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エッセイ 人生のフロントロード(前倒し/その場凌ぎ)

初めまして、格ゲー中毒者の無名雑魚、星川実業と申します。心理学科卒後、精神福祉分野でカウンセラー関係の仕事をしていました。

仕事の性質に加えて私自身が年齢を重ねてしまったこともあり、多くの人生を見て、関わり、支援してきました。その中で得た人生観を整理し、人生を歩もうとする方々への一助となれば幸いです。

※スレイザスパイアの例え話が出ます

※用語の解釈を拡張していますので、正確な表現では無い箇所があります。ご了承ください

※著者はアイアンクラッド派です


スレスパは人生なのか?

全ての可処分時間が奪われる、と称される傑作


人生はスレスパだ と豪語する人は多いです。
経験者の方なら頷いてくれるはずです。

生き残れるか否かは運が絡む、しかし工夫する余地が無数にあり実力が反映される。油断や慢心が危機を招くが、構えていても避けられない死もある。そして何より、今を生きる力と将来を勝ち抜く力両方が必要になる。示唆に富んでいるゲームです。

傑作なので多くの方はご存知かと思いますが、念のため補足します。


〜補足:スレスパってどんなゲーム?〜

・ランダムに出現するカードやアイテムを拾いながらダンジョンを潜り、最深部にいるボス撃破を目指すゲーム。カードを使ったローグライクゲー

・戦闘時、自分の行動はカードで決定する。デッキからランダムにカードを引くので、弱い行動が少ない方が当然生存しやすい。

・敵のバリエーションが豊富なので、自分が組んだデッキとの相性の良し悪しが出やすい(このカードを引いておけば必ず勝てる!とはなりにくい)

・どのルートを通るか?なんのカードを拾う/或いは拾わないかで大きく結果が変わる。ランダムなのにプレイヤーの取り組みが如実に反映される不思議なゲームバランスの傑作。

〜補足終わり〜


この素晴らしいゲームをクリアするために需要な考え方があります。それがフロントロードスケーリングそしてスノーボールです。

なんでこいつ人生の話をするって言いながらゲームの話始めたんだ?アホなのか?と問われると、まぁ確かにアホなんですけど、上記の3点が完全に人生でも役立つ概念だからです。


3用語の何が人生なのか

※工業や医療分野でも使われる用語ですが、今回はゲーム内で使われているニュアンスで用います。

それぞれの用語は、概ね以下の意味です。

フロントロード:

・前倒し、工程を早める等の意味で使われる。スレスパでは「使用した瞬間に即時効果のあるもの」「目先の困難に有効であるもの」を指すことが多い。

「前半は価値が高いが、後半要らなくなるモノ」という見方もできる。ダンジョン序盤の敵は瞬間的に強いフロントロードで薙倒せるが、後半になり敵が強くなるとダメージが足りず苦戦する。

・人生に置き換えると、「その場を凌ぐ」「とりあえず目先の困難を乗り越える」行動と言える。


スケーリング:

・スケールを変える、大きくしていく等の意味が語源。上記のフロントロードとは逆の概念で「即時効果は無いが時間経過とともに強くなる」「将来の困難に有効であるもの」を指すことが多い。

「前半は価値が低く、後半は必要になる」という要素。序盤にスケーリング系カードを取っても無駄に体力を削られてしまうが、後半の敵はスケーリングをしないと倒せなくなっていく。

・人生に置き換えるなら「即効性は無いが人生を良くする要素」とか「将来への投資」みたいな概念。


スノーボール:

・雪玉。雪だるま式の意で、雪玉が雪道を転がってどんどん大きくなる様子から。投資分野でも使われる概念。

一度得たアドバンテージ/資産を元にさらにアドバンテージを稼ぎ、どんどん大きくしていく。これができるとほぼクリアできる。

・スレスパで言うと『序盤に強いフロントロードを得る→素早く敵を倒せるようになり、効率良くカードを強化できる→進行に合わせてスケーリング用のカードも用意する→終盤には盤石な強さでボス撃破しクリア!』というのが理想的な流れ。綺麗なスノーボール。

・組み合わせ次第で突然強くなるカードもあるが、基本的にはアドバンテージを積み上げて己を強くしていく


人生はスレスパなのか?


3用語を用いつつ、概念を人生に置き換えて見ます。

例えば高学歴高収入デッキ(人生)はパワーと安定感があり強デッキと言えるでしょう。

『良い大学に入り勉強する』という行為は即時的に金銭が手に入るわけでもありませんし、大学にいる間は拘束時間も発生します。自身を育てるスケーリング的な要素と言えます。

充分に育った状態で社会に出るもよし、研究に勤しむもよし。選択肢は様々です。就職は有利ですし、学んだ専門性を活かして高収入を狙い易いです。金銭面で得たアドバンテージを投資や資産運用に回しさらに増やすこともあるでしょうし、参加するコミュニティを活かして出会いの場も豊富でしょう。色々なハプニングも起きるでしょうけど、おおよそ他人の羨む人生を送る確率が高いです。アドバンテージが次のアドバンテージを産む、綺麗なスノーボールです。

エンディングで「良い人生を送れたなぁ」と思えたとします。ではこの高学歴高収入デッキを作り上手くいった要因は何だったのか。大きな要因の一つは受験に合格できたこと ではないでしょうか?目の前の勉強、目の前の試験で結果を出し乗り越えたこと。フロントロードです。

今回のデッキの例で言えば、将来何に使うんだよと思いつつも全力で受験を乗り切る(フロントロード)→大学で専門的な知識と経験を得る+卒業後もそれを活かす(スケーリング)→おおよそ順調な人生に(スノーボール) という形になりました。


勉強したくない子供や勉強してこなかった大人が言い訳で「受験勉強は人生の役に立たない」とか「学校の勉強は将来使わない」とか言われがちです。「それはお前が役に立たない、その程度の存在なんだろう」と言いたくなりますが、スレスパの例を用いればもっと論理的に反論できます。

「学校の勉強は確実に手に入るフロントロードだよ」「スケーリングを得るために必要だよ」と。


勉強した経験は将来に生きる(スケーリング)という見方もできますが、受験でしか使わないような勉強方法や対策はその場を乗り越えるためのフロントロード、その場凌ぎと言えます。意味がないその場凌ぎではなく、次のアドバンテージを得るための『有意義なその場凌ぎ』です。


運と初期手札

人生とスレスパを同じシステムのゲームだと捉えた時、人生にはとんでもないクソ要素があります。初期手札が違いすぎます。

家が裕福か、両親は仲が良いか、住んでいた家は安全だったか、身体的特徴、見た目の良さ、運動能力の差、関わる人間の質、etc etc……とにかく差が大きすぎです。


結局、受験勉強を乗り切るのは知能の差ではなく生育環境の差、運じゃないかという見方もあります。それは誤魔化しようがない事実でしょう。たくさん努力すれば結果は出せる!と言いたい所ですが、充分に努力できるかどうかの土台で差が発生しています。

スレスパも、攻略レベルが上がってくると呪い等悪い効果のカードを持った状態でスタートします。人生も一緒で、初期手札でハンデを背負っている人が多数います。

しかし生きていると、突然の幸運で状況が好転することも、その逆もありえます。弱いデッキだと思っていたら強力なレリック(お宝)を拾い急に希望が見えてきたり、順調だったのに相性の悪い強敵に連続で出会って大ピンチになったり。

「生きていれば良いことあるかもしれないよ」なんて曖昧な励ましは嫌いなのですが「古木の枝(超強いお宝)を拾えば勝てる」と思えばまだ諦めず進もうと思えます。違いは『僅かな具体性の有無』の差ですが、不思議な話です。


恵まれた環境で生まれたら必ず人生が上手くいくわけではありません。もし貴方が恵まれた環境で育ち順調な人生を送っているのであれば「良い環境をちゃんと活かせているな」と自身を肯定し、他者の僻みに気を病まないで欲しいです。

もし貴方が悪い環境で育ち今も苦しんでいるのであれば「あんなクソみたいな手札でよく凌いできたな」と自分を肯定してあげてください。良い手札で勝つことより数倍難しい、とても難しい道のりを越えてきたんです。


良い環境で育ったはずなのに上手く行っていない、という貴方はスノーボールが出来ていないだけで、目指す先を定めたら一気に雪玉が大きくなるかもしれません。良い土台が貴方の人生を支えてくれているはずです。それを思い出し、肯定してあげてください。


フロントロードでもいいじゃない


なんか場当たり的な人生を送ってきたな、積み上げたものは特に無いし自分の人生このままで良いのかな、と不安になる方は多いです。

スレスパであれば、終盤を生き残れない貧弱なデッキになってしまっているかもしれません。しかし人生の良い所は、最深部のボスを倒しに行かなくても良い点です。目標を変えることも、新たなデッキを目指して新しいルートを開拓することもできます。

自分ではその場凌ぎの人生だと感じていても、思わぬ所で今までの経験が活きることがあります。話のネタになったり、似たジャンルを理解する時に役立つこともありまず。人生のゲームバランスはクソですが、序盤に使ったカードの効果を拡張し終盤に活かす等自由度が高い点は良ゲーです。

なんとなく関心を持った内容を勉強したり、夢中になれる趣味に没頭したり、それが将来にどう繋がるの?と思うようなことでもとりあえず全力でやっておくとその知見は他で活きるモノです。人間は自分が知っているものを用いて知らないことを理解します。少しずつ広げた知識は、別な知識を捉える際にどこかで役立ちます。


人生の悩みはスレスパで解決?


カウンセリングをすると、人の悩みは千差万別です。過去に捉われている、現状への不満、将来への不満、 etc… 言葉だけで解決できれば素晴らしいですが、なかなか難しいです。環境を変えるのは時間も労力も必要でコストが高いからです。

しかし、考え方や視点は比較的変えられる可能性があります。コストが低い割には効果が大きいので生活に行き詰まりを感じる方にはオススメです。

悩みは漠然としていると解決に繋がりません。小さく分類していくのが良いと思います。何から考えていいか分からねぇよ!という方は、上記の3用語から着手しては如何でしょうか。


目先に乗り越えなきゃいけない課題があるのか自分を育てる要素が不足しているのかスノーボール出来ていないことへの焦りなのか

新しい手札(行動)を取ることが大事なのか、知見の蓄積が必要なのか、目標が必要なのか

漠然と苦しんでいるよりは、何をすると良さそうなのか分類するだけでもストレスが軽減できることがあります。

1人で整理しきれない時は誰かに相談する方法もあります。誰も相談相手が居ないなら私で良ければ話を聞きます。スレスパやりながらで良ければ。


強カードはあるよね

序盤から終盤にかけて役に立つ強カードは人生にも存在します。環境が変わっても概ね通用する要素です。

健康な身体、人を不快にしないコミュニケーション能力、(特に幼少期の)愛情(他人を信用できるか否かに大きく関わる)、金銭、 etc


もし貴方が人生の現状に悩み、変えたいけども何から手を付けて良いか分からないのであれば汎用性の高そうなカードを取りに行くのは如何でしょうか。急に手に入らないレアカードばかりですが、取っ掛かりはあるはずです。

ちゃんと寝る、相手の話を聞く、否定から入らない、収支を見直す、治療を受ける、etc…

一つ一つはとても凡庸で耳にタコができる程、聞かされた言葉だと思います。しかし重要なことは得てして凡庸です。小さな凡庸の積み重ねが強いフロントロードであり、スケーリングであり、スノーボールに繋がります。

スレスパをやっていると実感すると思います。不運や危険を跳ね飛ばす幸運は再現性がありません。信用するべきは奇跡ではありません。最も信頼できる武器は「プレイヤーがよく見て、よく考えること」です。これ以上なく凡庸で、誰にでもできることの積み重ねです。

きっと人生もそうなんだと思います。


改めて、自分の手札を見返してみると良いことがあるかもしれません。



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