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【連載・アカツキ文庫】別の海を渡る

先週はありがとう、久しぶりにみんなで会えて本当によかった。
お互いの上に流れた10年を想ったら感慨深くて、色んなものがこみ上げた数時間だった。
結婚式ってこういうところがいいよなって思う。
”どの側面をとっても非日常だけどど真ん中にいる主役の花嫁はよく知っている友だち”っていう夢と現実の間にいるような浮遊感、ハマっちゃいそうだ~

式の次の日、1ヶ月ぶりぐらいの東京で買い物とかしてる途中の新橋駅前で、政党の演説大会みたいなの聞くともなしに聞いてたのね。
とっくに夜は明けたのにみんなでしゃべってた地元での時間思い出して余韻に浸っていたら、急にある曲の一節が浮かんだ。
星野源の『Friend Ship』って曲なんだけど、知ってる?


 いつの日か 還るまで
 別の海を 渡りながら
 いつの日か 会えるような
 幻を見て 一歩踏み出すさま


海の近くに住んでいるからか、ここ最近「水」に関係のある言葉や音楽、映像に敏感になっているっていうのもあると思う。
でも久しぶりに会ったみんなの、一緒に時間を共有していた頃からこうやって再会するまで、そしてこれから向かっていこうとしている日々を俯瞰して見ると、まさにわたしたちは今”別の海を渡っている”ところなのかもと思った。

その日の天気や空の色、山からの水の成分、棲んでいる生き物の種類、近くの街のにぎわいで、海は全然ちがうものになる。
こないだ瀬戸内海の島に行く機会があって、波が立たない海もあるんだってカルチャーショック受けた笑
進学、就職、同棲、婚約、結婚、妊娠、
不安、挫折、孤独、絶望、諦念、憤怒、
ひとりひとりの心と体の上を色んな出来事が流れて、その結果としてそれぞれの海が形成されたんだなって思った。あくまで個人的な感想なんだけどね。

さらに言うと、その色や広さ、深さがこれからもまたどんどん移ろってゆくイメージまで湧いた気がする。
それぞれの海には今後も色んなことが起きると思う。
(「人生何が起きるかわかんないよ、本当にね」って花嫁になったあの子が言っていたね、すごい説得力だった)
水温が高くなりすぎて島が沈んだり、ダイナマイトが投げ込まれて生き物が死に絶えたり、工業都市が形成されてどぶみたいな廃液が垂れ流されてしまうこともあるかもしれない。
でもどんなに大変なことが起きても、あの水平線の先、この世のどこかに別の海を渡っている友だちがいるとしたらどうだろう?
わたしは、気休め程度かもしれないけど落ち着けるような気がする。
落ち着けるというか、一旦顔を上げて息を吸えるという感じかも。
別の海とはいえど海は最終的にはつながっている。
だから、この苦境を乗り越えて視界が晴れてきたらきっとまたみんなに会える。
いつの日か会える。
そういうイメージが湧いた。


さわやかなメロディーラインと一緒に歌詞がぶわっと迫ってきて、懐かしいような泣きたいような、怖いような気持ちになった。
いつの、いやもはやだれの記憶の中のものかも分からないけど、目の奥に朝焼けでピンクに染まった穏やかな海の映像が浮かんだ。
幻かな?白昼夢?
でも幻だったとしても、いつの日か然るべきところに還るまでわたしはわたしの海を行こうかと思えたことは、今後の日々にとって結構よかったんじゃないかと思ってる。
やけにしっくり来た。そして気づいたら元気になってた。


いやはや、ひとり暮らしが板について旧友の結婚式ひとつで人生観について考えるようになっちゃったよ!
秋の夜長はぐるぐる考えごとするのにちょうどいいね。
もしよかったら聴いてみてほしいな、『Friend Ship』。
最初は恋人に宛てた曲みたいなのになんでタイトルこれなの?って思ってたんだけど、数年越しに自分なりの解釈を見つけられた気がしてちょっとうれしい。

別の海を渡った先で必ずまた会おう。
今日はきっと海にまつわる夢を見ると思う。


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