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バンド・エイドのX'mas

 1984年のクリスマスの一カ月前、11月25日、英国とアイルランドのロック・ポップス界のスーパースターたちがロンドンのノッティング・ヒルにあるレコーディング・スタジオに集結した。ボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロが発起人となったアフリカの飢餓対策支援のためのチャリティ・プロジェクト「バンド・エイド」のためだった。
 その約3週間前、ブームタウン・ラッツのゲルドフとウルトラボックスのユーロが交わした会話がきっかけだった。エチオピアの飢餓について伝えるテレビ番組にショックを受けていたゲルドフはユーロに「エチオピアでの惨状を少しでも和らげるために何かしたい」と伝えた。ユーロは同意し、チャリティ・レコードを作ることになった。
 ゲルドフは他のアーティストたちに連絡をとり、参加を依頼した。ほとんどのミュージシャンたちが参加に同意してくれたという。U2のボノ、スティング、スタイル・カウンシルのポール・ウェラー、デュラン・デュラン、ジョージ・マイケル、フィル・コリンズ、スパンダー・バレエのゲイリー・ケンプ、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージらが名を連ねた。


 チャリティ・シングルとなる曲「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」はゲルドフとユーロが書き上げた。歌詞は主にゲルドフが担当した。アフリカで飢餓に苦しむ人々は「いったい今日がクリスマスだってみんな知っているの?」と歌われる作品だ。
 まず、12月3日に英国でリリースされた。シングルチャートに1位で登場、5週間にわたり首位の座を守った。380万枚の売り上げを記録したという。米国では12月10日に発売され、ヒットチャートでは最高13位だったが、200万枚近くを売り上げたという。
 このプロジェクトは大きな反響を呼んだ。だが中には、歌詞の一部をめぐる批判や議論もあった。問題となったのは歌詞の次の部分だった――「そこで鳴っているクリスマスのベルは、苦しみに終わりのチャイムを告げる。そう、今夜神様に感謝しよう、(飢餓で苦しんでいるのが)君たちではなく、彼ら(アフリカの人たち)だということに」。
 自分たちは暖かい暖炉の前でローストした七面鳥を食べ、ワインを飲み、家族で過ごしている。そんなクリスマスに、一方のアフリカでは食べるものにも事欠いて、飢えに苦しんでいる人たちがいる。そんな(自分たちは相対的に幸せである)現実を神様に感謝しなさいと言っているのだ。
 この考え方に対しては、自分勝手ではないか、苦しみをアフリカの人々に押し付けているだけではないか、などの批判が寄せられた。実際、このゲルドフの書いた歌詞に対してはユーロが反対していたという。だが、ゲルドフは「本音」が必要だとして押し切ったという。
 自分たちに代わって彼ら(他の人たち)が苦しみを背負ってくれている、という考え方はキリスト教的ではなかろうか。つまり、イエス・キリストが私たちの罪を背負って十字架に架けられたという聖書の教えがあるのではないかと考えている。つまり、アフリカの飢餓で苦しむ人々は「現代のキリスト」とでもいうべき存在だといっているのではないだろうか。

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