プロジェクトマネジメント2(Project Management 2)
日本企業がUSスチールを買収する計画(プロジェクト)が進んでいます。USスチールといえばアメリカの基幹産業を代表する会社の一つです。
このプロジェクトの課題は、外国企業がアメリカの会社を買収することに法的な問題はないということですが、日本企業が基幹産業の一つを買収することに伴うネガティブな国民感情をどのようにおさえて賛成側にまわってもらうかです。二つ目の課題は、買収したあとの会社のマネジメントをどのようにするかです。
日本の会社が外国の企業を買収した例はたくさんありますが、買収したあとの運営でうまくいかなかった例は少なくありません。
日本企業がアメリカの原子力発電所を建設する会社を買収したことがありました。買収先の会社は、契約上の責任を果たすことができずに破綻してしまいました。買収前の資産査定がどのような内容だったのかわかりませんが、買収した日本企業は事業を分割したうえで、株式の上場を廃止して別のグループに買収されました。
日本型の基準で先進国の会社を評価し運営することに無理があったようです。日本型の組織運営とマネジメントは違うということを理解しなければなりません。
日本型の組織運営は伝統的に「力」による部分が大きくあり、スタッフはもとより関係者は対等の立場で運営に参加していません。日本型は組織の大きさや組織内での立場(ポスト)が運営の基準になっていますから、規模の小さい組織やスタッフには無言の圧力がかかっているのです。最近はどう喝のような有言の圧力はあまり聞きませんが、決定権を持つ側が立場を利用する運営がなくなったわけではありません。
社会の運営に参加する組織は、スタッフが属性に関わらず平等に参加していることを理解して、責任者はすべての参加者を公平に処遇しなければなりませんし、組織の運営は公正でなければいけません。
人も組織も法に守られていますが、公正な運営は法さえ犯さなければ何をしてもいいという訳ではありません。決定権を持つ責任者は物事の決定に際して、決定は自分に対してフェアであるか?決定は適用される側の者に対してフェアであるか?決定は第三者がフェアと判断できるか?の三点を自問しなければいけません。
第三者が公平に運営されていると検証して初めて、組織の運営品質は保証されます。第三者の組織運営の品質保証は、組織が公平な運営をしていることの証明になります。
組織の立ち上げ時に準備しておくことが二つあります。指示と報告の関係を明確にした組織図(Organisation Chart)を作成することと、組織規則(Organisation Manual)にポストの業務内容(Job Description)を具体的に書きだすことです。
組織図の作成は、プロジェクトチーム内の各ポストの義務と責任を明確にして、各ポストを一本のラインで結ぶことが大切です。組織図で一つのポストが複数のラインで結ばれていることがありますが、指示と報告の系統が複雑になり混乱しますから、複数のラインでポスト間の関係を示すことは避けなければいけません。
また、スタッフが複数の業務を兼務することがありますが、兼務は複数の上司から指示を受けて複数の上司に報告することになります。兼務当事者が都合次第で指示を受けたり報告先を選択したりできる可能性がありますから避けなければいけません。
複数の指示と報告や兼務はポストの責任が不明確になることが少なくありません。責任の所在が不明なので誰も責任を取らないことがあります。誰も責任をとらなくても許される場合があるようですが、誰も責任をとらない組織に信用はありません。
組織規則の作成は、組織内の業務執行手順や手続き(Procedures)を決めておくことと、承認や許可と通知の手順(Procedures)を文章化しておくことです。
プロジェクトチームには属性の違う人がスタッフとして参加しています。組織運営の品質を守るためには、組織が古くても新しくても明快な業務説明(Job Description)と作業手順(Procedures)を確立しておかなければなりません。
チームのスタッフが組織図から自分の立ち位置を読み取り、業務規則から課題の処理方法を理解して、誰の指示で動いて誰に報告するのかを理解できるようにしておく必要があるのです。
「技術」という言葉を使うときの「技術」は主にハードの技術で、組織やプロジェクトを運営するソフトの技術を指すことはありません。プロジェクトマネジメントに代表されるソフトの技術は、計画(ものさし)に沿ってプロジェクトや組織を運営するために必要です。ソフトの技術は労働生産性を高めるためにも欠かせません。
日本はいまも最先端技術の開発を重点目標としています。新技術の開発と導入は重要ですが、ハードの技術によって合理的に労働環境が整備されることはありません。労働生産性がハードの技術の進歩では改善されなかったことをみれば明らかです。
これまでの日本型の組織運営は「モノつくり」のハードの技術に頼ってきましたが、これからはハードの技術と同様に「コトの営み」のソフトの技術を重視していかなければ、いつまでも先進国の仲間にとどまることは難しくなります。社会の運営にはハードとソフトの技術が必要なのです。
ハードの技術が優先的な社会は片肺飛行をしているようなものです。もう片方のエンジンであるソフトの技術を先進国並みに発展させなければ、少子高齢化社会にあって、社会生活は一向に楽にならないと理解するときがきています。
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