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馬治師匠が里帰りした老舗の地域寄席

第226回 大和田落語会「馬治・雛菊二人会」
4月16日 天ぷら丸花
千葉県八千代市の天ぷら屋のご主人が主催の落語会。20年以上も続けていて、もはや老舗と呼んでもよい地域落語会。そんな大和田落語会も、例にもれずコロナ禍によって休止を余儀なくされていたが、今年の1月から再開し、月1回のペースで開催している。
前回の訪問は、2019年4月21日で、まる4年ぶり。そのときは丁度、大和田落語会が200回を迎える記念の会を4回連続で開催している最中で、その記念の会の最後を飾った馬治師匠と一之輔師匠の二人会のときにお邪魔した。
馬治師匠は千葉県出身で現在の住まいが近いこともあり、そんなご縁で若かりし頃から丸花のご主人に可愛がられていて、大和田落語会の常連さんたちからも応援されている。まさに、丸花は馬治師匠のホームグランドと呼ぶべきお店であり、大和田落語会もホームグランドと呼ぶべき落語会なのだ。そんな地元の人気者が出演する回なので、会場は常連さんたちで大入りの超満員となった。さすが地元のスーパースターだ。
この日は、古今亭一門の二ツ目の雛菊さんとの二人会。この組み合わせは珍しい。馬治師匠とは世代が離れた若手女流との組合せ、どんな化学反応が起きるのか、楽しみにでかける。

古今亭雛菊「元犬」
この日の出番順は、ABAB方式。二人会の場合は、ABBA方式をとることが多い。これは、主任と仲入り前の出番が位の高い順番なので、どちらかが主任なら他方は仲入り前の出番にするという仕来りが理由のようだ。しかしこの日はその仕来りに反し、主任も仲入り前も馬治師匠が務めた。これは、二人の香盤の差が大きいことから、雛菊さんの遠慮が理由かもしれない。
マクラは、馬治師匠と二人会は嬉しいというお話から。前座の頃から、先輩方の高座を観るなかで、馬治師匠の高座は憧れをもって観ていたようだ。
菊之丞師匠の下で、厳しい修行を続けていたようで、無事に二ツ目として独り立ちできた喜びが表情にあふれている高座。マクラの間は、にこにこと愛嬌あふれる雛菊さん。
まずは、お馴染みの前座噺。若者の忠四郎、上総屋の主人、隠居、それぞれ演じ別けがきっちりしている。この登場人物たちは、皆どこか人の好さ気なのは、雛菊さんの雰囲気からか。年齢層高めの客席からは、親のように見守るような暖かな雰囲気を感じられた。

金原亭馬治「抜け雀」
地元の人気者ならではの盛大な拍手で迎える。久々のホームグランドでの高座に、高揚感を感じる表情。まずは、この日のお客様を大切にしなさいとの師匠の教えという定番のマクラから。
この店からも遠くないところの長妙寺に八百屋お七の墓があるという地元話。この長妙寺あたりは江戸の頃は成田街道の大和田宿があり、成田詣で賑わっていたらしい。そんな地元の宿場町の話題から、東海道は小田原の宿場町でのお噺、と本編へと上手く繋ぐ。
馬治師匠のこの噺は、2017年3月に湯島天神参集殿で開催されたさん助師匠との二人会以来、本当に久し振りに聴く。落語日記を付けていると、すぐに調べられるのだ。しかし、前回の記憶は、ほぼない。初めて聴く感覚。ホームグランドなので、二席ともトリネタを持ってきた。まず一席目は、おそらくは蔵出しの演目から。
かなり傍若無人な絵師ではあるが、侍としての佇まいがあり、人の好い宿屋の亭主が翻弄されるのも無理はない。女房にも強く当たられ、可哀そうなのに可笑しいパターン。絵の不思議さより、亭主の可笑しさを感じさせる楽しい一席だった。

仲入り

古今亭雛菊「幇間腹」
トリを馬治師匠に譲って、前方に徹し客席を暖める雛菊さん。後輩として馬治師匠を立てる。
若旦那の呑気さ、いい加減さを上手く伝えてくれる。この噺も、逆らえない弱い立場の幇間が、無理強いされる可笑しさを味わえるもの。女流ならではの可愛い愛嬌のある幇間。オジサンから見ると、イジメにあっての気の毒というか哀れみが際立つ。結果的には、噺の本筋を効果的に伝えてくれることになった。

金原亭馬治「景清」
二席目は、十八番の演目。久々の大和田の常連さんたちを前に鉄板ネタをぶつけてきた。この演目は、馬治師匠で聴くことが一番多い。私にとっても馬治スペシャルな演目なのだ。
定次郎と後援者の旦那の会話で進む噺なのに、そこに居ない定次郎の母親の感情も含め、登場人物の感情の起伏を分かりやすく描写してくれるのが馬治師匠の持ち味。
この日の天候は曇りだったのが、夕方から雷と共に大雨。この景清の口演中から、遠くに雷鳴が響きだす。ちょうど清水観音堂に願掛けのお詣りの最中に、大きな落雷音。定次郎が雷に打たれるのは、噺のうえではもう少し先のこと。リアル鳴り物としては、惜しいタイミングの雷様。この落雷音に客席からも反応があった。さすが、景清を知っている落語ファンが集まっている。
馬治師匠の本格派の演目と雛菊さんの愛嬌あふれる滑稽噺の組合せで、どちらの芸風も際立つという二人会となった。

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