梔子とヤブルー(3/5)
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梔子とヤブルー(3/5)

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3/5

 バン!
 すさまじい轟音と共に閃光が炸裂した。

 永久はマネキンの硬くて冷たい腕の中に抱かれていた。人間なら一時的に失明もしくは気絶しているが、花切が耳と目を覆ったおかげでかろうじて意識を保っていた。

 向こうでは車椅子が倒れ、酉田が床に伏している。

「議長!」

 そちらに向かおうとした永久の頭に硬いものが押し付けられた。「天外市警」と書かれたボディアーマーにフルフェイスヘルメット姿の特殊部隊が、彼女にサブマシンガンを突きつけている。

 バリン! バリン!
 さらに司令室の窓を突き破って数人の隊員が飛び込んでくる。

「ここは天外市警が確保した! 抵抗すれば射殺する!」

 隊員を伴って部屋に入ってきた男が言った。そのがなり声は永久の頭に割れ鐘のようにぐわんぐわんと響いた。チカチカする眼を細める。

 オールバックに髭をたくわえた背広姿の男だ。背広の上に防弾ベストを着けている。

「風山副署長?!」

 風山は永久を冷酷な目で見下ろした。

「佐池警部補! 市民を守るべき警察官の立場でありながら広域指定暴力団肋組に与し、あまつさえ現在進行中の襲撃に関わるとは。お前はたった今この場で懲戒だ! 逮捕する」

 風山の隣には同じく防弾ベストをつけた若い刑事がいる。彼はどこか申し訳無さそうに永久を見下ろした。永久の部下の新人刑事、鍵崎だ。

「鍵崎! あなた……」

「風山副署長の命令であなたを見張っていました、先輩。僕だって信じたくないですよ! だけどこれは……」

 彼はパソコンモニタや、気絶して倒れている反血盟陣営を見回すと、怒りを込めて叫んだ。

「これは言い逃れできないでしょう! あなたは……何やっているんですか!」

「鍵崎、佐池に手錠をかけろ。そいつは市民の敵だ」

 鍵崎は手錠を取り出し、永久と花切を床に伏せさせたまま両者に手錠をかけた。そのあいだも隊員たちはいっさいの隙を見せずに銃口を永久たちに向けている。

 永久は鍵崎に笑いかけた。

「尾行がうまくなったじゃない。気付かなかった」

 鍵崎は黙ったまま彼女を睨んだ。永久の腕を掴んで立たせたが、乱暴にはしなかった。

 永久は風山に言った。

「副署長。私の罪状ですけれど」

「この期に及んで寝ボケたことを抜かすな! 自分が何をしでかしたのかわかっていないのか」

「いいえ、もう一つ自白します。ついこないだ、あなたのスマートフォンをハッキングしました」

「!?」

 永久は鍵崎に振り返り、床に散らばったファイルに顎をしゃくった。

「鍵崎、そこに落ちている書類を見て。青いファイルの四番目」

 鍵崎は彼女を見返したが、言われた通りにした。

 永久は署長を睨みながら続けた。

「紅殻町工業フォートで爆発が起きた時間は夕方五時ぴったり。副署長、あなたはその一時間後に署で記者会見をしましたね。そのときあなたがマスコミの前で読み上げた原稿は、事件が起きた日の朝に届いていた。送り主は不明だけど、血盟会の誰かでしょう。あなた、知っていたんでしょう? あの日、あの場所で何が起きるか。何もかも」

 ファイルをめくっていた鍵崎が呟いた。

「原稿だと爆弾が二つになっている……」

「私たちが解体したのよ。あの日、フォートの中に潜入して」

 風山は鍵崎に怒鳴った。

「鍵崎! その雌ギツネの言うことを聞くな! 天外市警の使命を忘れるんじゃない!」

 永久はくんくんと鼻を鳴らした。

「防腐剤の臭い……副署長、その隊員のマスクを取っていただけますか。どこの管轄の隊員?」

「……」

「あなたはすべて闇に葬り去るためにここに来た。そこの隊員はみんな生きた死体なんじゃないですか?」

 風山は「仕方ない」というように大きくため息をついた。永久を指差し、隊員に叫ぶ。

「撃て」

 その瞬間、マネキンの中から花切が飛び出した。婦警の制服を着た、豊満な胸をした女性の亡霊である。

 花切がさっと手を振った。隊員たちは首を傾げ、自分の抱えている銃を見た。そのうちの一人が死体めいたくぐもった声で風山に報告した。

「安全装置が外れません」

 鬼霊家のポルターガイスト能力!

 目を見開く風山に花切は言った。

「鬼霊家のゴーストクォーツ。お久しぶり、副署長!」

「叫花《きょうか》家のヤブルー! 貴様……常盤か?! そうか、すべて納得行ったわ」

「こっちもよ。あなたが市警内における血盟会の窓口だったんですね」

 ヤブルーはニヤリとし、ポケットから取り出した銀色のバッヂをゴーストクォーツに見せた。そして大きく息を吸い込むと、すさまじい叫び声を発した。

「キェエエエ――――――――ァァアア!!!」

 それはジェットエンジンめいた大音声の咆哮だった。叫花家は抜くとすさまじい悲鳴を上げて人を殺し、時には二本の足で立って歩くと言われる人型の怪植物、マンドラゴラの血を継ぐ血族である。

 その衝撃波は室内のテーブルやコンピュータを吹き飛ばし、気絶した組員たちを壁へ叩きつけた。

 ヤブルーが連れて来た隊員も巻き添えを食った。ヘルメットが外れて素顔をさらすと、ツギハギされた死体の顔だった。永久が看破した通りアンデッドワーカーだ。

 とっさに耳を塞いで床に伏せた永久に色々なものがぶつかってきた。

 ヤブルーは叫び終えたあと、思い出したようにポケットから口臭予防スプレーを取り出し、喉に吹きかけた。
 シュッ、シュッ。

「失礼した。昼にラーメンとギョーザを食ったんだ」

「道理で。クサいと思ったわ」

 床下に避難していたゴーストクォーツがコンクリートをすり抜けて現れた。

 ヤブルーは再び息を吸い込んだ。

「キェエエエ――――――――ァァアア!!!」

 パソコンのモニタが砕け散り、先ほどにも増して勢い良くテーブルやファイルなどが飛び散った。ヤブルーは全体的なものから指向性のある音波に切り換えたのだ。

 ゴーストクォーツは空中を泳ぐようにしてそれから逃れた。

 鬼霊家は物理攻撃をすべてすり抜けることができる。だが逆に肉体という鎧がないため、血氣を直接ぶつけてくるエネルギー系の攻撃に弱いのだ。ヤブルーのシャウトが直撃すればロウソクの火のように一撃で消し飛んでしまう。

 ゴーストクォーツの霊体は死んだ肋組組員の体にするりと入った。憑依だ。死体がむくりと起き上がり、ヤブルーに銃撃を加える。
 パラララララ!

 ヤブルーはその場から飛び退いてかわした。中年太りの体に似つかわしくない俊敏な動きだった。大きく仰け反ったのち、シャウトを放った!

「キェエエエ――――――――ァァアア!!!」

 ヤブルーが息を吸い込んだ一瞬の隙にゴーストクォーツは肉体を捨てて逃れた。死体に戻った組員が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ潰れる。

 ゴーストクォーツは別の死体に入る! ヤブルーが再びシャウト!

 それを繰り返すうちに、やがてあたりには憑依不可能となった損壊死体ばかりとなった。

 若干息を切らせたヤブルーがネクタイを緩め、ゴーストクォーツを嘲笑した。

「使える体はあといくつだ? うん? 貴様の素っ裸を拝めるのもすぐだな」

「血と一緒にセクハラ体質も授かったみたいですね」

「俺にも以前は情熱があった。卒配の日に警官のバッヂを着け、制服を着たときには誇らしい気持ちになったものだ」

 ヤブルーは憎々しげに眼を細めた。

「だが実際はどうだ? 犯罪者と弱者がウジ虫のごとくクソを食らいあうこの天外に守るに値するものなどあったか? 何もないわ! 己の利権以外にはな!」


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