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落語日記 三遊亭遊かり独演会vol.3

6月17日配信 6月14日収録 江戸東京博物館小ホール
 遊かりさんご自身で主催されている独演会。江戸東京博物館の小ホールをホームグランドとして今までに2回開催されている。今までの2回とも参加した。
 6月14日開催を決めて準備広報を始めたころに、コロナ禍で会場のホールが使用中止となり、今回の開催も危ぶまれていた。その後、緊急事態宣言も解除され、会場の使用も可能となり、その開催方法を江戸東京博物館サイドと協議して、何とか開催にこぎつけた。

 消毒・換気などに配慮するのは当然、入場者数を通常の半分以下にして開催してくださいという会場からの要望で、定員135名のところ40名で満席として、ソーシャルディスタンスを保てるよう配慮した客席。
 そして、来場できない観客のため、配信のための収録も行う。生配信でないのは、会場のWi-Fiが弱く、生配信が難しいためらしい。私は収録配信を視聴した。今回の形式は、有観客と収録配信の組み合わせ。落語家の皆さん、色々と工夫されている。
 独演会当日の14日夜、配信視聴者限定の特典映像として「三遊亭遊かりによる神田鯉栄先生インタビュー」が配信された。これも拝見したが、遊かりさんが如何に鯉栄先生を尊敬しているかが伝わる対談だった。

 コロナ禍によって、開催出来るかどうかが決まるまでは不安な日々を過ごされたきたのだろう。高座に上がれたことが、嬉しくてしかたない、この日の高座から、そんな遊かりさんの喜びが伝わってくる。
 遊かりさんは、ツイッターやブログで情報発信されている。そこにも「ここまで長かった…」と苦悩の日々を過ごしてきたことが綴られている。そして、この日は4月3日以来の観客を前にしての高座。「高座に上がって皆さまの懐かしいお顔を見た途端、駆け出して行って一人ひとりと握手したくなったのを、必死でこらえました」とあふれる嬉しさも綴っている。

 そんな喜びが、高座の語り口にも表れているようだ。いつにも増してスピードアップされ、少しでも早く先へ先へ筋書を進めたい、そんな思いが感じられる。これは、前半は効果的だったようだが、後半の青菜では、落語に流れる時間が少し早すぎるように感じてしまった。久しぶりの観客を前にした高座、その嬉しさのあまり、いささか暴走気味だったかもしれない。これも喜びの発露に違いない。それを見た観客は、芸人の素直な喜びを味わうことが出来たのだ。

三遊亭遊かり「お菊の皿」
 マクラでは、久しぶりの人前での高座なので、ご挨拶と近況報告。ご自身の自粛生活の過ごし方や楽しみを楽しそうに語ってくれた。
 まずは、料理に凝って、ボルシチまで作っていたと。そして、可笑しかったのが、一人前で足りるのに、四人前の餃子を作ってしまい、これによって孤独を感じてしまったというエピソード。餃子作りによって孤独を知る、独身女性ならではの名言だ。また、ビックリしたのが美魔女コンテストに応募したこと。
 そんなエピソードから本編へ。全体にスピード感のある一席。若い衆がお菊の井戸を訪ねるところから、お菊さんがスターに昇りつめるまでがあっという間。お菊さんのヤサグレ感が可笑しい。

三遊亭遊かり「置泥」
 そのまま続けて一席。罪の軽い泥棒とは、扉を開けたら開いちゃったので入っちゃった、そんな泥棒。この開いちゃった泥は、出来心なので罪が軽かったという前振り。この辺りの解釈も、いい加減で適当な感じが落語っぽい。
 入っちゃった家の住民がお婆さんという改作。転んでもただでは起きない婆さんで、泥棒にもまったく物怖じしない。面白いキャラながら、もうちょっとお婆さんらしさがあれば良かったかも。

仲入り

神田鯉栄「羽黒の勘六」
 この日のゲストは、遊かりさんが心より尊敬していて、大好きな先輩芸人の鯉栄先生。鯉栄先生が出てくれて一番嬉しかったのは、間違いなく遊かりさんだ。
 マクラが楽しい鯉栄先生。本編の語り口とは全然違う。語り口が柔らかいし、楽しいお姉さんって感じ。まずは、弟子入り修業の話から。芸のために、一度は女を捨てる覚悟をした。それでも何度か恋愛のチャンスがあったらしい。ご自身の失恋話も楽しいネタにされている。さすが、見上げた芸人根性だ。
 自粛生活でのささやかな楽しみも疑似恋愛。ヤマト運輸の配送のお兄さんに恋した鯉栄先生。このお兄さんを、四月の風と名付けるところが素敵な感性。
 荷物を受け取る玄関口での遣り取りが楽しい。恋する鯉栄先生の表情が可愛い。受け取り時のサインが廃止されて、がっかり。この話にも下げをつける。ご自身の経験を笑い話に変えて、観客を一気に掴んだのはさすが。

 本編に入るときは、姿勢を正して、声色も講釈師へと変わる。
 演目は清水次郎長伝より「清水の次郎長と羽黒の勘六の出会いの段」で、喧嘩の助っ人に来た次郎長を殺そうと一人で敵陣に乗り込んた羽黒の勘六と、その心意気にうたれる次郎長という任侠物。切れの良い啖呵の応酬が見事。流れるような名調子で聴かせる。
 登場人物の中で、次郎長の子分の桶屋の鬼吉が道化役で楽しい。「箍(たが)が緩んでんじゃねえ、外れてるんだ」というセリフで何度も笑わせてくれる。
 遊かりさんが惚れるだけあって、その男っぷりが良くてカッコイイ鯉栄先生だった。

三遊亭遊かり「青菜」
 マクラでは、鯉栄先生の一席を少しイジる。私にも六月の風が吹かないかしら、と早速取り込み笑わせる。そんなマクラも短く、トリの一席は夏らしい演目。
 ごちそうになることを「のっつける」、後に付いていくことを「弁慶」というらしい、そんな導入。

 遊かりさんらしいスピード感のある語り口。後半の植木屋夫婦のお屋敷ごっこのドタバタ劇、ここでも流れるようなリズムで、馬鹿々々しい真似事を繰り返す。
 大汗かいての大熱演で、植木屋も主人も前のめり。少しサボっていたことの後ろめたさも感じさせる植木屋。この植木屋に特に力を入れて描いていた感がある。
 お屋敷の主人、奥方、長屋を訪ねる友人などの、植木屋が相手とする人物たちのキャラの違いが描かれるともっと良くなるのでは、そんな印象だった。特に、早い語り口によって、お屋敷の主人のおっとりした雰囲気が感じられず残念。
 観客の前で生で落語が出来る喜びを、目いっぱい高座で表現した、この日の遊かりさんだった。

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