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落語日記 馬生一門による馬鹿馬鹿しく楽しい茶番の熱演で、寄席に流れる癒しの時間

浅草演芸ホール 7月下席昼の部 金原亭馬生主任興行 大喜利「茶番」
7月24日
金原亭馬生師匠を中心として、馬生一門の皆さんは、寄席での鹿芝居、高座舞、茶番という企画物である特別興行の中心的役割を担っている。
これら大喜利の出し物は落語と違って、高座に大人数が登場する。よってコロナ禍の影響で、今年の国立演芸場の鹿芝居は中止、昨年の鈴本演芸場での高座舞も中止となった。浅草演芸ホールでの夏の恒例である茶番のみが、昨年に引き続き今年も開催された。馬生一門ファンとしては嬉しいかぎり。
この芝居、馬生一門ファンとしては何としても駆けつけなければ、そんな意気込みで出掛けてきた。昼の部なので、週末しかお邪魔できない。この日曜日は、馬玉師匠と交互出演の馬治師匠が出演されると聞いていたので、行くことに決めた。

浅草の客席は最前列のみ着席禁止、その他の制限はない。途中入場してみると、ゆとりある客席。前方の下手側の良い席が確保できた。後半に向けて徐々に埋まっていった。
馬治師匠の出演日なので、顔見知りの馬治ファンがチラホラ。寄席の客席で顔見知りと出会う機会もめっきり減った。皆さん、馬生一門のファンでもあり、この茶番もお目当てで来られている。休憩時間に皆さんと立ち話。話題はもっぱらワクチン接種のこと。皆さん、寄席に行くことも、まだまだ逡巡されている様子。落語の話が気兼ねなく出来るようになる日々が待ち遠しい。

入船亭扇遊「お菊の皿」
途中入場。相変わらず、寄席の出番が多い扇遊師匠。

林家木久蔵「金明竹」
華のある木久蔵、登場するだけで高座が明るくなる。マクラは、父親の木久扇師匠の骨折の話。現在はお元気で、快復されてきているとのこと。与太郎キャラの木久蔵師匠、キャラそのままの与太郎噺。
上方弁の言い立で拍手が起きてしまうのは、木久蔵師匠ならでは。この拍手に、父親が覚えられないくらい難しいんですから、という不思議な例えに会場大受け。ここで換気のための小休止。

仲入り

立花家橘之助 浮世節
小休止明けは、橘之助師匠の華やかな高座。ショートヘアーにされてイメージチェンジ、若々しくなられた。まずは、「茄子かぼ」で賑やかに。そして、お家芸の「たぬき」で見事な腕前と美声を披露。長い演目を時間いっぱいの途中まで。

柳家さん遊「強情灸」
金原亭伯楽師匠の代演。最近、色々なところでご縁の多い落語家さん。安定感あるベテランの登場で、寄席らしさの空気が増量。

春風亭柳朝「鍬潟」
声質と語り口のリズムが、私にドンピシャの睡眠導入剤となってしまった。いつの間にか意識を失う。浅草演芸ホールのツイッターで、ネタ帳がアップされているので助かる。珍しいネタだったので、よけいに残念。柳朝師匠、ごめんなさい。

林家二楽 紙切り
桃太郎(鋏試し) 東京オリンピック(聖火ランナー) 開会式(聖火点火場面)
お題は、当然、今一番のトッピク。漠然としたお題から、具体的な風景を切り出してみせる。このイメージの構成力が腕前の秘訣。

鈴々舎馬風「楽屋外伝」
久々に拝見。コロナ感染で入院されたようだが、すっかりお元気になられた様子で、いつもの高座。こちらもホッとする。まずは、昨日のオリンピック開会式の話題から。時流の話題を上手く料理してみせるところは、さすがです。

柳家権太楼「つる」
権太楼師匠は久しぶりに拝見。相変わらず、爆笑王の高座だった。マクラは、巣鴨の寿司屋で出会ったジジイとババアの話。権太楼師匠の独自の視点による人間観察力、そして市井の人たちの何気ない言動を面白可笑しくする表現力によって、短いマクラのエピソードが爆笑の一編となる。
本編も、お馴染みの前座噺を見事に料理。筋書きやセリフが分かっているのに、笑ってしまうという語りの力技を堪能。

仲入り

金原亭馬治「真田小僧」
この芝居のクイツキは、惣領弟子と二番弟子が交互出演。この日は惣領弟子の出番。演目は得意の噺で、寄席ではよく聴く噺。生意気な子供が父親を翻弄する様子が楽しい。特に気負うこともなく、飄々とした一席。

ロケット団 漫才
時事ネタが持ち味の二人。当然、冒頭からオリンピックいじりで盛り上げる。直前の話題をネタに構成する機動力は抜群。まさに、世情のアラで飯を食いという芸風。

古今亭菊春「まんじゅうこわい」
この茶番では欠かせないメンバー。まずは、落語の一席。持ち時間の関係で、噺の途中まで。強がり男が、饅頭を怖がる場面まではたどり着かない。長屋の若い衆のワイガヤ話に終始。こんな饅頭怖いもありか。

林家三平「ざるや」
兄の林家正蔵師匠の代演。マクラは笑点レギュラーの特権である笑点メンバーいじり。ネタには困らないようだ。
本編は馬生一門でよく聴く噺。クスグリなどが違っていて、新鮮な「ざるや」。茶番がメインのこの芝居、ひざ前の出番だが、楽しさ重視の軽い一席で上手く繋ぐ。

翁家社中(和助・小花)太神楽曲芸
久しぶりに、ご夫婦コンビでの高座を拝見。凄い曲芸の合間に顔を出す、和助さんのボケと小花さんのツッコミによる小芝居、なかなか微笑ましくて、私は好きなのだ。

金原亭馬生「猫の皿」
さて、お待ちかねの主任登場。寄席での馬生師匠は久しぶりだ。
端正な佇まいは、いつもと変わらず。鹿芝居や高座舞が中止となるなか、この茶番の興行が無事に開催できてホッとされているだろうが、コロナ禍が続く状況での開催は、複雑な感慨も抱えながらの高座だと思う。しかし、観客にはそんなことも忘れさせてくれるような、明るくて軽妙な高座が嬉しい。

骨董屋の世界で、地方に埋もれている掘出物を安く仕入れて高く売る「旗師(はたし)」という商売の解説から丁寧に入るのが馬生流。
旗師は、自分の目利きの知識や行動力で稼ぐ商売。この噺は、旗師商売特有の旨味を描き、そこで一獲千金の欲望に負けてしまった旗師の下心の哀れさと、結局は失敗してしまう痛快さを感じさせるもの。筋書もよく出来ているが、旗師の隠し切れない欲望を飄々と描いて見せるから楽しめる噺だと思う。そんな旗師を見せてくれた馬生師匠だった。

大喜利 茶番「三段目 仮名手本忠臣蔵」
出演 馬生 菊春 馬治 和助 馬久 馬太郎
忠臣蔵「刃傷松の廊下」の場面のパロディ。この茶番は、演目が違っても、毎回、決まってみせてくれるお約束がある。まずは、配役でもめるところ。結局は、座長の馬生師匠が美味しい役を持っていってしまうところ。そして、笑いどころでもある極め付けの見所は、座長の馬生師匠が菊春師匠をイジリ倒すというパターン。何度イジメられても、めげない菊春師匠の呑気なキャラが会場を沸かせる。
この日は馬治師匠が義太夫語りの役割。もっともらしく唸るインチキ義太夫と口三味線。さすが、今までの茶番でも場数を踏んできた馬治師匠ならでは。

今回も、出演者の皆さんの一生懸命な、いつもながらの華やかで馬鹿馬鹿しく楽しい悪ふざけを拝見できた。不要不急の最たる出し物だが、今のご時世、しみじみとほっと和む、こんな癒しの時間も大切なのだ。そんな感慨も味わった、例年とひと味違う茶番となった。
最後は、これも恒例のかっぽれの総踊りでお開き。

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