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「Now and Then」の夕べ

 【スピリチュアル・ビートルズ】ビートルズが先日リリースした”最後の新曲”「Now and Then」のミュージック・ビデオを見て、「久しぶりに涙が出ちゃいました」。そう語るのはビートルズ研究家の藤本国彦さん。
 ビデオで見られるジョン・レノンのおどけた仕草、メンバー同士の距離感など、ピーター・ジャクソン監督はビートルズの4人のことをよくわかっているなあと藤本さんは感心したという。
 「Now and Then」は、制作を主導したというポール・マッカートニーの「執念で形になった」と藤本さんはみている。
 そして、オノ・ヨーコがポールに託したという4曲のうちの残り一曲「Grow Old with Me」はすでにジョンがリリースし、リンゴ・スターもカバーしているが、「リンゴのバージョンをもとに何かやってくれないかと思うんです」と藤本さんは期待している。
 2023年11月16日(木)に新大久保エンタメカフェR&B(新宿区百人町2-11-23新大久保コミュニケーションビルB1F)で開かれたトークイベント「The Beatles Cafe」で新曲について語った。
 「私はもともと「Free as a Bird」「Real Love」「Now and Then」は"
なんちゃってビートルズ"だと思っています。ビートルズは60年代のバンド。今作るとそれは違うと捉えているのです」と藤本さん。
 そして経緯を振り返った。最初はジョージがビートルズ側近のニール・アスピナールにジョンの未発表音源に音を加えようと話をしていたという。ニールは70年代から「Long and Winding Road」というタイトルのドキュメンタリーを作ろうとしていて、それは「Anthology」に結実した。

 


 話は94年に飛ぶ。その年にジョンが「ロックの殿堂」入りを果たした時、ポールがプレゼンターとなり、ヨーコとショーンが登壇した。ポールとヨーコは抱擁を交わした。この際、ジョンがホーム・レコーディングした4曲が録音されたカセットをヨーコがポールに手渡した。
 その4曲とは「Free as a Bird」「Real Love」「Now and Then」「Grow Old with Me」だった。藤本さんはいう「その4曲を選んだのはヨーコさんなのです。海賊盤を聴いている人だったら分かりますが、アップテンポの曲だってあるんです。でもしっとりした曲が選ばれました」。
 残されたポール、ジョージ・ハリスンとリンゴは94年、この未完成の楽曲を完成させるべく集結した。

 


 そして完成した「Free as a Bird」はシングルとしてリリースされ、「Anthology 1」に収められ、後に完成させた「Real Love」もシングルとなり「Anthology 2」に収録された。藤本さんは順に説明していった。
 まず、「Free as a Bird」のデモを聴き、プロモーション・ビデオを鑑賞した。最後のウクレレを「ジョージは自分でやりたいと言ったけれどメンバーが出るのはどうかということで却下されたという話がある」と藤本さん。
 「Free as a Bird」がシングルとしてリリースされた時は、曲の最後にジョンのセリフの逆回転が入っており「Made by John Lennon」と聞こえると話題になったが、その後に出たベスト盤「1」の時に元に戻された。


 95年に再びポール、ジョージ、リンゴは集まった。「その時に最初に手掛けたのは「Now and Then」でした。でもジェフ・リンに言わせれば「午後のセッションをしただけで終わった」。リンゴも「10分で終わった」と話したようにうまくいかなかった」(藤本さん)。
 「Real Love」については、ジョンがいろいろといじっていたことが分かっている。例えば、88年の映画「Imagine」に入っているバージョンは「Girls and Boys」として知られ、「Real Life」とつけられたものもある。


 「ジョンとポールでは曲の作り方が違います。ジョンはいろいろといじくってまとめていくやり方だ。そういう点では「Now and Then」はすっきりしてよかったと思う」と藤本さんは話した。
 「Now and Then」に再び取り組んだのは、もちろん技術の進歩があったから。それに加え、「ポールが完成させたいという強い気持ちを持っていたことや、「ボーカルも音も糞だ」と言っていたというジョージが亡くなったこともあるでしょう」と藤本さんはみている。


 2020年にポールがストリングスを入れ、ベースを録音した後にリンゴにもドラムをプレイしてほしいと言ったが「最初は断ったらしい。(だが結局、リンゴは参加してドラムを録音。)そしてポールがジョージ風スライド・ギターを弾いて完成させた」。
 「Now and Then」は全英1位を記録した。そして米ビルボード誌のシングル・チャートでも7位まで上昇しているところだ。「かなり話題になって驚きました。ポールが参加したストーンズの新作が出たのが大きい」。
 ヨーコに託された4曲のうち「Grow Old with Me」はジョンとヨーコの『Milk and Honey』(82)に収められ、『John Lennon Anthology』の際にはジョージ・マーティンが最後の仕事としてストリングスを加えたバージョンを作り、リンゴも2019年の『What's My Name』でカバーした。


 藤本さんはリンゴのカバー・バージョンを超えるものとして、「これをもとに何かやってくれないかなと思っています」。
 このイベントのスタートは、リミックスされ曲数も増やされた通称「赤盤」「青盤」として知られる2枚組ベスト盤2セットについての話だった。「赤青のジャイルズ・マーティンのリミックスについてはいいものと悪いものが混在している。個人的な意見ですけど」と藤本さん。


 ここで次の楽曲の2009年バージョンと今回のリミックス(2023)を比較したー「She Loves You」「This Boy」「A Hard Day's Night」「If I needed someone」「I am the walrus」。
 中でも「I am the walrus」について、藤本さんは「新しいほうのエンディングはだいぶいじっていて、「Revolution 9」みたいになっちゃってますよね。これしか残らなくなると辛いと思います。違和感というかイメージの違いがどうなるのかなって、個人的には思っています」と述べた。
 「Old Brown Shoes」もところどころかなりラフな演奏に聞こえ、ジャイルズは「どういう価値基準でやっているのか」と疑問を呈した。「ただ「I am the walrus」の後半以外は、お父さん(ジョージ・マーティン)がやったものに関してはとても丁寧です」。
 赤盤青盤の選曲について、藤本さんは「『For Sale』や『Help』から追加がなかったし、『White Album』のC、D面からの楽曲がない。「I'm only sleeping」なら何で「Rain」じゃなかったのか。なぜ「Helter Skelter」が入らなかったのか」と個人的に疑問に思っているところを明かした。


 
 
 

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