見出し画像

「ハニワと土偶の近代」

 特別展「ハニワと土偶の近代」が2024年12月22日(日)まで東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)にて開催中だ。
 古(いにしえ)の地層から出土するハニワや土偶。出土するのは、美術に限らず、工芸、建築、写真、映画、演劇、文学、伝統芸能、思想、さらにはテレビ番組にいたるまで、幅広い領域で文化現象を巻き起こしてきた。
 戦後、芸術家の岡本太郎や彫刻家イサム・ノグチによって、それまで考古学の資料として扱われていたハニワなどの出土遺物の美的な価値が「発見」されたというエピソードは今や伝説化している。
 な是、出土遺物は一時期に集中して注目されたのか?いかにその評価が広まったのか?作家たちが「遺物」の掘りおこしに熱中したのはなぜか?
 今展では美術を中心に、文化史の舞台に躍り出た「出土モチーフ」の系譜を、明治時代から現代にかけて追いかけつつ、ハニワや土偶に向けられた視線の変遷を探っている。



 展覧会は次のような構成になっている:
○序章「好古と考古 ー愛好か、学問か?」ーここでは「好古」と「考古」と「美術」が重なり合う場で描かれた出土遺物を紹介。描き手の「遺物へのまなざし」を追体験しつつ、「遺物の外側に何が描かれているか」にも要注目だ。「異」なるものが交じり合う、近代の入り口付近の地層が浮かび上がってくる。古と近代が出会う場面にあなたも出会える。

都路華香《埴輪》1916年 京都国立近代美術館


○1章「「日本」を掘り起こす ー神話と戦争と」-近代国家形成において、ハニワは「万世一系」の歴史の象徴となり、特別な意味を持つようになった。各地で出土した遺物が皇室財産として上野の皇室博物館に選抜収集されるようになると、ハニワは上代の服飾や生活を伝える資料として、歴史画家の日本神話イメージ創出を助けた。ハニワそのものの「美」が称揚されるようになるのは、1940年を目前にした皇紀2600年の奉祝ムードが高まる頃ー日中戦争が開戦し、仏教伝来以前の「日本人の心」に源流を求める動きが高まった時期だった。単純素朴なハニワの顔が、「日本人の理想」として戦意高揚や軍国教育にも利用されていく。

岡本太郎《犬の植木鉢》1954年 滋賀県立陶芸の森陶芸館


○2章「「伝統」を掘り起こす ー「縄文」か「弥生」か」ー1950年代は日本中の土が掘りおこされた時代だ。敗戦の焼け野原のなか、復興と開発のためあらゆる場所が発掘現場となった。出土遺物は人々が戦争体験を乗り越えていく過程において、歴史の読み替えに強く作用した装置であったといえよう。「日本的なるもの」や「伝統」への探求が盛んにおこなわれたのは、自国のアイデンティテー再生という内発的な動機のみでは語ることが出来ない、複合的な理由を含むものだった。
○3章「ほりだしにもどる ーとなりの遺物」-考古学の外側でさまざまに愛でられたハニワや土偶のイメージは、次第に広く大衆へと浸透してゆく。特に1970年代から80年代にかけてはいわゆるSF・オカルトブームがあってそれと合流し、特撮やマンガなどのジャンルで先史時代の遺物に着想を得たキャラクターが量産された。それはまた、縄文時代や古墳時代の文化は「日本人」のオリジンに位置付けられるという自覚を、私たちがほとんど無意識のうちに刻み込まれるということでもあった。

五姓田義松《埴輪スケッチ(『丹青雑集』より)》1878年 個人蔵(團伊能旧蔵コレクション)写真提供:神奈川県立歴史博物館

 休館日は月曜日。ただし、10月14日、11月4日は開館。10月15日(火)、11月5日(火)。
 開館時間は午前10時から午後5時(金・土曜日は午後8時まで)。入館は閉館の30分前まで。
 観覧料は一般1800円、大学生1200円、高校生700円。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?