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落語日記 今年の初落語は馬治師匠から

第25回 馬治丹精会
1月11日 日本橋社会教育会館 ホール
 
金原亭駒介「元犬」
 
金原亭馬治「味噌蔵」
 
北村貴徹 津軽三味線
 
仲入り
 
金原亭馬治「幾代餅」
 
今年の初落語は、裏方のお手伝いをしている馬治師匠主催の独演会から。
この会は4ヶ月ぶりの開催。コロナ禍第8派で新規感染者が増加している状況が影響してか、前回よりも来場者が少なく、4割くらいの入り。来場者のほとんどが常連さん。こんな状況のなかでも来場していただける常連さんの熱心さは、ほんとうに有り難い限り。お手伝いしている者としても、喜びを感じるところ。
この日も、受付で事務作業していて高座は少し覗き見しただけで、ほとんどロビーに流れるモニターの音声を聴くのみだった。なので、いつものような客席で聴いた感想はない。
 
この日のネタ下しは「味噌蔵」。モニターから聞こえる馬治師匠の口演からは、客席の反応が伝わりづらい。どうしても笑い声が聞こえず、高座の表情も分からない。そんな状況で聴くと、この演目は中々に難しい噺だなあという印象。噺自体に、笑い所のクスグリも少ないように感じた。
この噺は、極端な吝嗇屋(しわいや)の商家の主人吝兵衛(けちべえ)の癖の強い奇行と、それに振り回される奉公人たちの大騒動を描いている。なので、その奇行や被害者たちの困惑の表情を見て、商家の雰囲気を味わうことが、この噺の楽しみ方なのではないか。この日、音声のみで聴いたことによって、そんなことを強く感じた。
商家を舞台とした演目は、馬治師匠の得意とするところ。味噌蔵も磨いていって欲しい演目。いずれくる客席で正面から拝見する機会を、楽しみに待つとしよう。
仲入り後は、雰囲気が変わって十八番の人情噺で〆た。
 
吝嗇屋が登場する噺は数多い。馬治師匠も片棒を十八番としている。しかし、その吝嗇屋の具体的なケチぶりや、ケチによる奇行を描いて笑いどころとしている噺は少ないなか、描いている噺の代表格が味噌蔵だ。健康のためには命はいらない的な、吝嗇が行き過ぎて、本来の目的を忘れるという面白さ、これを噺全体で味わえるのが味噌蔵なのだ。
この味噌蔵は、吝嗇以外にも火事がモチーフとなっている。下げがまさに火事に対する恐怖を描く。江戸の華である火事は、商家にとっても天敵。稼いだ身代財産のすべてを一夜にして失ってしまうのだ。
そんな商家の防火対策として、落語にもよく登場するのが「土蔵の目塗り」だ。この目塗りとは、火事が起きた際に、蔵に火が入らないように練り土で扉の隙間や鼠にかじられた穴などを埋めることを言う。この目塗りのために使う練り土は、用心土とも呼ばれたそうだ。味噌蔵でも登場した目塗りは、ねずみ穴や火事息子などにも登場し、落語ファンにはお馴染みの風習だ。
この味噌蔵の噺のなかでは、目塗りの素材が練り土ではなく商売物の味噌を使う。練り土ではなく味噌でも防火効果はあるのか、江戸時代では実際に味噌を使って目塗りしていたのか、そんな疑問がわいてきたので、ネットで調べてみた。
そこで見つけた記述。江戸時代の和本、南極斎の「鎮火用心車」のなかに、練り土より味噌が良いと書いてあるとのこと。練り土は、乾燥していざというときに使い物にならないよう、管理するのが大変らしい。その点、味噌はいつも柔らかいという利点がある。そんな利点まで書いてあるのだ。焼けた後に食べられるという理由は、吝兵衛さんの屁理屈のようだ。
和本の記述だけなので事実は不明だが、防火対策としての効果は別にして、目塗りに味噌が使われていたと想像するだけで楽しくなる。
 
今回のゲストは、津軽三味線の北村貴徹さん。馬治師匠とは同じ印西在住というご縁。
この津軽三味線の演奏が見事で、モニターから聴こえる演奏が凄すぎて思わず舞台を覗きに行った。とういうのも、お一人で演奏しているのに、二人で演奏しているように聞こえたのだ。拝見すると、棹を抑える左手でも糸を弾いている。どうやらハジキと呼ばれる技法らしい。その凄技による熱演は、会場外にいても伝わってくる。
邦楽に詳しく自らも三味線を弾かれる前座の駒介さんも、その凄さに驚かれていた。
この熱演によって、メリハリの効いた落語会となった。

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