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麻布十番

麻布十番に住んでいる。
理由はそこに社宅があるからで、住所が身の丈に全く合っていない。

三年近く住んでいればずいぶんと慣れてくるが、この街が自分の価値観の中にある「生活」という言葉とあまりにも離れていて、共感できない日々を過ごしている。
この街の景色、この街が身の丈に合っている人たち。
周りの建物も音も夜中の人の声も絶えず大きい。
港区と聞いてしっくりくる景色と人々。

少し前までははっきりとこんな所好きじゃないと言っていた。
そんな贅沢なことを言うなと言われたこともあったが、じゃあ贅沢とは一体何だろうかと思った。

殆どの場合人との会話の入り口となる「どこに住んでいるのか」において「麻布十番です」と答えなければならないことに、いつも恥ずかしさのようなもどかしさのような複雑な感情を抱いている。

それでもすぐに引っ越さずにこの街に住み続けているのは、社宅故の家賃の安さと引っ越しという作業への腰の重さだった。

そして、それでもこの場所の好きなところは会社の同期がすぐ近くにいるところと東京タワーに歩いて行けるところだ。

私にとっての東京タワーとは、夜に夕焼けを灯したようなオレンジ。
東京という街の象徴でありながら、東京のどこよりもあたたかな光りを纏っている。
この街に住む前からこれまで何度この灯りを見上げ、救われてきただろうか。
今の自分があるのはこの東京タワーのお陰でもあると言っても全く過言では無いと思っている。

私は会社で仲の良い同期が決して多くはないし、むしろ少ない方の部類に入るだろう。
でもその数少ない仲の良い同期の半数が同じ社宅に住んでいる。
彼らは皆とても心根の優しい人たちだと思う。
気軽にお酒を飲んだり、ランチをしたり、お茶をしたり。
日常生活で些細なことで困ってもすぐに助けを求められる人たちがいる。
歩いて数歩のところにみんながいてくれることで、日々の中で小さな心強さとあたたかさを感じることができる。

だから、この街が好きではなくても嫌いにはなれないのは、この「場所」が好きだからだ。
沢山の音や景色や人々の声に囲まれながら夜に夕焼けのような灯りを見上げ、沢山の大切な思い出を重ねてきたこの街の、この場所。

あと何年この街に住んでいるかは分からない。
でもきっと、好きにはなれないこの街に住んでいた時間は、この先の人生で振り返ったときに濃くはっきりと輝きを持って刻まれているのだろうと思う。

そして最後に、
このタイトルをくれたあなたが、私の家から徒歩10歩くらいにいてくれるから私はこの場所が好きです。
いつも本当にありがとう。
またゆっくりごはんでも食べながら色んな話をしようね。

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