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落語日記 土曜日の午後、ゆったりと時間が流れる空間を作ってくれた演者の皆さん

趣味の演芸 -「やさいの時間」〈菜・くわい〉-
7月3日 柳橋 共和会館
会場は浅草橋駅から歩いてすぐの貸会議室。朝からの雨も上がったので、我が家からも近く徒歩で訪問。落語協会のサイトの扇蔵師匠のページで、この会を発見。扇蔵師匠の生の高座は久しぶり。楽しみに出掛ける。
この会は全員ネタ出し。この会の主催者の頭文字から、中村裕明企画(NHK)と表示され、そこからNHKの番組「趣味の園芸」をもじって、「趣味の演芸」と付けられた会の名前。その第1回は「やさいの時間」と題して、噺の中に野菜が登場する二演目をネタ出しという企画。
会場は大きめの会議室。良い具合に埋まった客席で高座も近く、土曜日の午後のノンビリした空気が漂う過ごしやすい空間だった。

入船亭扇蔵「百川」
前座なしで、まずは扇蔵師匠から。ヘアースタイルが変わっていて、しばらく拝見していなかったことを感じさせる。マクラは、このコロナ禍での寄席の状況から。出演されていた寄席の休席の実体験。そんな苦労話も笑い話に変えて、会場を和ませる。そんなマクラからも、扇蔵師匠の穏やかな人柄が伝わってくる。
ネタ出しの一席目は、クワイのきんとんが登場する百川。扇蔵師匠では初見。先日のやまと師匠で聴いたばかりの演目。その演者ごとの違いも感じられて、楽しい一席だった。
主役の百兵衛のセリフに注目してみると、扇蔵師匠が語るその田舎弁セリフは、訛ってはいるが聞きやすいもの。その訛り具合は、落語世界の住民、飯炊きの権助と同じレベルだ。そしてこの噺の肝となる「主人家の抱え人」の発音部分のみが、あやふやな表現となっている。そんなメリハリの効いている訛り具合。
扇蔵師匠の芸風を感じさせるように、百川の主人も江戸っ子の河岸の若い衆たちも鴨池先生も、どこかマイルドで純朴な人間性を感じさせるもの。噺の筋書きの激しさも、芸風でマイルドにした扇蔵師匠の一席だった。

換気のための仲入り

林家楽一 紙切り
野菜の時間なので、まずは、鋏試しで「胡瓜(河童の親子)」
観客の注文で、「丹頂鶴」「茄子南瓜(喧嘩する茄子と南瓜)」「蛍(蛍狩り)」
ナスカボの注文が出るあたり、演芸マニアの観客も来られているが分かる。
丹頂鶴を切って貰ったご婦人、一緒に貰ったクリアファイルがNHKの人気キャラのチコちゃんの図柄で、チコちゃんだと大喜び。そのご婦人に対して高座から楽一さんが、私の作品も見てくださいと声を掛け、会場爆笑。楽一さんのほのぼのとした雰囲気が、会場に充満していた。

換気のための仲入り

柳家さん遊「青菜」
トリの高座は重鎮のさん遊師匠。先日の池袋演芸場でも拝見した。池袋の高座はマクラたっぷりだったが、今回も時間たっぷりなので、ゆっくりとたっぷりのマクラ。ほのぼのとした空気がゆったりと流れる贅沢な時間。笑わせようということもなく、コロナ禍でのご自身の過ごし方や家族のお話が微笑ましい。
仕事が無くなって、今、お上の世話になっている。何のことかと思えば、持続化給付金や支援金のこと。最近は、ぼーっとしていて、噺を間違える。そんな正直な告白も、ベテランでもそうなんだと納得の話。自らの失敗談をネタにするマクラ、さん遊師匠の芸風が滲み出ている。

本編は、ネタ出し二席目、野菜第二弾はそのものずばりの青菜。
このお屋敷の主と植木屋の会話の長閑な雰囲気が、さん遊師匠の雰囲気にピッタリ。先代小さん師の世界を彷彿とさせる一席。
今まで聴いてきた青菜から、主役の植木屋には、さぼり無自覚の悪気なしタイプと、さぼりを自覚している小狡いタイプの二つがあると考えている。そしてこの日のさん遊師匠の植木屋は、さぼり自覚の小狡い型の方だ。お屋敷からの帰り道で、さぼっていたことを自白する型。どちらかと言うと、多数派。でも、この植木屋は決して悪人ではない。ちょっと後悔を感じさせる人の好さがある。
面白いと思った特徴的場面は、植木屋が女房の馴れ初めの場面を語るところ。お見合いの場所が動物園で、カバの檻の前。檻の前で長時間待たされて、カバを見続けてきてから女房を見て、それで結婚してしまった。このエピソードが抜群に可笑しく、その後の長屋のシーンでも効いてくる。
ザッツ柳家、そんな雰囲気の青菜を披露してくれたさん遊師匠だった。

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