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神宮外苑シンポジウム

 「明治神宮外苑と気候変動~人新世、脱炭素社会で求められるまちづくりは?」と題した公開シンポジウムが2023年9月25日(月)に新宿区四谷地域センター(東京都新宿区内藤町87)で開かれた。

秩父宮ラグビー場へと続く道沿いの18本の銀杏 


 斎藤幸平・東京大学大学院総合文化研究科地域文化科学専攻准教授は、資本主義はもう地球全体を覆いつくすほどになってフロンティアはなくなり経済成長の領域がなくなっているにもかかわらず何とか成長しようとしている、それが顕著に表れているのが神宮外苑再開発計画だという。
 「使えるものをぶっ壊してまた作る。神宮外苑再開発計画の場合はスタジアム。また無料のものをむりやり高い値段で売買する。この場合は区民、市民のスポーツ施設をプロの施設あるいは会員制の施設にする」。
 「そして高さ制限を取っ払うことで新しいフロンティアが横にないのなら上にということ。つまり伊藤忠の建物だ」と斎藤准教授は説明した。

斎藤幸平「人新世の「資本論」」(集英社新書)


 斎藤准教授は続けた。「商品になってしまえばお金を払う人たちだけの独占物になるのです。コモンズが商品にされていくという問題です。コモンズとはモノだけでなく、伝統、文化、知識なども含まれ、そういうモノが失われて行けば暮らしにくい社会になってしまいます」。
 「過剰開発の末路は地球環境や社会の冨の破壊です。しかし、そういったことは(利潤を生みだすことが最大の目的である)資本主義にとっては二次的なことにすぎないのです。資本主義の行き詰まりは神宮外苑だけに留まる話ではなく、リニア、大阪万博、札幌五輪もそうなのです」。
 では行き過ぎた「略奪」「蓄積」を逆転させるにはどうしたらいいのだろうか?斎藤准教授は「コモンを増やしていくこと」だという。だが、そういう論理は企業の中にはなく、市民がもう一回「コモンを自治していく」ことが重要だと斎藤准教授は指摘、今やそれが世界の潮流だと話した。
 そして斎藤准教授はつけ加えた。「今の過剰開発は都市の魅力を失わせることになると危惧しています。ハーバード大学の研究にあるように、市民の力が3.5%になれば計画は止められます」。

シンポジウム会場

 NPO法人エコロジー・アーキスケープの糸長浩司理事長は神宮外苑を「都市の里山空間」だと位置づけて、焦点はSDGs(持続可能な開発目標)からSEGs(持続可能な環境目標)へと移ってきていると語った。
 「環境権、自然権の保証。持続可能な環境を維持していこうということです」と語るとともに、「巨大資本からの離脱による建築、まちづくりへの転換」を糸長理事長は訴えた。「脱炭素に逆行する都市再開発の異常さ。スクラップ&ビルド型都市開発(を推進する)日本は異常です」。
 その「解体して建築」を真似ているのが中国と東南アジアだという。
 建物、緑、水といったストックを活用し、市民参加型の都市づくりを法的根拠も含めて目指していくべきだと糸長理事長は訴えた。
 糸長理事長は神宮外苑によるCO2排出についても試算を明らかにしたーー56.55万トンのCO2を排出。6.4万トンの森林吸収。これは東京の森林の面積の約8割にあたる。10年で割ると0.64万ヘクタール。それぐらいの森がないといけないという話ーーだという。

年金と神宮再開発問題がからみあって
 さらには私たち自身もかかわりがあるのだと糸長理事長はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を例にあげた。GPIFは私たちが払った年金保険料を信託会社に運用を任せて年金として支払っている。
 「資本市場のクジラ」といわれるGPIF。積立金の資産総額は191兆円。国内上場企業株式での運用売買は約48.9兆円。これは日本全体の株式時価総額のおよそ5%にあたるという。
 糸長理事長が入手した資料によると、GPIFの個別企業への持ち株比率は、神宮外苑の事業者である三井不動産の場合は8.69%そして伊藤忠株では8.19%。ほかにはゼネコンの大成建設が9.41%、鹿島が8.31%、大林組が8.06%だった。
 GPIFはESGを謳いながら、日本マスタートラスト保証信託会社などの運用会社に投資先の判断を一任しているという。糸長理事長は「GPIFの投資先企業の監視が必要です」と語った。
 斎藤准教授と糸長理事長にコンサルタントのロッシェル・カップさん、東北大学環境科学研究所の明日香壽川教授、一級建築士の竹内昌義さん、若手代表として20代の山崎さんが加わり、公開シンポジウムとなった。

ロッシェル・カップ(左)と明日香壽川


 神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えを前提とした「建て替えありき」の開発というのは今の時代に合わないとロッシェルさんは言った。
 ロッシェルさんは「新しいビルを建てるかわりに今あるものを改修するべきだ」と語った。さらに「日本の文化の特徴ですが、一度決めたら、その後で変えるのは不可能に近い。本当にそれでいいのでしょうか?」
 「一度決めたからというだけで考えずに続けるところが今の時代に合わないということだと思います」とロッシェルさん。
 一級建築士の竹内さんは海外の都市開発の例を紹介した。パリは五輪に向けて市内から車を追い出して「緑の町」にしようとしていますと紹介。
 また、斉藤准教授はウィーンを訪れた際、町のいろいろなところにポスターが貼られており、そこには「Fuck Car」(車なんてくそくらえ)と書かれていたと回想した。また、マニシパリティが進められている欧州都市の例としてバルセロナとアムステルダムを挙げた。
 20代の山崎さんは「SDGsは日本でもすごく浸透しているのだけど、事業が将来世代、子どもたちのことを考えて行われているわけではない。その典型が神宮外苑だと思います」と述べた。
 明治神宮外苑は1926年、日本全国の人々からの寄付や勤労奉仕といういわゆるボランティアで創建された。明治天皇を慶顕するためだった。イチョウ並木など豊かな緑は都会のオアシスとなっている。
 それが今回の再開発計画では200メートル級の高層ビルが建てられ、多くの樹木が伐採されることになっており、反対運動が起こっている。明治神宮、JSC、三井不動産、伊藤忠商事、東京都が進めている再開発計画。
 神宮外苑再開発問題の背景としてしばしば指摘される明治神宮の財政問題については、すでに超党派の国会議員連盟の船田元衆議院議員(自民党)からクラウドファンディングを利用してはどうかとの提案も出ている。


 

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