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単発の小説

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単発の短編小説・ショートショートはこちらにまとめています。
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#短編小説

『本の虫』

 気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。…

『同僚の馴れ初め話』

「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」  飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなし…

『招いた幸せ』

 初詣の長い列に並んでいると、後ろに並んでいた中年の男が声をかけてきた。 「少しいいです…

『特別な公演』

 K氏はここ数日、パソコンの文字カーソルが点滅するのを眺めるだけの日々を送っている。早い…

『金持ちジュリエット』

 ジュリエットはその町一番の、金持ちの家の生まれだった。彼女の周りには生まれる前から財、…

『アナログバイリンガル』

 最近、娘は謎の独り言を呟く。 「おはようウヨハオ今日は寒いねネイサナシウコッカイカタタ…

『違法の冷蔵庫』

「君達にはこの新型冷蔵庫を大阪支社まで運んでもらう。運び方は自由。費用はこちらで負担する。ただし、絶対に中を見ないように」  K氏が冷蔵庫に手をかけると、隣で一人の男が耳打ちした。 「中には入っているのは麻薬だ。俺達は都合よく運び屋をさせられているのさ」  と言って、そいつは冷蔵庫抱えて出て行った。  K氏は冷蔵庫を車に乗せ、高速を走らせたが、先刻の言葉が頭から離れない。 「もし本当なら警察に届けなければ……」  K氏は冷蔵庫の中を開いてしまった。しかし中は空だった。K氏は

『空飛ぶストレート』

 僕の胸に黒い羽が生えてきた。羽は重くて、痛くて、苦しい。僕は取りたくてたまらないのに、…

『コロコロ変わる名探偵』

「犯人はお前だ!」  そう言って、探偵はAを指さした。 「え?違う違う」 「犯人はお前だ!…

『株式会社リストラ』

 スーツ姿の男は礼儀正しく辞儀すると名刺を差し出した。 「『株式会社リストラ』。まさかう…

『しゃべるピアノ』

 児童施設にある古いピアノは生きている。  鍵盤蓋をカタカタと鳴らして、今日も子供たちに…

『古団地の鬼』

 これは実話なんですけれど。本当ですよ。少し聞いて下さいよ。すぐに済みますから。  4歳…

『運命の出会い』

「あ、すみません」 「こちらこそ、よそ見をしていて……」 「……あれ、何処かでお会いしたこ…

『故郷の景色』

「もう一度、故郷の景色が見たい」  そう話す婆ちゃんのため、僕は婆ちゃんの生まれ育った土地の映像を撮影することにした。  婆ちゃんの実家、学校、公園、亡くなった爺ちゃんとデートしたという丘、そこから見た町の景色。様々な婆ちゃんの縁の場所を撮った。  しかし時が経ち過ぎている。当時の面影はほとんど残ってなどいない。これは婆ちゃんの願う『故郷の景色』と言えるだろうか……。 「婆ちゃん、これを見て」  僕は婆ちゃんにヘッドマウントディスプレイを装着させ、VR映像を流した。 「あの