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落語日記 普段の食事のような落語は飽きが来ないのだ

池袋演芸場 1月下席昼の部 金原亭馬治主任興行
1月28日
昨年の鈴本演芸場5月中席昼の部以来の馬治師匠の主任興行。久々の主任興行なので、ぜひ行かねばと日程の合う日曜日に出掛けてきた。客席には顔見知りの馬治ファンが大勢駆け付けている。馬治師匠曰く「オトモダチ作戦」大成功のようだ。
この日の顔付けは、師匠の馬生師匠をはじめ、馬生一門の弟弟子が交替で出演し、一門でバックアップしている。馬治ファンとなったのが切っ掛けで、馬生一門のファンになる人は多い。なので、馬治師匠の会以外でも、ご贔屓さんをお見かけして挨拶する機会は多いのだ。

三遊亭歌ん太「転失気」
三遊亭歌武蔵師匠の弟子。初めて拝見。旬の前座さんの高座が聴けるというのも、寄席の
魅力のひとつだ。
 
金原亭馬久「元犬」
二ツ目枠は弟弟子たちの交互出演。この日は馬久さんの出番。
マクラで語る「犬」という文字の謂れ。本当かうそか分からないウンチク話は楽しい。真偽は分からないが、馬久さんが語るともっともらしく聞こえる。
本編は、よく聴く型だが、下げは初めて聴くもの。ネットで調べると、柳家小満ん師匠作の元犬の改作で「犬の字」と題する噺から来ているようだ。なるほど、マクラでの犬の文字の話から繋がっていた。
 
桂やまと「本膳」
弟弟子の金原亭馬玉師匠の代演。マクラの細かい小噺から会場を暖める。天気とボクサーの洗濯の小噺はオリジナルか。
本編は、集団での行動が鸚鵡返しとなっている典型的な噺。ものを知らないことを恥じる見栄っ張りの心情を上手く伝える滑稽噺。やまと師匠は、寄席サイズの滑稽噺も瞬発力が在って上手い。

三遊亭天どん「ハーブをやっているだろ!」
新作派の林家きく麿師匠の代演なので、同じ新作派の天どん師匠が選ばれたのだろうか。いつもながらのたたみ掛けるようなマクラの後で始まった本編は、この池袋演芸場と池袋を舞台とする天どん師匠作の新作。実際に違法ドラックの事件が起こっている池袋だけに、馬鹿々々しい設定がリアリティのある可笑しさに感じられる。

笑組 漫才
ボケのメガネのゆたか先生とツッコミの太目のかずお先生の漫才コンビ。ちょっとオネエキャラっぽいゆたか先生の早口に、かずお先生がツッコんでいるのかいないのか分からない風の漫才。このほのぼのとした笑いの時間も楽しい。

三遊亭歌武蔵「支度部屋外伝」
定番の相撲ネタで会場を沸かせる。この日は大相撲初場所の千秋楽。話題は、照ノ富士の復活と琴ノ若が大関昇進を決められるか。琴ノ若の父親が元関脇・初代琴ノ若で、祖父が横綱・琴櫻という家系。今回の活躍で、祖父の四股名を襲名するのかどうか、そんな話を元相撲取りとして分かりやすく解説してくれた。

金原亭馬生「干物箱」
先日の主任興行とは変わって、今度は師匠が仲入り前の出演で、弟子の主任興行をバックアップ。
マクラでは、弟子の馬治が主任を務めますと馬生師匠にしては珍しく弟子のことに触れる。先日行われた新年会での馬治師匠の吞兵衛ぶりをネタして、会場を盛り上げる。
本編は、呑気で遊び人の若旦那と、身代り役を引受けた貸本屋の馬鹿々々しい行動が笑いを呼ぶ高座。若旦那も貸本屋も、妄想による一人芝居が馬鹿々々しすぎる。こんな風にお茶目な行動を軽妙に描いてみせるところも馬生師匠の魅力なのだ。

仲入り

古今亭志ん五「野鳥の怪」
久しぶりに拝見。古今亭一門の後輩として、先輩の主任興行を盛り上げてくれた。本編は野鳥たちが会話をしたら、他の鳥たちのことをこんな風に見ているという話で擬人化された鳥たちの会話が楽しいファンタジー。志ん五師匠らしい新作。

林家しん平「焼肉屋」
しん平師匠は寄席でしか拝見していない落語家さんの一人。熱心に寄席通いしていない私でも、しん平師匠の寄席での遭遇率は高い。そして、短い寄席サイズの高座でもその瞬発力は凄い。毎回、客席を爆笑させる。
この日の高座は、漫談のような一席。ネットで拝見すると、この演目名が付いてアップされているし、以前に聴いたことのある内容なので、漫談のようでもあるが一定の内容で噺が進む新作みたいなものだろう。噺の中身は、会場のある池袋の焼肉屋で食べる焼肉の体験談。タン、ハラミなどの部位ごとに食べ方をリアルに再現。全観客に、生唾を飲ませた高座だった。

ストレート松浦 ジャグリング
膝替りの色物さんは、いつも見事なジャグリングを披露してくれるストレート松浦先生。この日も、技もトークも絶好調。お顔を拭くタオルハンカチの柄が、いつもと違っていた。

金原亭馬治「お見立て」
いつもと変わらない表情で登場。この日はオトモダチ作戦で、ご贔屓さんが大勢駆けつけていて顔見知りが多いためだろうか、特に気負うこともなく淡々と噺を進めていた。
本編は、馬治師匠で何度聴いているか数えきれないくらいの演目。過去の日記を検索してみると、2017年10月の主任興行で掛けたこの噺の記録が出てきた。その日記には「お見立ての馬治、そう呼ばれる日も遠くない」という感想が書いてあった。当時から、すでにこの噺は何度も聴いていたお馴染みの演目なのだ。馬治師匠でこの噺を最初に聴いたのは、おそらく十年以上前のことだ。
お馴染みの噺を何度も繰り返し聴くというのも、落語という芸能の特色だろう。特に、特定の落語家を追いかけていけば、自然とそうなってしまう。
この同じ落語家から何度も同じ噺を聴くという行為は、食事において主食のお米を食べ続けても飽きないということと似通っていると考えている。確かに、たまには豪華なコース料理も食べたい。洋食や中華、カレーライスにラーメンも食べたい。でも、毎日食べても飽きない和食の定番メニューがあるからこそ、豪華で贅沢で非日常の料理が美味しく感じられるのだ。
私にとってこの飽きない普段の料理とは、米飯を主食とし、みそ汁、梅干しに納豆や漬物といった毎朝のように食べ続けている料理ではないかと思っている。そんな、飽きない普段の料理に相当する落語もあるし、たまに食べたくなる豪華な料理に相当する落語もあると考えている。私にとって寄席における馬治師匠の落語は、まさに毎日食べても飽きない、普段の料理のようだと感じている。

また、お馴染みの噺を聴き続けているからこそ感じられる変化もある。料理で例えると、今日のお米は新米だとか、漬物の塩梅が良い具合とか、ちょっとした変化を感じることも食事の楽しみになってくる。これは落語でも同じ。噺の中で、年齢を重ねていくうえでの変化や、時流や世相を反映した変化を見つける楽しみがある。この日の発見は、杢兵衛お大尽が印西に住んでいること。馬治師匠の住まいからの入れ事だ。それにしても、訛りが酷すぎるのが可笑しい。
この「お見立て」も、馬治師匠を追いかけていくうえで、これからもずっと付き合っていく噺だろう。なので、たまに喬太郎師匠や一之輔師匠みたいな豪華メニューも食べたくなるのだ。
ところが、馬治師匠もたまに豪華メニューを提供してくれるときがある。2月10日に高円寺で開催した独演会で、「鰍沢」を掛けたそうだ。この日は所要で行けなかったのだが、こんなサプライズも馬治師匠の魅力なのだ。

この芝居のラインナップを記録として残しておく。このラインナップだけ見ると、定番メニューとは言っても、けっこう豪華版なのだ。
初日 井戸の茶碗
2日 幾代餅
3日 片棒
4日 景清
仲日 棒鱈
6日 笠碁
7日 芝浜
8日 お見立て
9日 らくだ
楽日 景清


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