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アーツ・アンド・クラフツ

 19世紀にイギリスで活躍したデザイナー、詩人、社会運動家であるウィリアム・モリスは、職人仕事を尊び、美術工芸品は日常生活に根ざすべきだとする「アーツ・アンド・クラフツ」というデザイン運動を提唱した。
 産業革命によって生まれた機械化による粗悪な量産品や、職人の仕事を軽視する商業主義を批判し、上質なものづくりや天然素材の価値を見直すことで、日常に根ざした多彩な美術工芸品を生み出した。
 モリスが提唱したアーツ・アンド・クラフツの精神は同時代のデザイナーや建築家たちの共感を呼び、イギリス以外のヨーロッパの国々やアメリカ、さらには日本にまで広がった。日常生活と芸術を結びつけたアーツ・アンド・クラフツの実践は、現代のデザイン思想にまで引き継がれている。
 山梨県立美術館(山梨県甲府市貢川1-4-27)は開館45周年記念特別展「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」を2023年11月18日(土)から2024年1月21日(日)まで開催する。
 モリスの代表作《いちご泥棒》をはじめ、家具、金属製品、ガラス製品、宝飾品、書物といった160点におよぶ作品を通じて、モダン・デザインの源流となったアーツ・アンド・クラフツ運動の魅力と広がりを紹介する。

 

〇第1章「モリス・マーシャル・フォークナー商会とモリス商会」ーモリスらは1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会を開設した。この商会はステンドグラス、家具、壁紙、宝飾といった生活に必要なものを手作業で制作した。商会はのちにモリス単独の商会に改組される。《格子垣》などモリスのデザインの原点ともいえる壁紙や天然素材と多色使いに拘った多くの人に愛される人気作《いちご泥棒》などのテキスタイルを中心に、家具や書物などもあわせて展示する。

 ウィリアム・モリス《格子垣》1864年 Photo ⓒBrain Trust Inc.
ウィリアム・モリス《いちご泥棒》1883年 Photo ⓒBrain Trust Inc.


〇第2章「アーツ・アンド・クラフツ展覧会協会」ー1887年、造形芸術家や建築家たちが集まり「アーツ・アンド・クラフツ展覧会協会」が創設された。同協会は定期的に展覧会を開催し、絵画、彫刻、金工、木工、染色など多様な造形芸術を発表した。1891年からはモリスが会長を務めた。この章では、モリスがデザインしたタイルのほか、照明器具などを手がけて成功したベンソン、中流家庭の住宅設計や内装デザインを手がけたヴォイジーなど、アーツ・アンド・クラフツ展覧会協会に関わった作家たちの作品を紹介していく。

ジョージ・ワシントン・ジャック《サーヴィル肘掛け椅子》1890年頃  Photo ⓒBrain Trust Inc.


〇第3章「英国におけるアーツ・アンド・クラフツの展開」ー1896年にモリスが亡くなった後もアーツ・アンド・クラフツ展覧会は継続され、その精神はデザイン運動として広くイギリスの作家たちに受け継がれていく。本章では彼らの作品のほか、モリス商会と同じくテキスタイルや家具などを扱い、現在はロンドンの老舗百貨店として知られるリバティ商会や、英国を代表するメーカーによる宝飾品やテキスタイル、食器や銀器などを展示する。

ジェームズ・クロマー・ワット《ホワイトメタルのエナメル・ペンダント》1920年頃  Photo ⓒBrainTrust Inc.

〇第4章「アメリカでのアーツ・アンド・クラフツ」ーアメリカでは、モリスの死後、ボストン、シカゴ、ニューヨーク、デトロイトなど各地にアーツ・アンド・クラフツ協会が開設され、またアーツ・アンド・クラフツの精神や技術を教える美術学校も各地にオープンした。シカゴ・アーツ・アンド・クラフツ協会の創設メンバーであるフランク・ロイド・ライトは、モリスが提唱したような手工芸に限らない、機械制作の重要性を説き、その後のアーツ・アンド・クラフツの展開に新しい境地を拓く。現在でも人気の高い宝飾品店ティファニー社の創業者の息子が創設したティファニー・スタジオはガラス製品で人気を博した。こうしたアメリカにおけるアーツ・アンド・クラフツの展開を紹介する。

ティファニー・スタジオ《パインニードル模様のスタンプボックス》 Photo ⓒBrain Trust Inc.

 開館時間は午前9時から午後5時(入館は午後4時半まで)。休館日は月曜日(11月20日、1月8日は開館)、11月21日(火)、12月26日(火)~1月1日(月)、1月9日(火)。観覧料は一般1000円、大学生500円、高校生以下の児童・生徒は無料。県内65歳以上の方は無料。11月20日(月)の県民の日は誰でも無料。
 問い合わせは055-228-3322まで。山梨県立美術館の公式サイトは https://www.art-museum.pref.yamanashhi.jp


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