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基礎的インフラの整備(Improvement of Basic Infrastructure)

能登半島地震の発生から4週間がたちました。孤立集落へのアクセスは確保されたようですが道路、水道、電気は未だに完全復旧はしていません。真冬の雨や雪が降る被災地で、被災されたみなさんはどれほどのご苦労をされていますことでしょうか。お見舞い申し上げます。
避難施設や給水設備とトイレ設備などのハードインフラは、緊急対応が十分にできていなかったようです。行政の応急対応や避難所の手配、施設の運営などのソフトのインフラでも時間がかかっているようです。
地震や水害などの自然災害が起きるたびに、十分ではないインフラが大きな被害をもたらしています。自然災害は起きる時と場所を予知できることができませんから、強靭な国土を造り続ける基礎的インフラの整備は必要です。
いつかどこかで自然災害が起きることは想定内ですから、災害が起きた時の避難施設やトイレ設備などの規模や備品の保管については計算できます。行政は過去の経験に学んでプライバシーに配慮した緊急施設と設備を72時間以内に設定する努力をされていることと思いますが、今回は十分に生かされていなかったようです。
被害者を救済するための必要な応急対応として、どのような行動をとればいいのかを想定した計画もあると思います。行政の責任として災害時に必要な避難施設が速やかに開設できるように準備しておいて、保管してある設備をどのように配置し、食料はどのように配布すればいいのかといった運営面の計画を入念に立てておくことは必要です。
避難施設などのハードのインフラ計画とともに、被災者の要望に応える組織の運営手順(Procedures)というソフトのインフラを十分に計画しておくことは不可欠です。そして、災害対応シナリオに基づいた訓練を行って、計画の検証と見直しが必要です。
日本の近代化は、幕末に西洋の進んだ文化を知ってから始まりました。西洋と肩を並べて列強と対等の話し合いに参加するためには、日本が一流国であることを示す必要がありました。一等国としての必要条件を学ぶために、政権幹部が1年半にわたり欧米諸国を視察して回り、政府組織の近代化と軍隊の組織化と製造業の機械化が必要だと理解しました。
政府の運営については「西洋社会はあまりにも日本の文化と違いすぎる」と感じたので、西洋式の導入が得策だとは考えませんでした。新政府の社会統治の基本は幕藩時代の統治手法を踏襲することが合理的であるとの結論に達したのです。
軍隊の組織化と製造業の機械化を達成するためには、西洋の進んだ文化を導入することが早道でしたから「富国強兵」と「殖産興業」をスローガンとして予算を集中し近代化を目指したのです。
明治政府は廃藩置県を断行し幕藩時代の財産を中央に集めていましたが、社会全体を近代化するために使える予算は十分ではありませんでした。予算に余裕がなかったので基礎的インフラは最小限に抑えざるを得ず、最低限の整備しかできませんでした。生活に必要な施設の整備や街づくりにはできなかったのです。
街づくりは江戸時代の狭い道路が込み入ったままで我慢しました。電気は電線を地中に埋めるより安価に電柱を立てて空中に電線を張りました。水は井戸を極力活用するようにして、必要な水道は引きましたが下水道は後回しにしました。
消防車が入れないような狭い路地が密集する地域があったり、生活道路に歩道がなかったりするのは、日本社会の近代化を急いだあまりに基礎的インフラの整備が十分にできなかったからです。関東大震災後の復旧には東京の将来を見通した都市計画が立てられましたが、おそらく予算との兼ね合いで実現しなかったようです。どちらかというと規模の小さい基礎インフラが進められてきたのは、十分な予算のない中を近代化以来わずか150年で整備してきたからです。
主要都市ではカタチの見えるハードのインフラ整備はおおむね完了しており、既存のハードのインフラは改修などのメンテナンスが必要に応じて行われています。都市部のインフラは先進国並みになってきましたが、地方の基礎的インフラの整備は十分とは言えません。仕方がなかったとも言えますが、自然災害がいつでもどこでも起きる国土にあっては、全国的な基礎的インフラの整備は今も最重要課題の一つです。
ハードの基礎的インフラ整備が重要課題であることは論を待ちませんが、同様に災害時の組織の運営手順(Procedures)というソフトのインフラ計画はもっと重要です。過去に発生した災害時の経験や今回の能登半島地震から学んで、計画を検証し修正していかなければなりません。
繰り返しますが災害はいつでも、どこでも起きる可能性があります。災害の発生と場所を想定することは困難ですから、自然災害の発生は想定外です。しかし、どのような対応が必要かという災害時の組織の運営手順は想定内です。ハードのインフラ整備は優先順位をつけて進める必要がありますが、同時にソフトのインフラ整備計画を準備しておくことは必要ですし可能です。

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