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電話番号は正しくね

わたしにはなぜか間違い電話が多くかかってくるし、ときおり誰ぞやの留守電が入っている。

そして、留守電を聞いた後には幾ばくかの虚しさが残る。



そのおばあちゃんは誰かに伝えたかったのだ。

近頃連絡もしていなかったこと。

とにかく寒いからご自愛くださいということ。

それから●●ちゃんも元気ですか? こちらはコロナワクチンの三回目の接種をしましたよということ。


だけど本当に伝えたい先の相手はそこにはいないのだ。

その後本当に伝えたい相手が聞いてくれることもないのだ。

だって、見ず知らずのわたしの元にそのメッセージは届いているのだから。


わたしに、その相手は務まらないのだ。

おばあちゃんには、おばあちゃんが伝えたかった相手がきちんと存在し、この国の(おそらく寒い地域に暮らす誰か)どこかでそのメッセージが放たれたことを知らずに生活している人がいるのだ。


わたしでは、その相手は務まらないのだ。

意地悪でない、優しい気持ちが伝わらないのは、他人とはいえ少し寂しい。

電話をしてみようと、重い腰をようやくあげたおばあちゃんだったかもしれないし。


だけどわたしがそれに気づいたところでどうすることもできない。

だってまさか着信番号が残るその電話に掛け直して、
間違い電話になっていますよなんて報告するのもかえって怪しい人みたいだし。



電話番号を間違える方が悪いし、これはわたしの責任ではないのだけれど、
そういう行きあてのない留守電のメッセージを聞いた後には、ちょっと寂しくなるな、という話。


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