鳳上赫(5/6)
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「ぐおお!?」
勝機! ブロイラーマンが相手をラッシュに飲み込もうとしたとき、エヴァーフレイムは剣を消した手を彼に向けた。血氣が集中し、バレーボール大の血氣弾を放つ。
(しまった!?)
ドォン!
血氣弾が爆発し、ブロイラーマンは木の葉のように吹っ飛んだ。灰の中を転がり、球体の斜面で止まる。
その胴体に向かってエヴァーフレイムが逆の手で放った血氣の剣が飛んできた。
ドッ!
ブロイラーマンは自分の胴体を見た。エネルギーの剣が昆虫標本の虫ピンのように胸に刺さっている。
「……クソッ」
ブロイラーマンはその場に膝を突いた。
エヴァーフレイムは大笑いした。
「ハハハハ……! まことに見事な腕前であった! 貴様の名は忘れまいぞ!」
両手を掲げ、新たな血氣弾を作り出す。六メートル級だ。それをブロイラーマンに投げつけた。
ドォォォオン!!
大爆発!
舞い上がった灰が落ち着いたとき、そこにはボロボロに焼け焦げたブロイラーマンが倒れていた。
エヴァーフレイムもまたその場に跪き、大きく喘いだ。もはや彼も限界に達そうとしていた。
「まずい……」
力を振り絞って立ち上がり、先ほど打撃を与えていた壁際へと向かう。エヴァーフレイムは壁に打撃を入れた。
ドゴ! ドゴ!
一発ごとにさらに亀裂が広がる。穴を開けるだけの余裕はかろうじて残っている。
灰に半ば埋もれたブロイラーマンは白目を剥き、胸の傷から血を流していた。だがなお呼吸を続けていた。ブロイラーマンの手が灰をぎゅっと握り込んだ。
「……!?」
エヴァーフレイムは振り返った。信じられないものを見るかのように眼を見開き、立ち上がるブロイラーマンを見た。
「貴様……なぜ死なん!?」
ブロイラーマンは筋肉を締めることで胸の傷口を閉じ、強引に出血を止めている。ブロイラーマンはぼんやりと考えた。
(あのヤロウの言う通りだよな。いったい何で俺は好き好んでこんなことしてんだ?)
市《まち》を守るためか。これまでに出会った人々のためか。兄のためか。死んだ両親のためか。仇討ちのためか。そのどれもであってどれでもない。ブロイラーマン、石音日与が戦う理由は、そのすべてをひっくるめて……
「俺のためだ」
二人は見つめあい、そして構えた。もはや双方ともに死ぬまで戦うことをやめられない闘鶏だった。血氣の残量はどちらもゼロに等しい。その血を駆り立てるものは血族の本能か、あるいは戦士の意地か。
「「ウオオオオオ!!」」
二人は咆哮した。
もう小細工を使う余力はない。エヴァーフレイムはパンチを繰り出した。ブロイラーマンは防御した。続く相手の蹴り、抱え込んでの膝蹴りもまた、ひたすら防御に徹した。
ガードの上からの打撃が体の芯に響き、よろけて倒れそうになる。そのたびにブロイラーマンは渾身で踏ん張り、弱々しい反撃を返した。
日与は人間だったころを思い出していた。もうずいぶん遠い昔に思える。あのころも無謀な相手に喧嘩を売っては、こうしてボコボコにされることもあった。だがどんなときでも、彼は意識がある限り反撃を止めなかった。
二人の男は息を切らして殴りあった。エヴァーフレイムのほうが攻勢だ。そのミドルキックがブロイラーマンの脇腹を捉えた。
ドゴォ!
ブロイラーマンは呻き、その場にひざまずいた。エヴァーフレイムはくるりとその場で相手に背を向け、強烈な後ろ蹴りをブロイラーマンの顔面に入れた。
ゴッ!
ブロイラーマンはかろうじてそれを防御したが、堪え切れず仰向けに倒れた。
「クソッ……おのれ! 貴様などに関わってはおれんのだ……」
エヴァーフレイムは相手を放置し、よろめきながら壁に向かう。壁の穴はあと一息で穴が開く。蹴破ろうと片足を持ち上げたとき、彼の背後にブロイラーマンが抱きついた。
「ウオオラアア!」
相手を持ち上げてブリッジし、背後に投げ落とす! ジャーマンスープレックス!
ドゴォ!
ブロイラーマンは手をついて立ち上がった。口の中の血を吐き捨て、ファイティングポーズを取る。
「虫ケラめ……」
一方エヴァーフレイムも悪態をついて立ち上がった。
再びエヴァーフレイムの滅多打ちが始まった。だがそのリズムはバラバラで、もはや連携になっていない。酔っ払っているかのようにふらつきながら、断続的に単発の攻撃を出すだけだ。
素人がサンドバッグを叩くような空しい音が響く。とうとうエヴァーフレイムは打ち疲れ、ガードを下げた。
「貴様……ごときに……」
「ロープ・ア・ドープだぜ」
ブロイラーマンは呟いた。そして野球投手めいて大きく振り被った。
「ウオオオラアア!」
対物《アンチマテリアル》ストレート!
ドゴォオ!
「……がっ……はっ……」
エヴァーフレイムは眼を飛び出さんばかりにまで見開いた。ゴボリと血を吐く。ブロイラーマンの拳が胴体を貫き、背中から飛び出している。
その瞬間、エヴァーフレイムの血氣はロウソクの最後のごとく燃え上がった。ブロイラーマンを蹴飛ばして突き放す。
ドゴォ!
胴体からブロイラーマンの腕がずるりと抜けた。
「う……おおおお!」
エヴァーフレイムは振り返り、壁に最後の一撃を与える!
ドゴォ!
骨の破片を撒き散らし、とうとう聖骨の盾が破られた。
エヴァーフレイムの背にぼろぼろの赤い翼が生えた。開いた穴から外気が流れ込んでくる。その中に赤い粒子がぽつぽつと現れ、エヴァーフレイムの翼へ吸い込まれるようにして集まった。
人間から吸い上げた生命力はエヴァーフレイムの翼に取り込まれると同時に血氣に変換された。
エヴァーフレイムはギンと眼を見開いた。彼の中で血氣が爆発的に燃え上がった。
「ハハハハ! ハハハハハ!」
狂ったように笑いながらエヴァーフレイムは穴をこじ開け、より大きく広げた。さらに多くの血氣が彼へと収束する。
エヴァーフレイムは両手を広げて天を仰いだ。その顔にみるみる血の気と生気が戻って行く。
「貴様ごとき家畜に! 神にも等しい私が負けるはずがないのだ……」
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