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「第4話」 「第5話」「第6話」

第4話 熱視線

ここだけの内緒の話だが、
最近僕は両目からビームを出すことに成功した。
そもそも見えているのは、そのものから光を受けているだけと思っていたが、脳が認識する時に、なにやら目から出しているようだ。
人の視野は左右に200°くらいあり、あまり意識してない映像がほとんど。
だから出るものもボンヤリして弱い。
そのボンヤリ見ているのを直径3ミリまでフォーカスすることに成功したんだ。
気合で0.5ミリまでも可能。
かなりパワーが出る。
好きな娘の胸のボタンくらいは、飛ばせるのではないか?
最近は、駅のポスターの端っこを少し焦がして密かに喜んでいる。
さらに磨けば、見えている向こう側まで届く気がする。
いつか人をあやめてしまわないかと眠れない。

第5話 パーフェクトマン

俺に予期せぬ事など起こらない。
全てを事前にシミュレーションしてから行動する。
愚かな人はプランBもなく、アクシデントに右往左往する。
見てられない計画性のなさ。
なぜ事前に準備しないのか。俺なんかはすでに肉親が亡くなった時の泣く練習まで済ませてある。
先日の商談も厳しい競合状況であったが、相手側の出方を様々に想定し、数十通りの対応策を準備した。プランPまでいったので少々焦ったが見事勝ち取った。
1イベントのシミュレーションに三日かかるのが玉にきずだが、そんなことは問題ではない。三日前から準備すればいいことだ。物事は段取りが大事である。

好きになった娘とデートすることになった。
舞い上がってはいけない。しっかり準備するのだ。
一週間前から様々なパターンを想定し、すべてのプランで徐々にムードを高めて最後にはキスをして帰る計画とした。
彼女の好きな食べ物、映画、本、趣味、あらゆる情報を集め、シミュレーションの精度をあげていった。ランチも当然アクシデントに備え三店舗を押さえ、メニューも確認済みである。
完璧だ。鼻からボフッと気合の息を吐いて彼女を出迎えた。フー緊張する。
「やあ、おはよう。今日は付き合ってくれてありがとう。さて何がしたい?」
さあこい。何でも完璧に対応するぜ。俺のすごさを見せてやる。
「あなたのことが以前から好きでした。誘ってくれて本当にうれしい。はしたないと思われるかもしれないけど、あなたとキスがしたいです」と抱きついてきた。
そ、それは違う。段取りにない。そんなことはいけない。やめて。後生だから。いやん。
俺は彼女を振り払って一目散に走り出した。
段取りできていないことは恐ろしくって進めない。
みんなは俺のことを「ダンドリーチキン」と呼んでいる。うるさい、知ってるよ。

インドを計画なしに旅してみたい。

第6話 迷子

この角を曲がればどこに行くのだろう。
東京下町の狭い路地は、いつまでも続いてどうにも出られない。
軒先が重なり薄暗く、すりガラス越しに人影が映るだけ。
この両側の木塀に挟まれた小道は、さっきも通った気がする。
日が傾きはじめてどんどん心細くなる。まいったな。

思い切って塀にぶら下がり、頭を出して塀の向こう側をのぞいて見た。
そこには、塀にぶら下がり向こうをのぞいている僕がいた。
その僕は、その向こうのぶら下がる僕を見ている。その向こうにも、ずうっと続いている。
振り返ると、塀越しに振り返った僕の頭が続いている。
ははぁん。この路地は鏡に挟まれ合わせ鏡になっている、
と納得したとたん、無限に続く僕の後ろ姿が遠くのほうから、ものすごい勢いでパタパタとドミノのように倒れてきた。
慌てて塀を下りて難をやり過ごしたが、あのままドミノに飲まれたらどうなっていたのか。
鏡が倒れただけなのか。鏡ならば僕の正面はなぜ映らない。塀の向こうにあるはずの家並みはどこにいったのか。
ひしめき合って暮らしていると思っているこの街は、何もないないのでは。
何もないのに迷子なのか、何もないから迷子なのか。
この町並みは僕のノスタルジーのホログラムかもしれない。
そういえば豆腐屋のラッパの音が聞こえている。
それにつられて歩きだしたら、大通りに出た。
しかし待てよ、って思ったけれども、二度と戻れない。
もう日が暮れてしまった。
僕は完全に迷子になったようだ。

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