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格ゲー小噺 せすじピン下段

むかしむかし、上半身がグネグネ動く怪異が格闘ゲームをしておったそうな…


仮名「マサシ」は私と同じ小学校と中学校で過ごした友人で、気の弱い所はあるが人に優しい良い奴だ。対戦ゲームが得意な方ではなかったが、負けて馬鹿にされても楽しそうに明るくリアクションを取るので周囲からも好かれていた。

中学生になったある日、マサシが珍しく真剣なトーンで声をかけてきた。「もう少し勝てるようになりたい。格ゲーを教えて欲しい」と。私はゲームセンターでは最下層の実力だったが、同級生にはほぼ負けないくらいの自負はあった。所謂ゲーム小僧である。

そうか、楽しそうに振る舞ってるけど内心勝ちたいよな、と心を打たれた私は持っていた知見を伝え共に練習を始めた。

マサシは不慣れな操作に苦労しつつも持ち前の実直さで毎日練習し、ゆっくりと成長を続けた。中学校を卒業する頃には、ゲーセンに行かない同級生には負けないくらいの実力を得ていた。

「もうちょっと勝てても良いと思うんだけどなぁ……」


ある日、対戦後のマサシがぼやく。マサシは随分上手くなったし、無駄な動きが少ない丁寧な動きをする。その反面、対戦していて怖さが無かった。端的に言えば、攻め手が緩い。チャンスが訪れた場面で、相手を破壊してやるという圧力が無かった。

当時マサシがやっていたゲームはメルティブラッド(使用キャラ:シエル)とギルティギア(使用キャラ:梅喧)。使用キャラから「年上のお姉さん好き」が滲み出ている。性癖的な観点以外で、どちらのキャラにも共通点がある。強力な攻め…相手の防御を崩す手段がある。

参考画像:シエル。剣が強いと見せかけてフィジカルが強い女


参考画像:バイケン。この頃はまだ服を着ていた。


マサシには相手をぶっ殺すという圧力が足りない。今こそ向き合うべきだ。低空中段…鴨音中段…強力なガード崩しを。


格ゲーを知らない人向けに一言で言うと「特定の条件で使える、防御するのが難しい強烈な攻撃」である。

〜補足〜

もう少し詳しく言うと、2D格ゲーは下段ガード…しゃがんで足元を守る姿勢が防御の基本である。そこで咄嗟に下段ガードできない攻撃「中段攻撃」を撃つことで相手は防御できない。しかし、中段が来るタイミングがバレてしまうと当然防御されてしまう。

そこで「中段と下段どっちも来る?!」という状況を作り相手の防御を崩す。これを中下2択と呼ぶ。(雑な説明です)


〜補足終わり〜

「確かに、なんか防御に回ってる時間が長い気がする。難しいけど練習するわ」


マサシは静かに練習を始める。相変わらず実直な男だ。なかなか成功しないが、彼は諦めの悪さで困難を乗り越えてきた。


時は流れ、ゲーセンでマサシと再開した。

「例の2択、できるようになったんだけどイマイチ勝てねぇんだ。久々に相手してくれよ」


すっかり格ゲーマーとして成長したマサシ。着実に上手くなっているが、妙な違和感があった。なんかゲーム台が揺れていたような…?

一旦私の勝利で終わり、マサシが他の人と対戦する様子を観戦することにした。静かな立ち上がりから、堅実な対応でマサシが自分のターンを作る。絶好の攻めのチャンス。迷わず踏み込む。あれは、あの日伝えた中下2択の動き!ダメージを与える大チャンスだ。


ガァタガタァンビビビン!!(ビビィン)


私「?!!」


ゲーム台「??!!」


私の文章力では表現しきれなくて申し訳ない。ゲーム台が激しく揺れたかと思うと、マサシの身体が不自然に伸び上がり、痙攣していた。

何かに取り憑かれた??


違う、素早く中段攻撃を出そうとした結果、全身に余計な力が入ってるんだ!猫背から急にせすじが伸び、腕もガチガチに力んでるから台が揺れているんだ!!


笑っては可哀想だと思い、必死に堪えた。人を殺しそうな顔をしながら耐えた。マサシはギリギリ負けてしまい、首を傾げている。本人は常に真剣だ。さっきまで憑依されていたとは思えない足取りでスッとこちらに戻ってくる。


「あんな感じですわ。なんか中段撃つ場面がバレてる気がするんだけど、俺の動きって分かりやすいのかな?」


私は下唇を噛んで笑いを堪えながら懸命に伝える。「ち…中段撃つ前に、台が激しく揺れてる気がする…」 マサシも最初はそんな馬鹿な話があるかと聞き流していたが、私の異変を察して真顔になる。


マ「えっ台揺れてる…?」

私「うん…ついでになんか…せすじが急に伸びて…取り憑かれたみたいになってる…」

マ「は…??」


こっちのセリフである。信じてもらえないので、携帯電話で後ろから動画を撮って本人に見せる。


マ「えぇーーーー怖い怖い怖いなにこれえっっ?!完全になんかに取り憑かれてるじゃん?!」


二人で泣いた。笑いすぎて泣いた。一通り泣いて、マサシは立ち上がった。「中段を撃つ時にせすじを伸ばさなきゃいいんだろ。俺は取り憑かれていない!見てろ!」もう一度、先ほどの相手に挑んでいく。


ガタッヘコヘコヘコヘコ

エンストした車のように、ヘコヘコと上下に伸び縮みしたと思ったらそのまま負けて帰ってきた。人間は伸びそうなせすじを抑えたら、ああいう動きをするのか。いや人間か?平安時代なら即陰陽師案件だったであろう。


マ「俺の身体がおかしくなってる〜〜助けてくれぇ……」

泣き笑いしながら格ゲーを続ける怪異は、嘆いていた。ずっと練習して身に付けた動きはそう簡単に消えない。悪い方向にもそうなのだと実感した。


私は閃いた。


私「どうしても中段を撃つ時にせすじが伸びるのであれば、わざとせすじを伸ばしながら下段を撃てば2択になるんじゃないか?」


マ「何言ってんの…?」


私「お前が何なんだよ…バケモンがよ…」


再び先ほどの相手と再戦するマサシ。ゲームしてると腰が痛い、みんな連戦できて凄いと言っていたがその原因がわかった。あんなにグネグネ動いてたらそりゃ疲れる。水中なら相当前進していたであろう。そのグネグネ野郎に三度チャンスが訪れた。

ガァタガタァンビビビン!!(ビビィン)

下段!!


せすじを堂々と伸ばしながら、ガタガタに台が揺れながら下段を決めた。そのまま攻め続け勝利した。相手も面食らったであろうが、こっちの方が驚いている。一番驚いているのはマサシ本人であろう。口を開けてこっちを見ている。こっちを見るな。


こうしてせすじピン下段を習得した怪異マサシは自信を持って相手を攻めれるようになったが、ゲーセン店員から「すみません、もうちょっと優しく操作してもらって良いですか?」と優しく注意され、全ての動きがぎこちなくなって惨敗した。


「腰が痛い」

と言い残し、怪異は山へ帰っていった。



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