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落語日記 金原亭の若手二ツ目ライバル四人の勉強会

第6回 馬と桃
10月10日 本所地域プラザBIGSHIP
馬生門下の小駒さん、馬太郎さん、白酒門下のこはくさん、白浪さんという4人による勉強会。二ツ目に昇進して2、3年のほぼ同期の4人。同時期に前座修行していた仲間でありライバルでもある。
二ツ目になって自分たちの勉強会を始めた途端、コロナ禍の影響で会を開催できなくなった。若手落語家にとって、コロナ禍による開催中止は大変な試練である。そんな試練を乗り越えて、1年ぶりの開催となった。
私は、2019年8月17日の第2回にお邪魔して以来、この会は2年ぶりとなる。二ツ目時代とは、色々な噺に挑戦しながら、個性を磨いていく精進と成長の時期だと思っている。再開までの1年間は、4人にとっても貴重な1年間だったはず。4人の変化と成長がきっと見られるだろうと、期待をもって出掛けてきた。
会場には、馬生一門ご贔屓さんの顔見知りが数人、有難いかぎり。今回は、会場で収録して、後日配信も行うそうだ。

オープニングトーク
4人揃って登場。この風景は、なぜか懐かしく感じられる。2年ぶりだとそう感じるのか。
まずは、馬太郎さんから話し始める。小駒さんが、受付で木戸銭を集めた。ところが、集計すると合計金額が合わない。馬太郎さんが数えなおすと、千円札の束を10枚重ねてそのうえから1枚被せて束を作っていたことが判明。つまり、1束が11枚だった。本人も苦笑いの与太郎エピソードでイジられる小駒さん。
今回は配信用動画を収録しますので、いつもの五割り増しで笑い声を上げていただきますようお願いしますと、馬太郎さんからのお願い。仕切り役が決まっていないようで、グダグダ感は以前と変わっていない。馬太郎さんが、どうやら仕切り役に適任のようだ。
話題は、それぞれのシクジリ話へ。トークでの仕切り役が似合う馬太郎さんは、この4人の中では一番しっかり者のようだ。どうも落語の芸風と関係なく、他の3人はシクジリが多いようだ。

金原亭馬太郎「千早振る」
出演順は、ずいぶん前に決めていたようだ。香盤に関係なく、じゃんけん等で決めるそうだ。金原亭らしく、マクラは短く定番の導入。きっちりとしていて綺麗な芸風は、馬生一門の特徴。そして、馬生師匠の語り口を、馬太郎さんのセリフの端々に感じる。この演目も、場面描写や時代の解説が、七五調の格調高いセリフ廻しになっている。特に、吉原の描写辺りから、ご隠居のセリフがリズミカルな抑揚が付けられたもの。

この噺に登場するセリフ「歌の訳(わけ)を教えてください」の中に、「訳」という単語がある。現在、訳といえば、ほとんど「理由」の意味で使われていると思う。ところが、このセリフでの「訳」は、「意味」のことである。歌の意味を教えてくれ、と言っているのだ。現在も、訳は「意味」を表す言葉としても使われていて、例えば「言っていることの訳がわからない」などと使われている。馬太郎さんが語る「訳」という単語、この言葉使いが何とも落語らしく、また時代を感じさせる。何気ない言葉使いだが、落語らしさを大切する細かい気遣いが感じられる一門なのだ。

桃月庵白浪「死神」
小駒さんの逸話からの流れで、落語協会を代表する与太郎キャラの林家やま彦さんの伝説的逸話。割り算が苦手という話なのだが、この流れから壷算かと思っていると、八百万の神様のお話へ。
有名な神様である天神様は、落語にも縁がある。確かに初天神はよく掛かるし、狸賽の下げにも登場する。そんなご縁の噺かなあと思っていると、菅原道真の血筋をたどると古今亭志ん生師匠に繋がるという意外な話。ということは、志ん生のひ孫である小駒さんも道真公の子孫。学問の神様との血筋をまったく感じさせない子孫の小駒さん。これを淡々と語るだけで会場を沸かせる白波さん。
この神様のマクラから、本編に突入。演目が死神と分かって、会場にはビックリの空気。

語り口は落ち着いていて丁寧で、声質も良い。白酒一門らしさを感じる。終わってみると、かなり短いバージョン。噺の筋やポイントは押さえていて、簡潔で短く再構成。寄席でも充分に掛けられる長さだ。このアレンジはお見事。
このアレンジは、長さだけではない。登場人物の表現にも工夫が感じられる。筋書きが分かりやすく伝わるように、主人公の男がいたって普通の男になっていて、やさぐれていないし、欲に溺れることもない。誰にでも起こりうる物語、となっている。その分、死神の表情は豊かであり、不気味さ怖さを感じさせる表情を見せてくれる。このあたりのメリハリの効いたテクニックにも感心させられる。なかなかの技巧派、すっかりお見逸れいたしました。

仲入り

桃月庵こはく「ずっこけ」
どうやら、本日は笑い声が少ないようです、というマクラから始まる。なので、配信の際は、無観客で収録したということにします。ちょっとした毒舌と、とぼけた語り口は白酒師匠ゆずりか。真面目な印象の白浪さんとは好対照。また、ご自身が酒好きのようで、しょっちゅう二日酔いしているとの告白。どこか無頼漢の風情もある。そんなマクラから、本編は酔っ払いの噺。

前半部分の噺「居酒屋」は聴いたことがあるが、その続きの後半部分である「ずっこけ」は、今まであまり聴く機会はなかった。つまりは、あまり高座に掛けられていない、演者側にも人気のない演目なのだ。
その理由は、この日のこはくさんの一席を聴いて何となく想像がつく。酔っ払いが店の小僧にしつこく絡む場面は、酔っ払いの醜態と笑えるところもある。しかし、兄貴分が酔っ払いを自宅に連れて帰る途中で、公衆便所で用を足す場面がある。ここでは、兄貴分が便器の前で酔っ払いの着物を捲ってやる光景や、褌をしたたまま放尿してしまう場面が続く。この辺りの描写は、リアルになると汚さが勝ってしまい、気持ちよく聴けなくなってしまう。笑いどころとする匙加減が難しい。
また、女房のセリフによる下げも、バレ噺のような下ネタだし、あまり面白くない。なかなか課題が多い演目なのだ。難しい割には、観客の受けも良くない噺、これが演者が少ない理由だと考えられる。
しかし、この難しい噺にあえて挑戦したこはくさん。ネットで調べると、白酒師匠の型のようで、師匠から習ったものと推測される。また、白酒師匠の師匠である雲助師匠も掛けている。三代に渡って挑戦されている。この難しい噺とどう向き合っていくのか、こはくさんの今後も楽しみだ。

金原亭小駒「淀五郎」
さて、この日の主任は、仲間にいじられ続けている小駒さん。シクジリ話が多々あっても、芸で唸らせてくれれば、キャラの彩りとなる。さて、この日は、主任の出番で張り切っている高座を見せてくれた小駒さんだった。
マクラは、歌舞伎の話。馬生師匠が歌舞伎役者の大谷友右衛門丈と二人会を行っている。この会は「馬と友」という名称。我々の会の名前の方が先だった、とちょっと師匠イジリ。
なので、我々落語家は、歌舞伎役者との交流もある。そんな交流のなかで感じたことは、家族総出で応援する歌舞伎の世界と違って、落語家は孤独だということ。確かに、歌舞伎役者の奥様が劇場でご贔屓さんを歓待している風景を見かけるが、寄席では見かけない。
そんな話から、仮名手本忠臣蔵の解説を丁寧に行う。時代背景や文化風俗の解説や蘊蓄話は、馬生一門の得意とするところ。小駒さんも、すっかり一門の芸風だ。そんな解説から、流れるように本編へ。

本編は、座頭の団蔵が役者の穴を埋めるために、淀五郎を抜擢したというところから。淀五郎という役者の立場を丁寧に説明、これが淀五郎の苦悩と葛藤をより理解するための予備知識となる。
場面は、三段目の切腹の場。団蔵は、初っ端から結構、意地悪な雰囲気で、完全に悪役。淀五郎を試すための抜擢というより、イジメに近い。それに対して、淀五郎に助言を与える仲蔵は、優しい好人物として描かれる。仲蔵が、淀五郎を非常に可愛がっていることが伝わってくる。
芝居の描写は、これからの課題。まずは、対立する三人の性格描写をシンプルに分かりやすくして、淀五郎の苦悩と歓喜のジェットコースターを見せることによって、この演目の本質に迫った一席だったと思う。粗削りではあるが、飄々とした小駒さんの雰囲気が、大ネタを軽い噺のように気楽に楽しませてくれた。

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