見出し画像

おいしいボタニカル・アート

 花や植物を緻密に描くボタニカル・アート(植物画)。優れた植物画家が描いた作品は、科学的客観性においても芸術的香気においても見るものを驚嘆させ感動させる。目のご馳走ともいえるボタニカル・アート。
 「英国キュー王立植物園 おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり」が2024年2月23日(金・祝)から4月14日(日)まで茨城県近代美術館(水戸市千波町東久保666-1)にて開催される。


 イギリス王室ゆかりの庭園で世界有数の植物研究機関、英国キュー王立植物園の協力のもと、ボタニカル・アートの中でも特に野菜や果物、茶、コーヒー、ハープ、スパイスといった美味しい食物を扱った作品を紹介する。
 また、ティー・セットや家具、古いレシピなども展示し、イギリスの歴史や食文化を植物にまつわる様々なものがたりとともにひもといてゆく。
 ビクトリア朝で主婦のバイブルとして大ベストセラーになった「ビートン夫人の家政読本」(1861年刊)も紹介される。
 
〇プロローグ「食を支える人々の営みー農耕と市場」ー18世紀から19世紀にかけて、イギリスでは植民地貿易による経済発展や産業革命によって中産階級が台頭する。彼らが新たに絵画の注文主となったことで、農村や市井の人々の生活を描いた風俗画が一定の人気を集めるようになる。プロローグとして、農耕や収穫、食材を栽培するキッチン・ガーデン(家庭菜園)、市場や食材の行商をとりあげた作品に焦点をあてる。

〇第1章「大地の恵み 野菜」ーイギリスで古くから食されていたのはアブラナ科のキャベツや大根、カブの類だった。穀物は小麦のほかに、耐寒性の強いオーツ麦、ライ麦が栽培され、豆類もよく食べられていた。コロンブスのアメリカ大陸「発見」以降は、アメリカ原産のジャガイモやトウモロコシ、トマトなどがヨーロッパに伝えられた。19世紀後半には、ジャガイモ、グリーンピース、玉ねぎ、キャベツ、カリフラワー、ビーツ、アスパラガスなど現在とほぼ同様の野菜がイギリスの食卓に並ぶようになる。

 ジョゼフ・ヤコブ・リッター・フォン・プレンク《カリフラワー》1788-1803年頃 キュー王立植物園蔵 ⓒRBG KEW
プヤレ・ラル《ライ豆》1809年 キュー王立植物園蔵 ⓒRBG KEW


〇第2章「イギリスで愛された果実ー『ポモナ・ロンディネンシス』」ーロンドン園芸協会お抱えの画家、ウィリアム・フッカーは、優れた果物画を残した。代表作「ポモナ・ロンディネンシス」は、ロンドン近辺で栽培されている果物をとりあげ、個々の品種について、解説文と手彩色された銅版画の図版を付した書籍。図版のモデルとなった果物標本は種苗業者や植物園、ロンドン園芸協会や園芸愛好家などから提供された。

 ウィリアム・フッカー《リンゴ「デヴォンシャー・カレンデン」》1818年 個人蔵 Photo Michael Whiteway
ウィリアム・フッカー《ブドウ「レザン・ド・カルム」》1818年 個人蔵 Photo Michael Whiteway


〇第3章「日々の暮らしを彩る飲み物」
ーセクション1:茶(茶は当初は薬として飲まれていた。17世紀前半、ポルトガルのキャサリン・オブ・ブラガンザはイングランド王チャールズ2世に嫁ぐ際に、母国から茶、砂糖、茶道具を持参、喫茶の風習をイギリスの宮廷に広めた。王侯貴族や上流階級の女性たちのファッショナブルな飲み物となった茶。18世紀末になると広く一般大衆に飲まれるようになる。19世紀にはアフタヌーン・ティーの習慣が確立した。
ーセクション2:コーヒー(アラビアからトルコを経て、ヨーロッパに伝わった飲み物。1652年にロンドンに登場し、約100年にわたって一世を風靡した「コーヒー・ハウス」により、コーヒーはイギリス社会に広く浸透した。コーヒー・ハウスでは茶やチョコレート飲料も提供されていた。
ーセクション3:チョコレート
ーセクション4:砂糖(サトウキビ)
ーセクション5:アルコール(イギリスでは古くはワインよりリンゴから作るシードルや大麦から作るビールが親しまれていた。イギリスの気候はブドウ栽培に適さず、ワインは長らく輸入品だった。近年は温暖化により、イギリスでもワインが作られるようになっている。

第4章「あこがれの果物」ー18世紀の初めごろになると、果物が食後のデザートとして提供されるようになる。特に珍重されたのが、ヒマラヤ地方原産でアラビアを経由してヨーロッパに伝わったオレンジやレモンなどの柑橘類。柑橘類の栽培には専用の温室「オランジュリー」が必要だった。温室でなければ育たない果物は、19世紀までは富裕層の贅沢品で、客をもてなす晩さん会ではこれら果物を食卓でどのように演出するかに注目が集まった。

 ピエール・アントワーヌ・ポワトー《ビター・オレンジ》1807-35年 個人蔵 Photo Michael Whiteway

第5章「ハーブ&スパイス」ー裏庭などにも生えるハーブは、家庭での簡単な治療の際に薬として活用された。薬草の効用や特徴が説明された挿絵入り手引書「カルペパー薬草大全」(初版1653年)は驚異的なロングセラーとなった。スパイスも保存料や薬として古くから使われてきた。だが、スパイスの多くはアジアを原産地としているため、希少で非常に高価だった。15世紀になると大航海時代が幕を開け、イギリスは18世紀にはインドやシンガポールなどのスパイス生産地を支配下においた。

おそらくインドの画家(ジャネット・ハットン[1810年頃に活躍]の作品とみなされる)《コショウ》1810年頃 キュー国立植物園蔵 ⓒRBG KEW


第6章「ブレジア=クレイ家のレシピ帖と「ビートン夫人の家政読本」」ー新しい野菜や果物をどのように使うのか。各家庭において指南書が必要となった。印刷技術が普及する前は手書きのレシピ帖が、19世紀に入ると家庭向けの雑誌や書籍が活用された。なかでもレシピや食材の保存、管理、食器、料理の盛り付けやテーブル・セッティングなど、家政に関するあらゆる情報をまとめた「ビートン夫人の家政読本」が一大ベストセラーに。

 クリストファー・ドレッサー(デザイン)、ミントン《コーヒーカップ&ソーサ―》1875年頃 個人蔵 Photo Michael Whiteway
ロバート・ヘンネル3世《ティーポット・セット》1861年 個人蔵 Photo Michael Whiteway

 休館日は3月18日(月)、25日(月)、4月1日(月)、8日(月)。水戸の梅まつり期間中(2月10日ー3月17日)、本展は無休。
 観覧料は一般1210円、満70歳以上600円、高大生1000円、小中生490円。春休み期間を除く土曜日は高校生以下無料。
 3月16日(土)は満70歳以上の方は無料。
 問い合わせは029-243-5111。茨城県近代美術館の公式サイトは https://www.modernart.museum.ibk.ed.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?