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落語日記 文七元結をリレーで聴かせてくれた遊かりさんと一花さん

遊かり一花の「すききらい」special
1月24日 月島社会教育会館
遊かりさんと一花さんの二人会。好きな噺と苦手な噺とに交互に取り組む趣旨の落語会で、通っている会。今回は、第12回となるのだが、紙切りの正楽師匠をゲストに迎え、会場も今まで開催していた新宿の無何有から移動して、特別な会として開催。
前回は苦手な噺の回だったので、今回は好きな噺の回。そして、文七元結のリレーをネタ出し。なので、今回の演目は全部、好きな噺なのだろう。
 
会場に入ってビックリ。今回は定員240名の広い会場のはずだが、そこには移動式座席で最前列3列60席のみが配置されている状態。この座席の後ろは、体育館のような座席の無い空間が広がっている。これは、予約の状況からして全座席を使用すると観客がバラけてしまうため、ある程度観客が集まった状態で座ってもらうようにという配慮でのセッティングらしい。
それでも、無何有のときの何倍かの入場者で、常連さん以外の方も増えている。広い会場に少ない数の座席の配置というのは珍しいが、この雰囲気だけでもなんだか楽しい。その少ない客席に集められた観客の間には、不思議な連帯感が漂っている。そして、常連さんたちが多い客席の熱心な視線は、いつもの無何有の客席以上に、会場に熱気を生んでいる。
 
オープニングトーク 遊かり 一花
まずは、観客の皆さんが驚かれたであろう、客席の配置の説明から。移動式座席なので、レイアウトは色々と変えられる。来場者数からの判断で、演者側からも観客側からも高座に集中できて楽しめるように、座席の配置を工夫されたとのこと。入場時はビックリしたが、始まってみると、結果は大正解だったと思う。ある意味、贅沢な空間での落語会だと言える。
この二人会も回を重ねてきて、好きな噺と苦手な噺を掛けるというコンセプトを見直すことになったようだ。どんな会にしていくのかは次回のお楽しみ。
なので、今回のトークでは「すききらい」にちなんで、お互いの嫌いなところと好きなところを発表。まずは、遊かりさんから一花さんの嫌いなところ。すべてが揃っている素晴らしい亭主がいるところ。独身の遊かりさん、マジで羨ましがっていた。次は、一花さんから遊かりさんの嫌いなところ。凄く優しいのだが、お母さんみたいに厳しい。二人とも、お互いの嫌いなところの指摘は悪口ではない。聞いていて、なるほどと感心して、なお且つ気持ちよく笑える。そんな楽しいトークは、二人の関係性を正直に伝えてくれる。
 
鈴々舎美馬「平林」
前座の美馬さんは初見。ネットで見ると評判が良い。初めて聴いた感想は、噺に対して正面から取り組む姿勢と、へんなクスグリなどないのに湧き上がる笑いが多いこと。リズムで笑わせているところは凄いと感じた。将来が楽しみな前座さん。
 
春風亭一花「駆け込み寺」
まずは、一花さんから。遊かりさんのトークを受けて、夫婦の噺をしますと本編へ。
初めて聴く噺。ネットで調べると、大師匠である先代柳朝師の持ちネタだったらしい。一花さんは、一門の柳枝師匠から習ったそうだ。大師匠所縁の噺を一門の若者が引き継いでいくのを見るのは嬉しいことだ。
噺は、厩火事のような夫婦の愛情物語。結局は好き合う者同士の痴話喧嘩だったという筋書。江戸の頃、女性の側から夫と離縁する手段として有名な鎌倉の東慶寺。そんな駆け込み寺の存在を前提に、女房が駆け込んだかもと思い込む亭主の可愛さを描いている。「いざ鎌倉」がキーワード。
夫婦の痴話喧嘩の噺、一花さんにすごく合っている。一花スペシャルとして、掛け続けて磨いていってほしい。と思っていたら、ご亭主の馬久さんもこの噺を掛けているのをネットで発見。仲良し落語家夫婦が、二人とも仲良く掛けている仲良し夫婦の噺という面白さ。
 
三遊亭遊かり「転宅」
一花さんの夫婦の噺のあとは、遊かりさんで、妻をめとりたい泥棒の男心を、お妾さんがもてあそぶ噺。遊かりさんの評判の良い転宅は、今回初めて聴く。
このお菊さんは遊かりさんに合っている。女性に対する誉め言葉ではないが、このお菊さんは、度胸と気っ風がいい。後で登場する文七元結の妓楼の女将とも通じる女性。芯の強さを秘めながら、女性らしさや色気も強く感じさせる。遊かりさん自身の理想の姿なのかもしれない。対する泥棒の間抜けさ、笑えるが可哀想にも思える。泥棒の呑気さ人の好さと、お菊さんの色気で手玉にとる逞しさの対比で、笑わせてもらった一席。
 
仲入り
 
林家正楽 紙切り
男の子を乗せた馬(鋏試し) 梅に鶯 厩火事 月夜の兎に正楽師匠 花魁道中
双子のパンダ
正楽師匠は、ゲストでも普段の寄席と表情は変わらない。そんな正楽師匠の登場で高座は寄席の雰囲気に変わる。
 
三遊亭遊かり「文七元結(上)」
さて、後半はネタ出しのリレー口演。吉原を出て吾妻橋に到着するまでの前半を、遊かりさんが担当。
遊かりさんの文七は、昨年12月の独演会で聴いたばかり。その際は通しで聴いたが、前半に力が入っていた印象があり、やはり前半の場面が得意なのではと感じた。
前半は長屋での夫婦喧嘩と、佐野槌で女将やお久と会う場面。女房、女将、お久の女性陣が駄目駄目亭主の長兵衛と対峙する。ここは、遊かりさんが本領発揮される場面だ。
前回聴いたときよりも女性陣がパワーアップしていたのと、女性陣のセリフが遊かりさんの腹から出ていたように思う。特に、吉原の妓楼佐野槌での親子対面の場面が見せどころ。お久が父親に五十両を渡す際に告げるセリフが娘心を素直に伝え、長兵衛にとって何よりの薬となる。佐野槌の女将も、妓楼の店主らしい厳しさと同時に、人情味あふれる優しさが同居していて、前回同様にカッコ良くて凛々しい女性が再登場。そんな前半。
 
春風亭一花「文七元結(下)」
「外見も中身も変わりました」と語ってから、マクラなしで本編へ。噺の流れを途切れさせることなく、後半へ上手く導入。長兵衛が吾妻橋で文七の身投げと遭遇する場面から再開。一花さんの文七元結は初めて聴く。
吾妻橋での長兵衛と文七とのリズミカルな遣り取りで、長兵衛の江戸っ子らしさ、文七の真面目で短慮ながら主思いの奉公人であること、それぞれが伝わる描写だ。三十両に値切る長兵衛、五十両を渡すまでの逡巡の時間も短い。前半の長兵衛親方が女房や女将の前では情けない男だったのが、吾妻橋から別人のような決断力のある男に変わっている。これも、芸風の違う二人のリレーならではの楽しさ。まさに、リレーの醍醐味だ。
また、大旦那をはじめ商家の皆の商人らしさを見せながら大団円に向かう怒涛の流れ。一朝一門らしい江戸っ子たちが見せる人情の交錯が心地良い後半。それぞれの個性が発揮された楽しいリレーだった。
 
この日は記録的寒気が日本中を覆い、東京もこの冬一番の寒さとなった。終演後に熱気あふれる会場を出たら、外は強い寒風が吹き荒れていた。着物一枚で夜道を歩く長兵衛親方の気分を、図らずもリアルに味わうこととなり、しみじみと帰路に就いた。

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