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3.血盟会(3/3)

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3/3

 ブロイラーマンの右パンチ!
 大前は片手でそらし、逆の手でブロイラーマンの喉にチョップ突きを放つ。

「イヤアアーッ!!」

 二手! ブロイラーマンは上半身を傾けてかわし、左ボディブロー。
 大前は片足を持ち上げて膝でガード、足を下ろさずそのまま相手即頭部へ蹴りを放つ。

 三手! ブロイラーマンは腕でガード、逆の手でストレート。
 大前はブロックし前蹴りを放つ。

 四手、五手、六手、七手、八手、九手、十手……
 ドドドドドドドドドドドドド!

 ふたりは汚染霧雨でぬめる電線の上を滑り降りながら、機関銃じみて攻撃を繰り出す!

 ブロイラーマンは感心した。なるほど、この血族は接近戦もなかなか出来る。
 だが狙撃の腕ほどではない。

 十六手目でブロイラーマンが防御をかいくぐり、左ストレートを大前の左頬に入れた!

「オラァア!」

 ドゴォオ!

「グッ!」

 殴られた勢いで大前は半回転しブロイラーマンに背を向けたが、その動きに合わせてライフルを抜いている。
 右肩に担ぐような格好で銃口を背に向け発射!
 ズダーン!

 ブロイラーマンはとっさに大前の左肩を掴み、その頭上を飛び越えて前方に回り込む。

 だが大前はすかさず二発目を発砲、その反動を利用してライフルのストック台尻をブロイラーマンの顔面に叩き込んだ!
 ドガッ!

「ウグッ!」

 大前はそれ以上追撃することなく、さっと電線から飛び降りた。
 振り返ったブロイラーマンはその理由を知った。電線の終点だ。盗電用の違法電線が絡みついた電柱が迫ってくる。

 あわてて自分も飛び降り、地上のバラック小屋に不様に突っ込んだ。天井を突き破り、居間のちゃぶ台の上に落ちる。
 バガァン!

 ちゃぶ台が砕けて皿と食事が飛び散る。住人が驚いてひっくり返った。

「うわああ?! バケモノ!」

「家を壊してすまねえ」

 ブロイラーマンは彼に詫びて小屋から飛び出た。真っ直ぐな路地の先に大前がいる。

「また追いかけっこかよ」

 ブロイラーマンは悪態をついて走り出した。

 上に建物がせり出してトンネルのようになっている通路だ。そこを一足先に抜けた大前は、行き止まりの小屋の上に飛び乗った。
 ブロイラーマンがそれを追ってトンネルに入ると、大前はリモコンのスイッチを押した。

 小屋の壁がばたんと倒れ、中から現れたのは……
 銃口だ! 横に十個、縦に四十個の銃口が通路の幅いっぱいに並んだ恐るべき兵器だ。

 大前はマスクを外し、素顔を見せてニヤリとした。

「特別に作らせたんだ。ムダにならなくて良かった」

(ここに誘い込んだのか! クソッ……)

 大前がリモコンの発射スイッチを押すと、全銃口が同時に火を噴いた!
 ズドドドドドドドド!!

 銃弾の壁が迫ってくる。ブロイラーマンの集中力は極限まで高まり、時間の流れが糖蜜の中にいるように遅く感じられた。

 彼は脳をフル回転させてシミュレートした。頭上を突き破る、左右の壁を突き破る、前後にかわす。

 どれも間に合わない。ならば!

「ウオオオオオオ!!」

 数秒後、もうもうと舞い上がる硝煙が晴れた。

 地面のぬかるみに、血まみれのゴミ袋のようになったブロイラーマンが倒れている。
 大前は屋根から飛び降り、近付いた。

「能無しを間引いてくれて感謝する。お前に負けるようじゃ血盟会を名乗る資格はない」

「グ……が……」

 ブロイラーマンが蚊の鳴くような声を上げると、大前は大仰に驚いて見せた。

「うおっと! ハハハ……死んだと思って近付くと急に動き出すゴキブリか?」

 大前はスマートフォンを取り出してどこかに電話をかけた。

「俺です……いえ、瀕死ですがまだ生きています。はい。今なら生け捕りにできますが」

「無理だな」

 そう答えたのはブロイラーマンである。
 大前が「黙ってろ、ゴキブリ」と言いかけた瞬間、突然ブロイラーマンが片手一本で飛び上がった。

「!?」

 右手一本にしか糸が繋がっていない操り人形のような動きであった。それもそのはず、彼はその腕と急所のみ守ったのだ。

「ウオオオオオオオラアアアアアアアア!!」

 ブロイラーマンは全身全霊全神経を一点に集中させた拳を大前の顔面に叩き込んだ!

 ドパム!
 大前の頭部がスイカじみて破砕する!

 ふたりは折り重なって倒れた。汚染霧雨を浴びながら、ブロイラーマンは貪るように呼吸をした。

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……! クソッ、ヤバかった!」

 あの銃口の塊のような兵器の銃弾には、さほど威力がなかったことが幸いした。
 おそらく撃鉄家は一度に一発の銃弾にしかパワーを込められないのだろう。

 大前が手にしたスマートフォンが音声を発した。

「大前? どうした?」

 ブロイラーマンは死体の手からスマートフォンをひったくった。

「よう」

「……お前は?」

「大前ならあんたと〝合わす顔がない〟ってさ。ハハハ……」

 向こうの男は数秒のあいだ沈黙し、面白そうに言った。

「へえ! 大前を殺したか。やるじゃないか、ニワトリ頭。褒美をやるよ。何がいい?」

「霧雨病を治す方法を教えろ!」

「いいだろう。血盟会の会長を殺せ」

 あっさり答えた相手に、ブロイラーマンは眉根を寄せた。

「何?」

「霧雨病は会長の能力だ。殺せばこの世から霧雨病は消え、患者はすべて快復するだろう」

 今度はブロイラーマンが沈黙する番だった。一瞬ののち、彼は叫んだ。

「そいつはどこだ! どこにいる!」

 そこで通話は切れた。ブロイラーマンはスマートフォンを握り潰した。
 バキャッ!

(そいつが父さんと母さんを! 明来の将来を!)


* * *


 天外市、某所。

 汚染霧雨が降りしきる中、鳳上《ほうがみ》赫《かく》はヘリポートに立った。
 高層ビルの屋上である。眼前には廃墟の町が広がっていた。

 彼は着物の帯を解いて脱ぎ捨てた。
 若々しい裸身は彫刻めいており、ぞっとするほどの美貌をたたえている。

 彼は暗雲の垂れ込めた真っ暗な空を見上げた。

 その背に超自然エネルギーが収束し、一対の赤い翼を成した。
 鳳上がその場にひざまずくと、逆巻く風に煽られ、翼から抜けた羽根が桜吹雪めいて空高くに舞い上がった。

 羽根は更に細かい粒子に分解し、目に見えないほど小さくなって暗雲に溶けた。
 それらはやがて霧雨に混じり、市《まち》に舞い落ちる。そして人間の肺に入ると病をもたらし、生命力を奪うのだ。
 これが霧雨病の正体である。

 鳳上は立ち上がり、大きく両手を広げて空を仰いだ。

 スゥウウウ――……
 大きく息を吸い込む。

 病によって吸い上げられた人々の生命力は、能力者である鳳上の元へと集まってくる。
 それを取り入れた彼は体の隅々まで力が巡り、爆発的にみなぎるのを感じた。さながら暗黒の宇宙で光熱を放つ恒星のごとくだ。

 えもいえぬ充実感を味わいながら、鳳上は眼下に広がる廃墟の町を見下ろした。
 やや離れた場所に、こちらと同じくらい大きな廃墟のビルが建っている。

 鳳上は右手を上げると、右から左にさっと指を動かした。

 ズン!
 その瞬間、赤いレーザー光が一閃し、廃墟ビルの中腹に一直線に線が走った。

 ズズズ……
 ビルは鉈で切った竹のごとく、切れ込みから上がずれて崩れ落ちた。
 地上に落下したビル上部はすさまじい砂埃を上げて潰れた。

 自らが授かった血と、人間たちから生命力を徴収するこの能力。血盟会。ツバサ重工。
 すべては磐石であると、鳳上は自負していた。例の血羽が血盟会メンバーを一人二人殺したとて、足場は何一つ揺らぐまい。

 ヘリポートを降りて塔屋に向かうと、そこで九楼が待っていた。九楼は鳳上の肩に着物をかけて言った。

「大前が死にました」

「そうか。まあ、些細なことだ」

 鳳上はちらりと九楼を見た。

「悪巧みをしているな、九楼?」

 九楼は黙って微笑んだ。


(続く……)


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