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落語日記 こみち師匠の歩む道

浅草演芸ホール11月下席夜の部 柳亭こみち主任興行

11月28日
この浅草演芸ホール11月下席は、昼の部が春風亭三朝師匠、夜の部が柳亭こみち師匠と若手真打二人の主任興行。先日の三朝師匠に続き、こみちファンでもある私は夜の部にも、こみち師匠の晴れ姿を楽しみに出掛ける。市松模様の客席は、けっこう埋まっている。さすがの人気。

こみち師匠は、女性ならではの感性や視点で、古典落語をこみち流オリジナルの女性版の噺へ改作することに挑戦されている。古典落語をひと捻りもふた捻りもして聴かせてくれるのだ。それも、こみち師匠の女流落語家であるという特性を活かし、かつ女性ならではの観点からの改作で、毎回、聴くたびに新鮮な感動を与えてくれるのだ。
この主任興行でも、きっとこみち流の改作が聴けるはずと、ワクワクしながら行ってきた。

お待ちかねの、こみち師匠の一席。マクラは自粛生活中のご自宅での過ごし方の話。毎晩、夫婦でハイボールを飲んでいるというお馴染みの話。ご主人の宮田昇さんはかなりの大酒飲みで、ハイボール用にウイスキーの大きなボトルを買ってくるが、数日で無くなってしまう。夫婦二人の晩酌のほのぼのとした光景が浮かぶ。主任興行だからという気負いもなく、いつものこみちワールドに引き込んでいくところは、どんどん貫録が付いてきた感じがする。そんな酒飲みの話題から本編へ。

演目は酒にまつわる噺だと思っていたが、私的には意外だった「試し酒」。そして、この一席も、こみちスペシャルな噺に改作されていて、こみち流落語の魅力を充分に伝えてくれたものだった。
こみち流改作の魅力を伝えるためには、改作の内容に触れざるをえないので、当然ネタバレになってしまうことはご容赦願いたい。
さて、今回の改作点は、近江屋の主人が従えてきたのが下男の久蔵ではなく、女中のおきんという女性の大酒飲みという設定。このおきんさんが、商家の主たちを驚かせる馬鹿な飲みっぷりなのだ。
酔っ払うことは男女の別は関係ないはずだが、落語の世界で酔っ払いと言えば男性。色々な噺のなかで、酒飲み亭主がどれだけ女房に迷惑をかけ続けてきたかは、落語ファンならご存知のこと。この亭主たちの酔っ払いの姿を、辛い思いを噛みしめて長年に渡り見続けてきた女房たち。また、あるときは温かく優しく見守って、亭主を支えてきた女房たち。今回、女性が酔っ払い、商家の旦那たち男性が呆れながら見守るという、今までの男女の立場を逆転させたものだ。
この立場の逆転によって、男性酒飲み陣へ、女房たちの積年の恨みを晴らしていると感じたのだが、いささか深読みすぎか。そう感じるのも、私も酒飲みの端くれとしての後ろめたさがあるからで、少しばかりの自戒の念でチクリと心を刺してくれたこみち師匠だった。

そんな裏読みは脇へ置いて、このおきんちゃんがとにかく可愛い。強烈な田舎弁で、とにかく明るい女性なのだが、酔うほどに陽気で楽しくなっていく。このおきんちゃんの人物描写の表現力は見事。嬉しそうにニコニコと飲む様子は酒飲みの鏡だ。ご主人の昇さんの酔っ払いぶりを真近で観察されている成果なのか。
おきんちゃんの「ありがとちゃん」という合いの手のようなセリフは笑いの引き金となっている。五杯目を飲む際には、こみち師匠の得意の咽を聴かせる都々逸を披露。

このおきんちゃんが見せ場を作れるのも、周囲を固める商家の男性陣を見事に描いているからだと思う。
男性が語る芸能として発展してきた落語だが、こみち師匠は女流としての表現力を活かして古典落語に挑戦されている。こみち師匠の男性登場人物の表現は、これからの女流のひとつの標準となるような気がしている。女流でも可笑しい、のではない。女流だから可笑しいのだ。そんな女流落語の新たな開拓者の道を、こみち師匠は着々と歩んでいる。

番組                 古今亭文菊「替り目」
途中入場

隅田川馬石「湯屋番」

林家正楽 紙切り
元気な馬(鋏試し)宝船 牛若丸 マラドーナ 忠臣蔵

林家正蔵「ぞろぞろ」
酒飲みの太郎稲荷、娘が御神酒持参でご利益を祈願する型。

仲入り

柳家わさび「券売機女房」
ぞろぞろやろうかと思っていたというマクラで、正蔵師匠が私服姿で乱入。
年寄り夫婦が経営するラーメン屋が券売機を導入するも、中に女房が入る人間券売機という新作。不思議なヘアースタイルで、痩せられた印象。

柳亭燕路「安兵衛狐」

ぺぺ桜井 ギター漫談

三遊亭圓歌「やかん」

入船亭扇遊「たらちめ」

翁家和助・鏡味仙成 太神楽曲芸
違う社中でのコンビを観るのは初めて。
包丁の皿回しを、仙成さんが寝ている上で行う和助さんの冒険。後輩として従わなければならない辛さ。

柳亭こみち「試し酒 -女中-」

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