作曲家・林哲司記念ライブ
偶然は必然。そんなことを思った。
林哲司さんの作曲活動50周年を記念して「ザ・シティ・ポップ・クロニクル 林哲司の世界 in コンサート」が2023年11月5日(日)に東京有楽町の東京国際フォーラムで行われた。
およそ4時間に及んだコンサートの締めくくりは、今や内外でリバイバルブームが起こっているシティポップの代名詞ともいえる、松原みきさんが歌った「真夜中のドア~stay with me」だった。林さんの作品だ。
しかし、松原さんはもうこの世を去っている。
挨拶に立った林さんは次のように話した。
「今世界中で松原さんのボーカルが聞かれていると思います。(今日は)レコードをかけようと思ったのですが、いろいろな人たちと相談して、何と松原さんの声を使って、メンバーたちと一緒に演奏します。歌は永遠だということが分かってもらえることでしょう。彼女に捧げたいと思います」。
音楽監督の一人、船山基紀さんが指揮を務め、林さんもギターを弾いて、ステージに戻ってきた出演者全員とともに「真夜中のドア」を演奏した。
歌が終わると林さんは再度マイクに向かった。「44年前のちょうど今日、「真夜中のドア」のリリースだったんです」。
偶然は必然。そして必然というのは偶然というかたちをとって現れるのではないかと思わざるをえなかった。
さて、時計の針を4時間ほど巻き戻して、コンサートの開始に戻ろう。
オープニングは林さんの代表曲の一つ「北ウイング」。中森明菜さんで大ヒットしたが、この日はLittle Black Dressによって演奏された。続けて「逆転のレジーナ」。ボーカルとギターの女性二人組だ。
そこで林さんが登場した。まずは自分のために素晴らしいアーティストが多数集まってくれたことに謝意を表した。そして「今日は次から次へと出てくる歌は私の名義になっていますが、どちらかといえば作品が主役のコンサートになると思います」と話した。
武藤彩未さんがまず「Dang Dang 気になる」を歌った。武藤さんは河合奈保子さんが歌った「デビュー~Fly me to love」を続けて披露した。
シャンソン歌手・松城ゆきのさんによる「戀」、エミ・マイヤーさんが歌う「If I have to go away」、大滝裕子さんによる「半分愛して」と続いた後、ベテランの伊東ゆかりさんが「強がり」を40年ぶりに披露した。
稲泉りんさんによる「もう海には帰れない」、国分友里恵さんの「恋の横顔」が歌われた後、杏里がステージに上がった。歌うは「悲しみがとまらない」。会場のボルテージが一段と上がった。
杏里はもう一曲「You are not alone」。
次は土岐麻子さんが「天国にいちばん近い島」を歌った。これはオリジナルでは原田知世さんがボーカルの曲だ。
再び林さんが現れた。そしてギターを演奏して「レイニーサタデイ&コーヒーブレイク」を歌った。そして「もう一曲いいですか」と言って、人気曲「悲しみがいっぱい」。
ここからは上田正樹さんのパフォーマンスで、「レゲエであの娘を寝かせたら」。「(林さんの)メロディーは微笑みのメロディーです。彼はいつも微笑んでいます。そして少しセンチメンタルです。これは大阪の話です」と話して大ヒット曲「悲しい色やね」を歌い上げた。
15分間の休憩を挟んで始まった第2部の初めは杉山清貴&オメガトライブの「Summer suspicion」。観客は大いに盛り上がった。メンバーの一人一人がそれぞれのスタイルで林さんをお祝いした。そして2曲目「ふたりの夏物語」を演奏した。
ここで音楽監督の萩田光雄さんのメッセージがビデオで流された。1970-71年に恵比寿の駅前にあったヤマハの音楽教室にポップスの音楽家を目指す人たちが集まった中に萩田さんや船山さん、林さんがいたのだという。「昔からあなた(林)をみてると自分の音楽に自信があって非常に努力をしてきたと思います」と萩田さんは回想した。
次にもう一人の音楽監督・船山さんもビデオメッセージで「あの頃音楽はどうなるんだろうと夢を語り合った同じ仲間3人でこうやって一緒に出来るというのは夢にも思っていなくて、そういうコンサートを引き受けられて本当にありがたいと思っています」と話した。
「林さんの音楽には不変のメロディーがあるから今(彼のシティポップが)ブームになっているのだと思います」と船山さんは続けた。
萩田さんと船山さんのビデオ画像が終わると松本伊代さんが登場した。
「信じかたを教えて」を歌い、「私が21歳の時に大人の歌を書いてくださいとお願いして歌ったんです」と話した。続けて林さんに書いてもらった第二弾作品の「サヨナラは私のために」。
佐藤竹善さんは「Do yourself」を歌った。「こんな見た目のぼくですがヒロミゴーの曲を一曲」と言って披露したのが「入江にて」だった。
佐藤さんの次は鈴木瑛美子さんが、竹内まりやさんの歌唱で知られる「September」を歌い、会場が沸いた。
そして緑のワンピースに黒のベルトを身に着けた菊池桃子さんがステージに現れ、「卒業ーgraduation」。続けて「もう逢えないかもしれない」。
「私が初めて林先生にお会いしたのは中学生の時でした。教え子だったので、(林さんは)本当の先生でした。一時期ずっとサウンド全般をお世話になって、担任の先生と呼ばせてもらいました。思春期というのは自分の感性に影響を与える時期、美しいサウンドで育てていただきました」。
菊地さんはこの日3曲目となる「ガラスの草原」を歌った。
ベテランの寺尾聰さんは盟友のギタリスト今剛さんが編曲を担当した「The stolen memories」を、椅子に腰かけタンバリンを右手にして歌った。「林さんの歌はこれ一曲なんですよ。今から35年前にお願いして書いてもらったんです。初めてこういう大きなところで演奏してみました」。
ここでメンバー紹介があった。
ギター今剛さんと増崎孝司さん、キーボードが富樫春生さんと安部潤さん、パーカッション斉藤ノヴさん、ドラム江口信夫さん、ベース高水健司さん、コーラスが高尾直樹さん、大滝裕子さん、稲泉りんさんの3人、トランペットがルイス・バジェさん、サックスがアンディ・ウルフさん。
この「SAMURAI BAND」でインスト曲「Shining Star」を演奏した。
ここで杉山清貴さんが一人で登場して「彼の腕の中で」を歌った。さらに「思い出のビーチクラブ」。続けて稲垣潤一さんが「悲しみのディスタンス」。菊地さんが再び登場して「Blind Curve」、稲垣さんによる「1ダース位の言い訳」と続いていった。
コンサートも終わりが近づき、林さんが再び現れた。
ここでこの記事の冒頭の「真夜中のドア」の話になるのだ。
1980年代という時代のBGMとしてのシティポップ。その代表的作曲家である林哲司さん。彼の作品の数々は時代を彩ったばかりでなく、今や時間、国境、民族を超えてグローバルに広がっている。
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