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市原明華展 ー佇むー | レポート #1

期 間:2022年5月19日(木)- 5月22日(日)
時 間:10:00 – 18:00
定休日:会期中無休
作家在廊:全日程
場 所:クスナミキ・ギャラリー
主 催:クスナミキ・ギャラリー
入場料:無料

こんにちは、クスナミキ・ギャラリーです。
第2回目の企画展『市原明華展 ー佇むー』のレポートです。

楠並木の葉が若く生き生きとした黄緑色になる初夏に、県内外で高い評価を獲得している宮崎県宮崎市出身の書家 市原 明華さんの個展を開催しました。

市原 明華 (Meika Ichihara)
1985年宮崎市生まれ。書家。十駕書道会主宰。
大東文化大学文学部書道学科卒業。同大学にて勤めた後、2016年に拠点を宮崎に移す。作品制作、弟子の育成、執筆など幅広く活動中。
Instagram : @meika.shodo

今回は、市原明華さん自身にとって初めての試み、空間を題材として書作に花を組み合わせた展示となりました。制作に使用する道具の数々もインスタレーションとして展示され、「書作のある空間」が体感できる演出をしてくださいました。ギャラリー全体が凛とした空気に包まれ、背筋が伸びるような非日常を感じられる空間が出来上がりました。

DMやポスターのメインビジュアルにもなった『面壁』

市原さんが書き上げるのに最も苦心された作品で、一番最初にトライしてからこちらの作品が出来上がるまで10年の歳月がかかっているのだそう。『面壁』は達磨(だるま)禅師が9年間、壁に向かって座禅を組んでついに悟りを開いたという故事。この作品を書き上げることが、市原さんにとってまさに『面壁』だったということです。実際に作品の正面に立つと、圧倒的な迫力、エネルギーを感じずにはいられません。また、市原さんご本人が生けた杜若の美しさも作品の魅力を最大限に引き出しています。

『蝉聲』

今回は、新作を含む6点がクスナミキ・ギャラリーに並びました。元々タイトなスケジュールでのお願いにもかかわらず、本展にあわせて新作を4点も制作していただきました。(こんな無茶をしたのは初めてのことだそう・・・)
こちらの『蝉聲』も新作のうちの一つで、2年前に制作された『面壁』と比べると、墨の色も余白も白を引き立てた作品になっていますね。「どうしてこの題材を選ばれたんですか?」とお尋ねすると、「真っ直ぐな線は技術がよく表れるもので、真ん中に一本真っ直ぐ線を引くものにずっと挑戦してみたかったから」とおっしゃっていました。日々の鍛錬による技術と表現力、新しいことに挑戦する精神力、そのどれもが高いレベルで積み重ねられ、この一枚の紙の上に凝縮されているのだと思うと、ため息がこぼれて見惚れてしまいます。

制作道具にこだわりがない、とおっしゃる市原さんですが、展示された道具の一つ一つが素晴らしくステキなものばかり。筆、墨、紙、篆刻印、印の色、表装、花、花器等々、作品を構成する多くの要素に対してこだわり抜き、細部にまで美意識を貫いているからこそ生み出される一貫性。作品のトーンはそれぞれ異なるのに、バラバラな印象がないのはそういった作家のきめ細やかな向き合い方の表れではないかな、と感じました。

書作を観る時、つい何と書いてあるのか読もうとしていますよね?それをまず把握しなくてはいけないような気さえしていました。

しかし市原さんは、「読もうとしないでください」とおっしゃっていました。「何と書いてあるか、どういう意味なのかではなく、文字を題材とした表現として観てほしい。これ好きだなとか、カッコいいなとか、面白いなとか、絵画を観る時と同じように作品を観て感じたままで良いんです」と。

実際に、作品一つ一つの説明をお聞きすると、まずは文字の形や造りで題材を捉えていらっしゃることがよく分かりました。

本展を観に来てくださった方の中にも「今まであまり書を観る機会がなくて。書をどう楽しんだら良いのですか?」とご質問くださる方が何人かいて、市原さんの説明を聞いた後は「それで良いんですね!」と嬉しそうにされていたのが印象的でした。また、「白を残す」という市原さんの目指す表現は他ジャンルでの表現でも共通するところがあり、受け取り手が想像する余地を残すことの価値や難しさについて、ご自身のジャンルと重ねて共感されていたお話が大変興味深かったです。

また、本展に合わせてコラボやトークイベントを行ったので、その様子はレポート #2へ続きます。

photo : Seishi Lin
graphic design : Scenery of Design

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