「知財戦略」は「仲間づくり」のツール~「算数」的な知財戦略から「数学」的な知財戦略へ
おはようございます。楠浦です。
先日、弊社クライアント(支援先)スタートアップのサポートを、弊社OBの湯浅さん(現 IPTech特許業務法人 COO)にお願いしました。
僕の知財に関する考え方は、業界ではかなり異端なようで、僕のことをご存じない=僕と一緒に仕事をしたことがない弁理士の方には、ほとんど話が通じません。
「こういう特許取りたいです」
「取ってどうするんですか」
みたいな会話で、時間だけがどんどん過ぎていきます・・・。
弊社の出願なら、そこを説得して・・・ということも可能ですが、弊社クライアントや支援先の案件となると、その後、クライアントのCEOや知財責任者の方にお話しいただくことになるので、これでは困ります。
したがって、弊社OBの湯浅さんが、特許事務所のCOOをしておられるということは、非常に心強い状況です。
「発明塾の考え方」
は、以下の通り、すべて教材にして公開しています。弊社の活動に共感いただける知財専門職の方々には、ぜひ、これらをご活用いただき、
「話が通じる事務所の方々」
が増えるとよいな、と考えております。正直な話、弊社支援先からの出願を頼めるところが、足りなくなってきているからです。如何に IPTech さんが大きくなったとしても、やはり、コンフリクトの問題なと考えると、限界があります、それは、湯浅さんも認めておられます。
(彼は、とてもフェアな人です)
IPTechさんの
「知財塾」
にも、そういう想いで協力しています。
(弊社商標「知財塾」のライセンス、など)
そろそろ本題です。
知財戦略には、大きく分けて、2つの考え方があります。
① 「他社排除」のための権利網構築
② 「仲間づくり」のための権利網構築
以下、解説していきましょう。
● 「他社排除」の知財戦略~「算数」的な考え方
おそらく、特許・知財という言葉から、多くの方が連想するのはこちらです。そういう意味で、誰でも知っている、誰でも知っていなければならない知財戦略の考え方です。
私が説明するまでもありませんので、みっちり勉強したい方は、以下をお読みください。
ちなみに僕は、公開講座で行われていた丸島ゼミの卒業生でもあります。また、KIT(金沢工大)の丸島ゼミにも、何度か呼んでいただき、最新の知財動向について、ゼミの皆様と意見交換させていただいたこともあります。
「これぐらい知っておきたい」
という、最低限の内容が50%ぐらい、その先は、アライアンスなどについてのやや高度なお話し、という感じです。一般の方、技術者の方は、前半50%ぐらいを熟読ください。スタートアップ経営者の方は、全編必読です。
もう少し基礎的な内容になりますが、以下、弊社のオンライン講座(e発明塾)でも、知財戦略の基本を取りあげています。実例として
「3M」
の特許を取りあげ、解説しています。
3Mについては、発明塾で徹底分析しており、セミナーも行っています。
他社排他型の知財戦略について、ある種
「究極」
の姿というか、徹底したこだわりを見せている企業ですので、3Mの戦略は、ぜひ、皆さんにも知っていただきたいです。
「化学系のダントツ企業」
の例ですが、他業界(食品・医療機器など)でも、似たような戦略の企業が既に存在することは、弊社の調査で確認できており、そういうお話も、させていただくことがあります。
僕がここで、他社排除的な考え方を
「算数」
的だといっているのは、
「企業価値向上」(IPレバレッジ:これも弊社商標です)
の観点から考えて、の表現です。
「他社を排除できる分、売り上げも上がるし利益も確保できる、したがって、企業価値は上がるよね」
というお話です。非常にわかりやすいですよね。
そんな単純じゃないでしょ、とか、知財にかかった経費を上回るメリットがあるのか、みたいな議論も、10年前にはありましたが、最近聞きません。これは、僕の個人的な肌感覚から来るものですが、
「ちゃんとやってないと、業界から完全に排除されてしまう」
みたいな状況になっている業界が多くなってきたからかな、と推測しています。過去、クロスライセンスで、どんどん自社技術を持っていかれて・・・という企業さんの支援をしたことがあります。
「出遅れると、こうなるのか」
ということを、目の当たりにしました。
(その後、その企業さんは、経営者の方々の英断で、かなり積極的な知財活動を展開されています、非常にスピード感ある対応で、見事にリカバーされました)
● 「仲間づくり」の知財戦略~「数学」的な考え方
仲間づくりの例として、私が良くお話しするのが、クアルコムの知財戦略です。
発明塾(学生版)でも、たまに、
「発明を権利化し、ライセンスして、どこかに作ってもらう」
とか
「先回りして特許を取得して、どこかの企業にライセンスする」
みたいな議論をする人がいます。
勝手にやってください。僕は全く興味ありません。
「何のために(Why)」
がない議論には、僕は参加したくありません。
「それ、世の中をどう(早く)よくできるのか?」
「そもそも、その戦略で、自分が実現したい世界はどういう世界か」
を話してもらえれば、話は聞きます。
クアルコムが素晴らしいのは、
「専門家が、絶対実現不可能と言った」
(実証データについて、インチキだといった専門家がいたそうです)
技術を、
「世界中に普及させる」
ために、考え抜かれた知財戦略を徹底的に実行している点です。
(当初は、種々の事情があったようですが・・・クアルコム社に取材済)
彼らの考え方である
「世の中を巻き取っていく」(イネーブラー/Enabler)
というのは、これから起業する/事業を立ち上げる方には、必須の考え方になると、個人的には考えています。
クアルコムについては、以下に記事を掲載しています。
この、
「仲間づくり」
戦略について詳しく知りたい方は、以下書籍も熟読ください。
さて、冒頭で紹介した、弊社の
「知財塾」
商標ライセンスも、同じ趣旨です。
「発明塾を、世界中に(素早く)広める」
ための、打ち手の一つです。弊社は、この規模の企業としては多すぎる量の商標を取得していますが、今後、これらの商標は、同様に活用していきます。発明塾設立当初から、考えてきた戦略なのですが、これはすべて
「クアルコム社への取材」
「クアルコム社についての調査」
の過程で考えついたものです。クアルコムの方々を含む、関係者の方々に、深謝申し上げます。素晴らしいヒントをいただきました。
膨大な量の商標の取得は、一時、弊社の経営指標を押し下げる原因になりましたが、
「長期投資」
「急がば回れ」
「結果的に、発明塾を早く普及させられる」
と割り切って、粛々と取得しました。他人(クライアント)に
「知財戦略とは・・・」
とお話しする立ち場の会社の CEO が、予算削減で知財をおろそかにします、では話になりませんしね。
(まぁ、限度はあるので工夫はしていますが・・・たとえばその間、私の報酬は極限まで削っています)
自社で実践する過程で、得られた知見は膨大かつ貴重なものでした。
まず
「僕の話を理解できる専門家が、いない」
というところから始まりました。前職時代からのお付き合いの先生が、頼みの綱でした。たぶん、先生も
「また楠浦、よー分からんこと言ってるな―」
という面もあったと思います(笑
でも、お付き合いいただけたので、感謝以外何ものでもありません。
そして、その時の弊社サイドの知財担当が、湯浅さんでした。楠浦式&発明塾式を、現時点で、最もよく知っている知財の専門家、ということになります。塾OBOGの大半は、技術者・経営者・起業家だからです。
副産物的に、他社排除にも効果はありました。この業界の競合は
「知財専門家」
です。実際、ある弁理士の方が設立されたコンサルティング会社のHPに、弊社商標権侵害と思われるサービス名称を発見し、対処したこともあります。業界は狭いので、相手のメンツをつぶさないように、細心の注意を払いました。弁理士が知財権侵害で訴えられた、となると、あとあといろいろ面倒でしょうし、恨みを買いかねないですしね・・・。
人情も、時には必要です。
さて、長くなりましたが、
「仲間づくり」
は、
「事業を加速させるため」
に行うものです。自社の経営資源には、限りがあるので、
「経営資源としては、効率が良い」
知財権に、一旦投資をして、それをつかって
「事業を加速させる資源を手に入れる」
わけです。
「てこ」
の原理ですね。なので、IPレバレッジ(弊社商標)です。
これ、企業会計上は
「DCF」(ディスカウント・キャッシュ・フロー:割引現在価値)
で考えることになります。算数の時は、他社に売り上げを取られませんので・・・というロジックでしたが、ここでは
「早く、大きな売り上げが立つ可能性が高まる」
から、という視点でとらえていきます。
前職時代に、取締役が
「DCFって何?」
と僕に聞いてきて、全く笑えなかった記憶がありますので、上記、貼っておきます(笑
彼には、僕が基礎からみっちり教えました。
(技術者が CFO に DCF 教えないといけない スタートアップ って、どうなんですかね?)
事業企画や資金調達には、必須の知識ですから。
(当時は、知らない人も多かったようですが)
「時間がたつと、模倣される可能性も高まる」
ので、不確実性=割引率も高くなります。また、それが
「複利」
で効いてきますから、なおさらです。
「がっちり守って、将来を確実にします」
ではなく
「一気に仕掛けて、事業拡大を前倒しにします」
という考え方です。
(副次的に、「守り」も得られます)
過剰に割り引かれなくなりますから、
「企業価値は高まり」
ます。
「特許で守られるから、企業価値は高まる」
という、算数的な世界ではなく、こちらの世界に移行してほしいというのが
「IPレバレッジ」
の趣旨です。スタートアップで CTO をやって、痛感しました。
現在、発明塾で具現化しつつあるアイデアの一つにも、この考え方で
「少ない資金で、世の中を早く変えていくために、知財を駆使する」
ことを、検討してもらっています。
「誰もやったことない」
ことだと思います。大変価値がありますね。
それぐらいやらないと、僕が参加している価値は無いと思います。
楠浦 拝
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