岡田英次、杉葉子ー教育者である無着成恭(むちゃく・せいきょう)による山形県山元村中学校の文集「山びこ学校」をもとに、八木保太郎が脚本を担当し、今井正が監督した教育の在り方を問うドラマ。

『にごりえ』(1953年)ー出演:淡島千景、丹阿弥谷律子、田村秋子、久我美子―樋口一葉の短編小説「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」をオムニバス形式で映画化した作品。明治時代、市井の片隅に生きた女たちの苦悩と哀しみを切々と描いた。

『ここに泉あり』(1955年)ー出演:岸恵子、岡田英次、小林桂樹ー「人々に音楽を」の合言葉のもとに生まれた市民オーケストラが、群馬交響楽団へと成長する草創期の実話を舞台としたヒューマンドラマ。

『キクとイサム』(1959年)-出演:北林八栄、高橋恵美子、奥の山ジョージー水木洋子のオリジナル脚本を今井正が監督し映画化。会津磐梯山の農村を舞台に、戦後日本の混血児問題を真正面から描いたドラマ。

『橋のない川 第1部』(1969年)ー出演:北林谷栄、伊藤雄之助、長山藍子ー住井すゑのベストセラー小説を映画化。明治から大正にかけて、人間の尊厳をかけて激しく生き抜いた人々の生活を描く。
『橋のない川 第2部』(1970年)ー出演:北林谷栄、伊藤雄之助、長山藍子ー奈良盆地の未開放部落を舞台に、根強く残る差別を乗り越え「全国水平社」を創立した貧しい兄弟の姿を描いた作品の第2部完結編。

『婉という女』(1971年)ー出演:岩下志麻、北林谷栄、江藤真二郎ー土佐藩家老・野中兼山の死後、政敵の謀略により、40年間幽閉された女医・野中婉の生涯を記した大原富枝の小説を映画化した。

独立プロ運動の中心人物に 
 今井正は1912年、東京に生まれた。高校時代からマルクス主義に関心を持つ。そのために特高ににらまれて東京帝国大学を中退。東宝の前身であるJ.O.スタヂオに入る。入社2年目の37年、監督に昇進する。
 戦後は東宝を退社。「共産主義狩り」であるレッド・パージが吹き荒れる中、大手映画会社に属しない独立プロ運動の中心人物として活躍を始める。まずは『どっこい生きてる』で日雇い人夫たちの生活を描いた。
 今回の特集上映のサブタイトルに「独立プロの時代」とあるが、昭和初期のまだまだ5社協定が盤石だった時代に自由を求めて独立して映画製作に打ち込んだ監督たちが活躍した、その時代のことである。もちろん、今井正は独立プロ運動の中心にいた人物で「正道派」ともいわれる作風で知られた。
 話は戻ると、その後、東宝に招かれて『ひめゆりの塔』を監督した。沖縄戦で看護婦として前線に送られたひめゆり学徒隊の悲劇を描く。
 さらには、文学座と組んだ『にごりえ』、市民オーケストラの草創期を描いた『ここに泉あり』なども発表し、評判となる。
 56年、山口県で起きた強盗殺人事件、いわゆる「八海(やかい)事件」の裁判で弁護士を担当した正木ひろしの手記を映画化した『真昼の暗黒』を監督する。57年には農村の貧困を描いた『米』を監督。

主要映画賞を総なめした『キクとイサム』
 59年、人種差別問題をテーマに『キクとイサム』を監督し、黒人との混血の姉弟と彼らの育て親である老婆との交流を描いた。
 『キクとイサム』は高い評価を得て、59年のキネマ旬報ベストテン日本映画監督賞、同日本映画ベスト・ワン、毎日映画コンクール日本映画大賞、ブルーリボン賞作品賞といった主要映画賞を総なめにした。
 住井すゑの小説をもとに「橋のない川」の映画化も手掛けた。69年に『橋のない川 第1部』、70年に第2部を製作した。
 71年には、長年幽閉生活を強いられた家族を描いた『婉という女』を監督した。その後、プロレタリア文学の代表的小説家である小林多喜二の生涯を描いた『小林多喜二』などを監督する。
 今井正は91年11月22日に亡くなる。79歳だった。





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