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品質保証(Quality Assurance)

 多くの組織で運営の信頼を揺るがすような不正行為が次々と明らかになってきています。長年にわたって国会議員をはじめあらゆる分野で不正が行われていたことは、日本が先進国から後れてきた理由の一つです。信頼を裏切るような不正行為が長らく行われてきたことと、日本が後れてきていることとは無縁ではありません。
組織の運営は法や組織の規則によって手順が決まっており、ルールに沿って運営しなければなりません。法や規則で業務の執行手順は決められていますが、実態は不正を防ぐための手続き機能が働いていません。多くの不正行為は規則を自分たちの都合のいいように解釈して、あたかも規則内の行為であるかのように見せかけて行われているのです。不正を働いても検知されないということは、組織が見て見ぬふりをしているか、組織が勝手な解釈を許しているかです。
都合のいい解釈で業務が規則通りに進められていなくても、責任者は問題が公にならなければ黙っていればいいと思っているのです。不正が公になったとしても責任者は「不正行為は想定外だった」と言って自分には責任がないような態度をとります。災害が発生した時、責任のある立場の方が「想定外だった」と言って、あたかも責任者には責任がないかのように振舞うのと同じです。ただ、多くの民間の組織では違った対応をしているようにみえます。
組織の運営過程を信頼してもらうためには1計画、2記録、3報告、4会議の4つの作業内容を公表することが不可欠です。
1の計画には6項目があって、業務の執行状況を検証するときの基準(ものさし)となります。6項目とは、
1 目標や目的を設定した理由の説明、
2 目標や目的を達成する経路の表現、
3 目標や目的をクリアーする手段選択の解説、
4 目標や目的を完了するまでの期間の設定、
5 目標や目的に向けて業務を執行するチームメンバーの選定と
6 目標や目的を完遂するために必要な費用の算定です。
 2の記録とは、第三者が業務の執行状況を検証できるように執行状況の記録を残すことです。記録を公開することで試験結果のねつ造、記録の改ざん、作業日報の虚偽記入、業務日誌の創作、会議の議事録の作成なし、書類の作成日や作成者名なし、記録の廃棄等を避けることができます。間違いや手戻りや手直しを避けるために、複数の人が記録の内容を確認しておくことも必要です。
 3の報告とは、業務の執行状況を責任者に報告することです。ルールに従って組織を運営するために、業務の執行者と組織の責任者が常に同じ情報を共有しておくことは当然です。報告は第一に業務計画と業務実績を比較した現況を示す必要があります。次に、報告は組織として今後の方針を決定するためのカギとなる重要な具体的情報を含んでおかなくてはなりません。
 4の会議について責任者は、執行者から報告をうけたら関係者を招集し会議を開催しなければいけません。会議では報告された現況を確認するために業務の進捗状況を検証します。検証は目標や目的達成のための道筋や期間と必要な費用についての話し合いを通じて行います。会議は組織としての方針決定をする重要な場なのです。
品質管理(Quality Control, QC)はモノの品質を一定の基準内に収めることを目的としています。品質保証(Quality Assurance, QA)は業務(製造や制作や運営)の進行に伴う作業過程の一つひとつに、あらかじめ定めた手順や手法を基準(ものさし)として、作業が規則通りに行われていることを確認し記録を残すことを要求しています。品質保証は、モノの製造や制作が基準とする品質を達成していることを記録することに加えて、組織運営の現況を報告することで、モノとは違って目には見えない組織の運営実態を明らかにする組織運営に必要な業務で、組織が信頼を得るための作業過程なのです。
組織の運営品質を保証するISO9000番シリーズは各作業の品質が管理されていることを前提としています。そのうえで、組織運営の品質を保証するための要求事項を示しています。日本の国会がISO9000番シリーズの認証を受けているかどうか知りませんが、多くの民間組織は認証を受けています。
しかし、不正行為は後を絶たず組織運営の品質が保証されていない状況が続いて、日本は信用を失いかけています。信頼を取り戻すためにはどのようにして品質を保証すればいいのか、謙虚に今の運営手法を見直さなければいけません。品質保証は品質管理とは違うことを理解する必要があるのです。
不正が規則の解釈によって長らく行われてきたことは、モノの品質は管理されていても運営の品質が保証されていないからです。不正によってモノの製造や制作の過程や会社や政党の運営実態が信用できなくなっているのは、組織の運営品質が保証されていないからです。組織の運営品質が保証されていないと、組織は信頼を失います。
組織の信用が得られなくなると、いくら「モノつくり」の技術が発達しても生産性の向上は望めません。人口が減少している日本はますます後れていくことになります。日本ブランドの製品や作品という「モノつくり」の技術の品質はもとより、組織運営という「コトの営み」の技術の品質を保証することが望まれています。
江戸時代の藩のように会社や党が組織ごとに家族のような結びつきを大切にしていた頃は、組織内の秘密は組織内だけで守られていました。最近では金銭的契約で組織の一員となる場合が増えてきていますから、組織内の秘密であったことが次々と公になるのは自然な流れです。情報公開は組織を運営する上で当たり前のことなのです。もう「民はこれを由らしむべく、これを知らしむべからず」の時代ではありません。

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