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訪れた国

Episode 23 – Germany 1

 小学生のころからドイツは気になる国だった。同じ敗戦国(当時は西ドイツ)で国連の加盟国ではないにもかかわらず(国連の諸機関のメンバーではあったと記憶している)戦勝国と対等に交渉する姿や国力のすごさを子供心に感じていたのだろうか。
 そのドイツを初めて訪問したのは統一ドイツが誕生して間もないころだった。ライン川のほとりに立つ大聖堂のケルンへ行きました。
 静かな街に驚きました。市内は静かだしレストランも混みあっているのに静かです。そこそこに混んでいる路面電車に乗っても静かです。食事客や乗客が黙っているわけではなく、みなさんのしゃべる声が静かなのです。最近の山手線でみんなスマホを触っているのとは違う感じの静けさなのです。香港のレストランや地下鉄がうるさいほど賑やかなのとは大違いでした。それはそれで懐かしいですが。
 そんな静かな夜の街で警笛を鳴らしながら、何かを叫びながら十数台の車が走りぬけて行くのに遭遇しました。トルコ系の人たちのグループだそうで、移民政策への批判か何かのデモだったのでしょうか。
 デモではなくうるさいほど賑やかなところはないのだろうかと思っていたら、酒場がありました。酒場は混んでいて中の立ち飲みテーブル周りや、外で多くの人が立ち飲みしています。さすがにワイワイガヤガヤとやかましかったです。人混みをかき分けるように、丁度日本の八百屋さんがつけているような前掛けをかけた人が、両手にビールのジョッキをいくつも持って回っています。
ビールをもらったその場で代金を払うことになっていて、前掛けのポケットから釣銭をジャラジャラと出してくれます。売り子さんはお店の店員ではなく、雇用関係は今でいうところのウーバーイーツの配達人のような関係にあるらしいと聞きました。
ビールジョッキには縁から2cmくらいのところに赤い線が引いてあり、ビールの液体と泡との境目を示しています。ビールはこの線まで注がなければいけないことになっているのです。ホテルのシャワーの温度調節ダイヤルにも42℃のところに‘適温はここ’と矢印付きの指示がありました。何事にも几帳面なドイツ文化を見る思いでした。
 ケルンからライン川クルーズで上流にあるお城へ行きました。ゆったりとした観光船のレストランでラインの白ワインを飲みながら約2時間。船を降りて洪水の時の水位跡に「こんなに水位が上がるの?」と驚きながら、ロープウェイに乗って山の上にある城を見学しました。
 帰りは汽車に乗ってボン経由でケルンへ戻りました。切符は目的地まで買いますが、駅に改札はなく中で検札があるとのこと。(切符売り場も改札もなく、そのままプラットフォームへ出て汽車に乗ったのだったかもしれません)。
客車は両端に出入り口があり、中は4人掛けのボックス席が並んでいます。車掌がドイツ語で話しかけてきて答えに戸惑っていると、前に座っているドイツの方が応えてくれました。どうやら「このアジア人は確かに○○駅から乗った」と言ってくれているようです(車掌さんの検札ではなく、彼から切符を買ったような気もします)。 
 ドイツの方は見知らぬ人に対して親切なのか、おせっかいのなのか、どちらにしても見知らぬところで困っていると、世話を焼いてくれるのでありがたいことです。
ビールジョッキに引かれたビールの量を指定する線やシャワー温度を指定する目盛、汽車の検札など、一般にドイツの方のイメージとしては物事がきっちりしていないと気が済まないような人と思ってしまいます。日本人と気質が似ているような気がして、明治時代に近代化のお手本にしたことに納得してしまいます。しかし、実際一緒に仕事をしてみるとかなりルーズな面も見えて、やはり同じ人間だなと感じるのでした。

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