見出し画像

山内若菜が描く福島

 画家・山内若菜さんはメッセージを観る者に届けようと思い、3・11を経た後はとりわけ福島や沖縄をテーマとした作品を創り続けている。
 その作品の一端を紹介する「山内若菜展」が2024年7月28日(日)まで青猫書店ギャラリー(東京都北区赤羽2-28-8TimberHouse1F)で開催中のところを同20日(土)に訪ねた。(23日(火)は休み)
 若菜さんは1977年生まれ。絵が好きで小学生の時から「自由な絵描き」になりたいと思っていた。その夢をかなえるため、武蔵野美術短大専攻科を修了したが、卒業後に就職した会社で試練が待ち構えていた。
 ブラック企業に15年間勤めざるを得なくなり、労働の在り方についていろいろと思いを巡らさざるを得なかった。
 また派遣企業で働いていた時には、ハムを運んでいた際に転倒してしまった。しかし、掛けられた言葉は若菜さんを気遣うのでなく、「ハムは大丈夫か?」とのセリフ。「私はモノ以下なんだと思いました」。
 2011年に東日本大震災・東京電力福島第一原発事故が起きた。その2年後から福島に通い始めた若菜さん。
 福島県飯舘村では放射能の影響だろう、牛が40頭以上変死した。また死産をするのも目の当たりにした若菜さんは衝撃を受けた。
 「それまでは抽象画家だったんです。でも、そういった現地の実態をどこも報道しない。だから最初は告発的に描いていったんです」。

山内若菜《楽園の予感》

 今回メイン展示されている《楽園の予感》の右側の馬は骨だ。これは馬の骨だらけの農場に通っていた頃の記憶からだが、最初は自分の境遇とその馬たちとを重ね合わせて考えていたのだという。
 でも今では「福島で死んだ馬がすくっと立って(左の馬を)応援しているのです」と若菜さんは話す。
 放射能あるいは放射能被害を可視化したいとの思いもあったという。
 左に描かれている馬は与那国馬だという。若菜さんは映画監督の三上智恵さんと与那国島に9日間の取材旅行に行ったことことから。
 絵の下の部分の紺藍は与那国島の海を描いた。「与那国は本当に色が鮮やかで、生物もたくさんいる。また、アジアと結びついていて、そこには可能性がたくさん秘められていると思いました」。
 この絵は若菜さんが別途福島を描いた《牧場 放》3部作と「呼応するような作品になっている」という。
 若菜さんによると、クラフト紙に和紙を張り付けてその上に「たらしこみ」という手法で描いていったという。
 「たらしこみ」とは水浸しにすることで「水に絵を描いてもらう」手法なのだと若菜さんは説明する。
 若菜さんは自分の作品で「人間と自然と愛の三位一体」を描こうとしていると話す。色合いはシャガールの影響を受けているという。

山内若菜《与那国馬と少女1》、《与那国馬と少女4》 
山内若菜《やぎと少女》

 若菜さんは2009年、ロシアで「シベリア抑留」を忘れない文化交流を開始。以降、ロシア国立極東美術館などで定期的に個展開催。2017年には同美術館にて「牧場」展を開催した。
 2016年と2021年には丸木美術館で個展を開いた。昨年は福島県南相馬市の「おれたちの伝承館」の天井画となる作品を制作した。
 2021年、第8回日経日本画大賞受賞。
 また、小中学校へ出向いて授業を行ったり、芸術鑑賞会や講演会なども積極的に行っている。

山内若菜《龍と天女》ーー天女が手にしているのは数字の9だ 若菜さんによるとこれは「日本国憲法9条」なのだという 
山内若菜《あっかんべ青猫》 
山内若菜《ウマとオラのマキバ》

 若菜さんの作品を常設展示しているギャラリーを紹介しよう。「片瀬山Gallery Espoirーきぼうー」(神奈川県藤沢市片瀬山3-34-4(加藤宅):℡090-8776-7501)だ。
 ギャラリーのメルアドは kkmyama3310@gmail.com
 また、8月11日(日)には埼玉会館大ホールで開かれる「2024平和のための埼玉の戦争展」(さいたま市浦和区高砂2-3-10黒澤ビル3F日本機関紙協会埼玉県本部内:℡048-825-7535)で若菜さんの「神々の草原」という作品が展示される。
 時間は午前10時から午後5時まで。
 

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?