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中川五郎ライブ@横浜中華街

 にこにこと笑みを絶やさず穏やかな人。だが世の中の不条理や差別に向ける刃(やいば)は鋭い。刃は中川五郎さんの場合、言葉である。
 長年、言葉を大切にしてきたフォーク・シンガーである中川さん。期せずして言葉についての歌を多く聴くことが出来るライブだった。
 そのライブは2023年7月29日(土)「李世福のアトリエ」(横浜市中区山下町232金太ハイツ1F)にて行われた。

前田健人さんと中川五郎さん


 中川さんが初めて人前で演奏したのは1967年。以前からアメリカのフォークソングに関心があったが、高石ともやさんに「日本語でフォークをやっているそうだね。歌いに来なさい」と言われたのがきっかけとなった。
 高石さんでヒットした「受験生ブルース」の元歌「受験生のブルース」は中川さんの作品だった。順調にキャリアを歩んでいった中川さん。
 70年代に入ると、歌とともにアメリカなどのフォークシンガーのレコードの解説を書いたりしていた。しかし、80年頃から15年間、歌うのを止めてしまった。中川さんは言う「僕自身メッセージソングをやりたくて、世の中の問題や戦争反対とか歌うのが自分の姿勢だった」。
 「だが、70年代に入るとみんなに支持されなくなり、社会的なことよりも個人の生活を歌うのがフォークとなって、みんな自分の歌を聴きに来てくれない。80年頃にはライブに人が来なくなった。おカネにならない。タイミングよく文章を書く仕事が来たので、そちらの方に行った」。

1923年福田村の虐殺
 90年代も半ばになって、中川さんは再び歌い始めた。そして、今では活発に全国でライブ活動を展開している。
 中川さんには「1923年福田村の虐殺」という歌がある。今から100年前の1923年、関東大震災が発生した。その後、朝鮮人が暴動を起こすとか井戸に毒を入れたとかの流言蜚語が飛び交う。
 その中で千葉の福田村(現野田市)を訪れた香川の行商人15人が讃岐弁を怪しまれて朝鮮人だとして地元の自警団らに襲われて9人が虐殺された。この虐殺を扱った映画「福田村事件」が9月1日に公開される。
 「異質な人は排除されて、違う意見を言う人は攻撃されたり、髪型や服装が違うと攻撃されたりする。日本人は異質を嫌うところがあるでしょ。島国根性と呼ばれる心の狭いところが国民性としてあるのでは」と中川さん。

「空飛ぶ金のしゃちほこ」
 中川さんのライブは「空飛ぶ金のしゃちほこ」から始まった。17世紀に徳川家康によって建てられた城は1945年に大空襲によって大部分が焼け落ちてしまった。かつて国宝だった城を再建しようとするが、足が弱い人のためにエレベーターを設置してほしいとの市民の声に耳が傾けられない。
 昔通りに再建して「国の宝になったとしても、人々の宝には絶対にならない。金のしゃちほこも遠くから見ているだけのそんな城だ」と歌った。

中川五郎さん 


 続いて「2021年1月22日石原伸晃さんが入院した」という歌。中川さんは「個人攻撃ではない」としているものの、石原伸晃を例にとってコロナ患者への国の対応に関わる問題について鋭く追及している作品だ。
 6000人以上も入院待ちがいる2021年1月22日、PCR検査で陽性だった石原さんは既往症があるからと日本医科歯科大学病院に入院。症状がなかったものの入院して、1月31日に退院した。歌は2021年10月31日の第49回衆議院選挙で石原さんが落選するまでを歌った。
 次はビートルズの「Nowhere Man」(ひとりぼっちのあいつ)に中川さんが日本語詞をつけた、そのタイトルも「はみだし君」。
 続いては「ぼくはギター ぼくとギター」。「ぼくの相棒。ぼくとギターは一心同体」と歌われた。中川さんが次に披露したのは「言葉」。
 「言葉は難しい。一言だけで明るくなり、一言だけで暗くなる・・・けれど毎日使うもの。大切に使って言葉ともっと仲良くなりたい」。

ウクライナにおける差別
 次に、差別を扱った「パリャヌイツァ」を中川さんは歌った。ウクライナ語でパンを意味する言葉はロシア人には発音しづらいそう。そこで不審者にはそれを言わせて、変だとロシアのスパイだとみなしているという。
 今日的なエピソードに続いては、関東大震災後に怪しい人に15円50銭といわせて、うまく言えない者をなぶり殺しにしたことが唄われる。
 「言葉は人と人をつなぐものなのに、敵と味方を分けるものになった」「人を殺す言葉。人を救う言葉。戦争を止めるための言葉」(中川)。
 締めくくりは、司会を務めていた前田健人さんと中川五郎さんの2人でボブ・ディランの「I shall be released」の日本語バージョンを歌った。


 前座には横浜中華街の李世福さんと前田さんの二人が登場。「Get Out」「ベイサイド・ラブ・ストーリー」「アイランドドリーム香港」「ハートブレーク・コーニャン」「灰色の街」などが演奏された。

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