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全宅ツイ不動産チンパンジー情報 第90号

ルポ立ち退き~終着駅の先の終着駅~

著者:全宅ツイ会員(匿名希望)

 みなさん、古いアパートで平穏な余生を過ごすおじいちゃんやおばあちゃんの布団を剥がして更地にした土地を売り飛ばし、普通のサラリーマンの何倍ものお金を稼ぐ方法、いや、違った、古くなった建物を現代のニーズに相応しい不動産として活用すべく、権利者間の調整を行う社会問題解決型不動産ソリューションの方法、をご存じですか?

 かつて映画「マルサの女」の中で地上げ屋さんのボスが部下たちに言いました。

「地上げのコツはただふたつ。脅しと愛情。」

 僕もそのとおりだと思います。立ち退き相手と長く一緒に時間を過ごせば過ごすぶんだけ、関係は深まる。恋人たちと同じだ。まずは愛情だ。僕が木造アパートの薄暗い玄関先で対峙するのは首元がだるだるになったランニングシャツを着たおじいちゃんか、腰が90度に曲がったおばあちゃんだけど……

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 東証の応接室。偉そうな、多分本当に偉いおっさんが壁に掛かった銅製のレリーフの由来をとても流暢に喋っている。学のない僕たち不動産屋さんなんかの、本当に偉い人たちと共通の話題がない人間と喋らないといけないときの定番ネタなんだろう。

 とても興味深いような顔をしながら本当は一ミリも興味のない話を聞いていた僕たちは、本当に偉いおっさんと、呼び出しに来た若い社員に先導されて中二階のような細い通路を進む。大きな吹き抜けに面した、思ったより狭い場所に東証の鐘は置いてあった。

 僕たちを見つめる若い社員や、家族、取引先を吹き抜けから笑顔で見下ろす。悪くない気分だった。創業社長の次に渡された木槌で鐘を力いっぱい叩く。君たちは知らないだろうけど、あれは側で聞いてる分にはとてつもなく大きい音がするんだ。

ゴーン!ゴーン!ゴーン!……

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「……聞いてるのか?」

 僕は、ハッとして眼の前のおじいちゃんに言う。

「聞いてますよ」

 ああ、今、僕は102号室の主、吉田修さんが話す長い長い話を聞いていたんだ。

 ここは上場記念の鐘の音が響き渡る日本橋兜町の東証ではなくて、豊島区椎名町のことぶき荘。鳶を大怪我してやめてから●●●に転職したんだと人差しを曲げて笑う吉田さんの話に、僕は一ミリも興味が無いのはおんなじだけど。

 御年76歳。生活保護受給者。立ち退き合意書に早々にハンコを押してくれてからが大変だった……。

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 まだ暑い9月の頃、吉田さんと僕は引越し先候補のことぶき荘に負けないぐらい古い、雑司が谷辺りの、アリの巣穴みたいな行き止まりだらけの私道の奥にあるアパートにいた。

「ぶぼっ!ぶぼっ!」
 
 キッチンの説明をしてる仲介会社の担当とそれを聞いてる僕の後ろの方から何発も音が聞こえる。おじいちゃん止めて。借りたお部屋でみんなオナラしてるけど、借りる前のお部屋では音出してオナラしちゃいけないの!

 皆さんご存知ですか?近所のミニミニに行って元気よく、76歳!生活保護!独居!アパートの建替えで引っ越しする部屋を探しています!って叫ぶとカウンターの中のミニミニマンがどんな顔するか。インターネットで見つかる生活保護専門!って書かれた賃貸仲介会社に電話した担当の第一声のドスの利いた「……なに?」って声とか。

 立ち退きのとても重要なポイントの一つは引越し先の確保です。ですが、あれじゃないですか、そもそもが他に住みたがる人もいないような古い古い、人生の終着駅みたいな木造アパートしか借してもらえない入居者に好き好んでお部屋を紹介したり、貸してくれたりする人ってあんまりいないじゃないですか。そこから立ち退かせて引っ越しさせるってのは終着駅についた電車をまた動かすみたいな話ですよ。終着駅の先の終着駅がいるんです。

 というわけで、年金ぐらし高齢者、生活保護受給者などのみなさんが引っ越すとなったときに協力してくれる賃貸仲介会社がとてもとても重要です。これがなかなかみつからない。だれだって若くてちゃんとお家賃を払って、他の入居者にも迷惑をかけない入居者を仲介したほうが楽に決まってる。それなのにわざわざ、物件が都内でさえあれば僕が立ち退きするときにとても協力的に手伝ってくれる、やっとみつけた聖人みたいな仲介会社、お前たちには絶対におしえてやらない。

 その仲介会社の前でおじいちゃんがオナラをカマすわけです。

「ぶぼっ!ぶぼっ!」

 僕は慌ててキッチンの換気扇の紐を引いてから、おじいちゃんの手を引っ張って外に出た。目の前はアパートの唯一の接道、自転車がすれ違うのがやっとという幅の二項道路。そのどんつきまでおじいちゃんを連れていき思う存分放屁させて、ついでにタバコも吸わせて、頼むからオナラはやめてって言ってまた、部屋に戻った。

……おかしい。こんなはずではなかった。
20年前、僕は不動産業界ではぶっちぎりの名門、由緒正しい総合商社の不動産部門から斯界のキャリアをスタートさせた将来有望な不動産世界の貴公子のはずだった……。

 昔の貴公子は今、部下の作成した2万円の発注書にミスがあったと怒鳴り散らすテナントに土下座して発注書にハンコをおしてもらったり、すこしでも経費を浮かそうと売主が屋上に残置した業務用冷蔵庫を一人で抱えて腰をイワしたり、おじいちゃんにオナラをしちゃだめって叱ったりしている。

 神様、これは何の罰でしょう?契約締結寸前に仮測量を入れたら10坪ぐらい縄伸びしてたのを売主に黙って公簿売買したやつですか?建物を解体したときに見つけた地中障害を告げずに瑕疵担保責任免責で売ったやつですか?いつもツイッターで湾岸とか文京区の悪口を言ってるからですか?それとも……

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 僕に注意されてオナラをひっこめた吉田さんは結局その雑司が谷の終着駅アパートを引っ越し先に決めた。ああ、これは借地借家法ババ抜きだ。終着駅アパートから無理やり次の終着駅アパートに移したババ。それをまた不動産世界で罪を犯したもう一人の僕が別の終着駅アパートへ動かすんだ、神様。

あとは引っ越しのためのいろんな手続きをするだけのはずだったある日、電話がかかってきた。吉田さんから、じゃなくて池袋署から。

「それでおれは言ってやったんだ。警察でもなんでも呼べって。」

 知ってるよ。おじいちゃん。僕のところに池袋警察署から電話が来たからね。ことぶき荘の入居者同士で喧嘩してるって。初めてじゃないよね。これで何回目かなんだってね。重要事項説明書には書いてなかったよね。

 おじいちゃんの喧嘩相手は201号室。こちらも生活保護受給者の男性で40代。コイツはいわゆる聴覚超人で、一日中部屋にいて、ことぶき荘の他の住民が物音をたてた瞬間にその住民をどなりつける、その住民がたてた物音よりずっとずっと大きな声で。

『平日昼間に家に居るやつにまともなやつはいない。』

 これは僕がおでこに入れ墨をしてもいいぐらいの金言だ。そういう平日昼間にお家にいるみなさんどうしが喧嘩をする。201号室の入居者、ムカつくことに僕と同い年ぐらいのくせにうっとおしいほど生えた髪の毛を真ん中分けにしてたので、キノコマンって呼ぼう、その小柄で体力に劣るキノコマンはアパート内で揉めた際には隙あらば警察に通報する。「殴られた」って、ああ、神様。

「いや〜吉田さん、うちも困ってるんですよ。あのキノコマン。だいたい働かずに昼間から家に居るやつにロクな奴いないでしょう。」

 わが意を得たりと頷く、吉田おじいちゃん。おまえもじゃ。

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「あのジジイはどうしょうもないですね」

 さっきまで102号室でひとしきり吉田ジジイの文句を聞いていた僕は今、201号室でキノコマンの前に座っている。暑い。初めて入るキノコマンの部屋は8月というのに窓も開けず、エアコンもかかっていない。電気代の節約のためにエアコンを真夏でもつけない生活保護受給者は多いのだ。よく高齢者が自宅で熱中症になって死亡したってニュースでやっている。キノコマンは40代だが、僕は素早くキノコマンに立ち退き料を支払う場合と、更地になったことぶき荘の物件概要書に”告知事項有り”と書かれた場合のフィージビリティスタディを行った。暑さでもうろうとする頭でも立ち退き料支払いの方がリーズナブルだと思った僕は初めて腰を据えて話す機会を得たキノコマンに洗いざらい明け透けに、立ち退いてもらいたい旨と予算の80%の立ち退き料を告げた。

「800万円」

 キノコマンのカウンターオファーを聞いた僕の瞳からは一切の感情が消えた。たまにいるでしょう?不動産屋さんでガラスの目玉みたいな目の人、あんな感じ。

 判例にある相場、不動産業界での一般的な立ち退き料の相場、本物件ことぶき荘でみなさんに同意していただいた金額(これはかなりきわどい普通は切らないカードだ)、その他くっつけられる限りの理屈をつけて、僕は今度は予算の200%の立ち退き料を告げた。

「800万円」
 
 はい。 ここでみなさんに算数クイズです。ある不動産屋さんが豊島区椎名町の古い古い、総戸数8戸のアパートを5,980万円で買いました。一部屋あたりのお値段はいくらでしょうか?神様、僕は僕のアパートをもう1回、入居者から買うハメになるんですか?

(※一部の同業の皆さんは、生活保護受給者と立ち退き料の交渉、ってところで違和感を感じるでしょう。そうです。一部の皆さんのご理解の通りです。ここでちょっと入居者が生活保護受給者の場合の立ち退きについて書いてみます。まず第一に、生活保護受給者にも住居の選択というか無理やり立ち退かされない権利はもちろんあります。役所にお願いしたら生活保護受給者を本人の意向関係なしに引っ越しさせてもらえるって無知な僕は最初思っていました。次に、いわゆる立ち退き料ですが例えば、大家さんである僕が生活保護受給者に立ち退き料100万円払うって言って合意したとします。で、実際に引っ越しにかかった実費が40万円だとします。残りの60万円はどこに行くか?また、立ち退き料20万円で生活保護受給者と僕大家さんが合意したけど、実際に引っ越しには40万円の実費がかかった場合、足りない20万円はだれが払うのか?)

「いや、あの、こういうことはあんまりいいたくないんですけど、キノコマンさんは生活保護を受給されていますよね。その場合、仮に僕が800万円お支払いしても実費以外の部分は全部、役所にとられちゃうのはもちろんご存じですよね?」

「800万円」

(※生活保護受給者の立ち退きの場合、合意した立ち退き料が実費を上回る場合はその超過分は役所に返還?され、合意した立ち退き料が実費を下回る場合はその不足分が役所から支給されます。つまるところ引っ越し費用を大家さんが払うか役所が払うか、それを生活保護受給者が合意する立ち退き料で決めてる感じになります。)

「いやでも、もし800万円自分のモノにしたら生活保護とまっちゃいますよね?」

「構いませんよ。僕は別に仕事してるし。生活保護なんてもらわなくてもやっていけるんだ。こういう場合は裁判されても追い出されないのは知ってますよ。僕は素人じゃないです。ネットとかで色々しらべたから詳しいんです。」

「ネットから得た知識でプロとお金を賭けて渡り合おうと考えるやつのことを素人いんうじゃい!」

って叫ぶ代わりに僕は

「承知しました。社内で検討します。」

って言って、とぼとぼとことぶき荘を後にした。

 小さな小さな不動産屋さんがなけなしのたった一枚のチップを賭けた立ち退きアパートルーレットが回ってる時の気持ちを知っていますか?寝る前、ベッドの上で天井を眺めてるときも、ご飯食べてるときも、お酒を飲んでるときも、twitterしてるときもキノコマンの顔が浮かんできます。ぶぼっ!ぶぼっ!たまに吉田おじいちゃんも。そういう効果音の鳴り響くアパートルーレットのどのマスにボールが落ちるかで小さな小さな不動産屋さんの、引いては社員や僕の家族の未来が決まるんです、神様。

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 立ち退き料をつり上げるキノコマンをしばく。絶対に合法的で、絶対にスカッとする方法で。そう誓った僕はとりあえず豊島区の西の方の地区を管轄する福祉課に向かった。

 暴力追放と書いたポスター、カウンター越しに公務員へ繰り出されるパンチを防ぐためのタクシーのやつみたいな間仕切り、デカデカと印刷されてこれみよがしに貼られた池袋署の電話番号、そういったとても臨場感のあるタイプの"相談室"で役所の人と対峙する。社会の矛盾を一手に引き受けさせられる罰ゲームを自発的にではなく毎日やらされてると人間はどんな風になるかの実験サンプルみたいな役人たちにもキノコマンはその名を轟かせているようで、僕が彼の名を告げた瞬間に目の前の役人はとても迷惑そうな顔した。

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残念ながらこの後のキノコマンとの対決、そして合法的に得られた結果の、射精してしまいそうなカタルシスについてはここでは書かれない。そんなものはインターネットでは語れない。いつか皆さんと酒チャンスでお会いしたときにお話したい。あるいは僕たちにカネを払え。ファックユーペイミー。

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(赤坂の路地裏、カウンターだけの和食のお店、もう寒い頃)

「Tさん、知ってたでしょ?」

 僕はことぶき荘を紹介してくれた仲介業者のTさんの空になった盃にお酌をしながら聞いた。

「うっはっは。201号室の人でしょ?物件を紹介したときも、重要事項説明書のときも聞いてこないんだもん。売主の売却理由や賃借人との係争の有無。」

「わっはっは、やっぱり。」

 僕たち二人の不動産屋さんは大声で豪快に笑った。不動産屋さんの習い性として目だけは少しも笑っていないけど。

 それでも売却益は全てを癒やす。立ち退き完了したことぶき荘を分筆して僕の会社が得た利益は●千万円。それをマイホームとして買いたい個人のお客さんに紹介してTさんも仲介手数料を得た。最初に、ことぶき荘を僕に紹介することでことぶき荘の元所有者と僕から合計6%、さらに僕が個人のお客さんに売るときに僕と個人から6%、一つの物件でTさんが得た手数料は合計12%、……待って、僕より利益率高くない?

「少しでも隣の部屋や上の階で物音がすると、201号室の賃借人はすぐに警察をよんで、その度にオーナーと管理会社も呼び出し受けてたんですよ。それで嫌になった他の住民は出ていったり、家賃を払わなくなったり。売主も高齢の資産家でしょ、そういう面倒くさいのとても嫌いますからね。いくらでもいいから売ってしまおうと。」

 土地代以下、利回りでもネット9%近いことぶき荘を紹介されたとき、Tさん、これ僕が買うからもう他に紹介しないで!って叫び、仲介会社内で他の担当者の持ってきた札のほうが僕の札より高かった時には、Tさん、部下の札でしょ!握りつぶして!って叫んだ僕がTさんにいう言葉はこれしかなかった。

「またご紹介お願いします!」

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 はい。というわけで今年もクソ物件オブザイヤーの季節がやってきました。ことしもたくさんのみなさんのご参加を楽しみにしております。

次のルールをよく読んで投稿してね。

エントリー期間:
2022年11月15日(火)7時30分~11月19日(土)21時00分

クソ物件とは?:
2021年11月15日から2022年11月14日までの期間に注目を浴びた不動産プロジェクト全般(住宅・オフィスビル・商業施設・ホテル・高齢者施設・物流施設・開発用地・不動産会社・不動産テック・不動産屋さんの起こした事件など)お願いだからヘンな間取りを投稿するのはもう勘弁してください。

エントリー方法:
クソ物件の魅力を1ツイートに込めて#クソ物件オブザイヤー2022のハッシュタグをつけてtwitterに投稿してください。KBOY受付ゴリラ(@KBOYgorilla)がリツイートした時点でエントリー完了です。参加者が爆増したのでグリップ君(@kuso_bukken)は気に入ったものだけ厳選してリツイートするウホー。

※同一物件・同一ネタの投稿はエントリー期間終了時点で最もRT+FAVの多かった作品が最終ノミネート作品に選ばれます。すでに誰かが投稿しているネタでも遠慮なく踏み台にして、より魅力が伝わるツイートでバズらせましょう。

 今年も予選落ちやったらワシはメンズエステで高額別オプション代を払ったのにサービスが機械的だった時のよ●すけさんぐらい切れるからな。

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 もしキノコマンが暴れなければ、ことぶき荘の元所有者は管理を持て余すこともなくずっとことぶき荘を保有し続けていただろう。
 キノコマンが800万円の立ち退き料を提示してごね続けているその間に、ことぶき荘の隣地すべてにアタックした結果、プロジェクトの規模が2倍になったこともなかっただろう。
 もしキノコマンがいなければ、弊社の資本金に等しい売却益を弊社が手にすることはなかっただろう。

 やっと気づいた僕は、何年も前の10月の夕暮れに一人、とぼとぼと、ことぶき荘から帰る僕に教えてあげたい。神様はずっと目の前に生活保護受給者の姿をして現れてたんだって。

ありがとう。神様。

僕はそう呟いてから、キノコマンがサインしたミミズみたいな文字のならぶ立ち退き合意書と領収書の入った豊島区福祉課あての封筒を会社の近くのポストに放り込んだ。

おしまい。


■その他の出来事


■あくの×かずお グラビアン塊 あいみ 前篇

あくのふどうさん(以下、あくの):せくろす!
かずお君(以下、かずお):せくろす!(ちゅうがくせいかよ
秋が深まってまいりました
あくの:いいですね
かずお:年末の風物詩、KBOYも始まりますしね
あくの:アルコール中毒の秋!
かずお:肝硬変の秋!!
あくの:顔が真っ黒になる季節が
かずお:最近同世代でもアル中っぽいのふえてきたね
あくの:最近私、夜飲んでなくて
かずお:そうなんだ
あくの:でも気がついたら昼にすごい飲むようになってて。ランチでもいこっか、と同業誘ってビールを立て続けに4~5杯頼んでたら引いてました
かずお:一日が短くなるやつだ
あくの:なんにもすすんでない平日がある
かずお:なんか、お酒の飲むともうその日終わっちゃうじゃないですか。結構あれが寂しくて。
あくの:そうなんですよ
かずお:最近事務所で早い時間に飲むのはほろ酔いとかにしてます。
あくの:あー
かずお:女子大生みたいに甘くて弱い酒飲んでるおっさん。
あくの:そういうのありますね
かずお:強めの行っちゃうと一日が終わって何も残らないから。でもまあほんのり楽しい空気は欲しいときに弱い酒いいよね。3%くらいの甘くないチューハイ出してほしい。めんどくさいからカショッ!って缶開けてのみたいよ
あくの:離婚予備軍の発想だよそれ
かずお:そうだね…
あくの:うちは一人ひ弱な女子除いて、みんなすげー飲むからおわんないんですよ
かずお:独り者か離婚予備軍が多いから
あくの:ま、いっか
かずお:うん、楽しく生きるのが大事なんで。楽しく生きるといえば、10月末はハロウィンと言うお祭りがありましたね
あくの:はいはい
かずお:一年で一番渋谷が美しい日
あくの:ヘブン感
かずお:今年は3年ぶりにガチンコで開催されてましたね
あくの:もどってきましたね
かずお:一昨年、やってるかなって見に行ってみたら、全然やってなくて。スクランブル交差点で一人ピンクパンサーのかっこうの全身タイツを着た白人が呆然とたたずんでいるのを見てすごく悲しくなった。

あくの:何曜日に行ったんですか?
かずお:せっかくの復活祭なので、30日の日曜日に、最近一番お気に入りのポケモンを連れて行ってきまして。
あくの:日曜日は人でてました?
かずお:かなり出てましたよ
あくの:そうなんだ!
かずお:今年は金土日月と長く楽しめた年だったようで
あくの:どの日が盛り上がるか見極めるのむずかしいんですよね~。かずおさんいいかんじの日にいけてよかったですね

あくの:おっと…きましたね
かずお:お面からの…

かずお:ばあ!
あくの:このギャルと渋谷を歩く、かずおさんの勇気にリスペクト
かずお:今一番私のお気に入りのギャルあいみちゃんに、とっても可愛らしいミニーちゃんの格好してもらって行ってきました。
あくの:いけいけすぎる
かずお:二人だけの世界に入ってるんで全く恥ずかしくないです

かずお:あいみちゃんかわいい
あくの:ちなみにかずおさんはどんな格好で…
かずお:私はさっきあいみちゃんが持ってたドクロのお面で…
あくの:とてもいいです
かずお:まじで中学生くらいに見えるなこれ。
あくの:立派です
かずお:一年に一度のお祭なんで、イケイケになりたかったんです。
あくの:わかります、おもいっきり渋谷を楽しんでください
かずお:中途半端にチップとデールのきぐるみみたいなの着ていっても滑るじゃないですか。どうせなら女に本気っぽい衣装着せたかった

かずお:お店で会うときはいつもこんな感じなので…まさかここまでロリロリにハマるとは思ってなかったです。
あくの:スーパーかずおランドのお洋服だ
かずお:ディズニー公式の衣装を買いました。
あくの:公式なんだ。これだと女子も気やすくていいですね
かずお:ルブタンのトゲトゲサンダルをあわせてくるあたりに職業が伺い知れる
あくの:ほほう

かずお:せっかく気合入れた衣装用意したんで、歌舞伎町でヘアメイクさせて、そこから渋谷に向かったんです。
あくの:楽しみ過ぎでは

かずお:歌舞伎町TikTokスポットで記念撮影。最高でした、歌舞伎町全然コスプレいないから、めちゃくちゃ目立った。髪型で耳作ってあるの。超可愛い。
あくの:歌舞伎町ってハロウィンやってんの水商売だけよね
かずお:そうなんだよね、お店の中だけなんだよね
あくの:インチキなハロウィンたよね、あれ
かずお:相変わらずトー横ではプー太郎っぽい若者があぐらかいてコンビニの廃棄弁当食ってた。
あくの:そうなんだ
かずお:あそこいつからあんな感じになっちゃったんだろう。ヤクザと水商売の街から、学校に行けない子どもたちの居場所になってたよね
あくの:わはははは
かずお:多様性が生息できる街ってことなんだろうけど
あくの:金払えばなんとでもなる街だから

かずお:渋谷行く前にションベン横丁で軽くアルコール入れて羞恥心飛ばそうって事になった
あくの:いや、やっぱすげーのと歩いてんなかずおさん
かずお:そうかな?にこにこ手繋いで歩いてたよ。
あくの:天才です
かずお:これ連れてる僕と新宿西口前でばったり会ったら、なんて声かけますか。
あくの:ダブルピースして一緒に飲み行きます
かずお:wwwwwwwww

あくの:すげえ、めちゃくちゃ勢いある
かずお:とりあえず恥ずかしいから早くアル添させろと
あくの:非常によくわかります
かずお:薄いハイボールをバキュームカーみたいに吸い込んでました。
あくの:世界を変えないで、自分の意識を変えればよい
かずお:他人は変えられない、自分を変えていこう。(なんかリクルートっぽいな
あくの:Twitterでずっと他人に呪詛吐いてるおっさんたちの脳みそにインストールしてあげたい

かずお:タンパク質も接種させます。
あくの:なんかおっぱいくらいはさわらせてくれそうな緩みを感じる
かずお:ぜんぜんいけますね。本人も気に入ってる。

あくの:こいつ超いいやつだな
かずお:超いいやつなんですよ。なんかこう、底抜けに明るくて
あくの:わかる
かずお:知的会話は1ミリもないんだけど。
あくの:あ、そうなんだ
かずお:ちょっと頭のいいハムスターみたいな
あくの:いちばんいい女じゃないですか
かずお:最高なんですよ、おっぱい大きいし。最近週2くらい遊んでる気がする。
あくの:いいじゃん
かずお:でも、休みの日に完全ノーメイクにアディダス3本ジャージで酒チャンスにふらっと来たりする
あくの:三多摩出身のギャルかな
かずお:「岸和田の金髪中学生がかずおさん探してる!」ってみんながザワザワしたりしてる
あくの:うける
かずお:姪っ子ですと伝えている。
あくの:最近たまにすっ飛んだギャルが酒チャンスきてますよね
かずお:そういうのいいですよね、カオスな感じが酒場には必要だ。
あくの:「明日彼氏がでていくんですよ~」って女が出ていく彼氏をつれて酒チャンスきてて「(そんな最後の夜を、このうっすいお店に…?)」
かずお:wwwwwwww
あくの:正気じゃないでしょ
かずお:酒場で見る他人の人生っていいよね
あくの:普通ってすごいよね
かずお:尊い。
あくの:みんなそれぞれが自分なりの普通をもってる

かずお:お腹も膨れたので渋谷に向かいます
あくの:まじでなにしてんの
かずお:そういう夜なので、タクシーの運ちゃんも慣れっこ
あくの:いいですね
かずお:あいみちゃん重度の水商売なんで、新宿から渋谷まで電車乗らないんですよ…。
あくの:わかります。水商売すぐタクシー乗る。殴りたい
かずお:あれ完全に病気
あくの:だらしないよね
かずお:どう考えても電車が一番はやくて安い交通手段だろ!!ハロウィンの日に渋谷にタクシーで乗り付けるとか、自殺行為
あくの:神泉あたりにつけるしかない
かずお:そう、スクランブル交差点のそばは警察が封鎖してて降りられなかった
あくの:そうそう
かずお:結局神宮前で降りて結構歩くことになったww
あくの:神宮前も結構仮装してる人いるよね
かずお:そんなこんなで、次回は渋谷の仮装行列とあいみちゃんのショット盛りだくさんでお送りします!

[後篇に続く]



■『タワーマンションは黄昏れて』第10話 息が詰まるようなこの場所から東京タワーは永遠に見えない(

 魚の死骸がずらりと並んでいた。「目が透明に澄んだ魚を選びましょう」と、検索したら出てきた長谷工の暮らしの豆知識みたいなホームページに書いていたけど、豊洲市場の氷の上に並ぶ魚のどれもが、当たり前だけど死んだ魚の目をしていた。
 小さい頃にお母さんと行ったスーパーで同じ感覚に襲われたのを思い出した。精肉コーナーも、鮮魚コーナーも、あるいはもしかすると野菜コーナーも。美怜は想像力が逞しすぎる、とお母さんは私に言った。逆だと思った。みんなの想像力が逞しすぎるのだと思った。握りしめたクレヨンをぐりぐりと押し付けた塗り絵みたいに、ただの景色にみんな不思議な意味を見出して、その意味でただそこにある景色を、おそらくは何かの意図によって、覆い潰しているのだと思った。

「ごめん💦ちょっと遅れる💦」「私もだ😭」LINEが立て続けに届いて、コンロの横に置いたスマホが耳障りな音を立てて震える。カルパッチョにする真鯛の柵をちょうど切っていたからチラリとしか見ていないけど、どうせ真依と由佳だろう。あのふたりはいつも時間にルーズだった。初めて四人で会うことになって、スイパラ目当てで自由が丘駅に集合することになって、あのふたりは例によって15分遅れてきた記憶がある。それで、私はちゃんと定刻に来た加奈子と15分話して、それで私は加奈子と仲良くなった。

 加奈子は鷺沼あたりで生まれて、お父さんが商社マンだから小さい頃はポーランドだかチェコだかに住んでいて、それでまた鷺沼あたりに戻ってきて鴎友に通って、ポーランドだかチェコだかで仕込んだ英語力(当地で英語が話されているのかは知らないが、少なくとも本人はそう言っていた)でコスパ最強の私文の雄・慶應文学部に入って、そこで私と出会った。正確にはアレックスだかポニーだかの新歓の新歓で出会った。真依と由佳ともそこで出会った。私たちは結局どっちにも入らず、就活に有利そうだからというだけの理由で国際交流サークルに曖昧に入って、活動したり活動しなかったりした。国際交流サークルに入るような意識の高い留学生はみんな日本語がペラペラだった。

 案の定、加奈子だけが定刻に来た。せっかくだから下まで降りてエントランスで出迎えることにした。手を洗って、エプロンをドアの取っ手にかけて、ベージュのニットにエプロンを貫通した水分が染みを作っているのを見つけたから洗面所のドライヤーで乾かして、そうしたらピアスが服に似合っていない気がして付け替えて、髪もちゃんとして、でも気合いが入りすぎてると思われると恥ずかしいから買い物なんかに行くとき用のオニツカタイガーを履いてエレベーターに乗った。ふと思いついて右手のひらを鼻に近づけてみた。軽くつけたイッセイミヤケの香水の向こうに、かすかに死んだ魚のにおいがした。

 加奈子は高い吹き抜けのエントランスの隅のソファにちょこんと座っていた。なぜか居心地が悪そうに見えた。私が声をかけたら顔がパッと明るくなると思った。「加奈子!」そうしたら少しだけ明るくなったけど、私が期待したほどではなかった。加奈子の手土産は成城石井の袋に入ったスペインかどこかのスパークリングワインと、それから黒トリュフのポテトチップスだった。

「うわ〜!家賃いくらするのこれ」開口一番、私の11階の部屋に入った加奈子は叫びに近い声を上げた。人を部屋に呼ぶと皆なぜか同じようにそうする。それはおそらく単純な驚きによるものではなく、沸き起こった何らかの感情を覆い隠すための、照れ隠しのわざとらしい叫びではないかと私は睨んでいる。その「何らかの感情」がいったい何なのかについて、私は考えることを避けている。

 同じ大学、同じサークル、元を辿れば同じような家庭環境で育ったはずの私と加奈子の人生は、しかし大学卒業後の10年弱の時間をかけて、当時あったのかもしれない誤差みたいなズレが今や大きな差を生んでいた。差、というと上下があるみたいで偉そうだが、加奈子の現状はあまりにもあんまりだった。それは見下すなんて気持ちではなくて、旧友のいるあまりにもあんまりな現状への真摯な心配だった。総合商社総合職全落ちで専門商社へ、そこで早々に社内婚をするもアプリで知り合った総合商社マンと不倫。社内婚したばかりの頃は夫への愚痴をグチグチと、不倫したばかりの頃は不倫相手がいかに社内の「ルート」に乗っているかを嬉々として私や真依や由佳にそれぞれ話して、私たちはいつもうんざりしていた。彼女にうんざりしていたのは私だけではなかったようで、不倫相手がまず離れ、次に夫が裁判の末に慰謝料をたんまり取って離れ、彼女は八丁堀のマンションを離れて、今は「人生の夏休み」だとかで鷺沼の実家に戻って、仕事もせずに呑気に暮らしていると聞いていた。人材系大手で働きながら「副業」もやって、家賃は経費になるしと少し背伸びして豊洲のタワマンに引っ越した私とは、あまりにも違いすぎると思った。

「ね、本出したって本当?」鼓動が突如として早まるのを感じた。「NewsPicksでホリエモンと話してたの、あれ話し方とか、美怜のままじゃん」
 タイムラインにいた窓際三等兵という、馬鹿みたいな名前のアカウントを真似してお遊びのつもりで短編小説を書き始めたのは去年の夏のことで、それが次第に「タワマン文学」なんていう、これまた馬鹿みたいな名前で呼ばれるようになって、話題になって、遂には集英社から本が出たのが今年の夏のことで、発行月の翌月末に入る印税で、それまで住んでいた芝浦の地の果ての家賃9万の狭小1Kからこのタワマン低層階の賃貸に引っ越したのは今年の夏の終わりのことだった。周りには、特に加奈子たちにはそのことは黙っていた。なぜなら――

「私とか、あと真依とか由佳とかがモデルになってるやつが結構あったよね」私は押し黙った。顔は出してない以上、何かその推定から逃れる方法はないかと考えて、しかし私の話し方、言葉の選び方、もともと小説家に憧れて新人賞に何度か出して、三田文学の佳作くらいに残ってはしゃいでいた私の過去を知る彼女のそれを上手に否認する方法なんて、おそらくは存在しなかった。

「黙っといてあげる」彼女はニヤリと笑った。そして、スマホに表示された妙に情報の少ない(それはすぐに商品画像がないせいだと気付いた)Amazonのページを見せてきた。
「そとやまかおる…」「"と"やま薫、ね」彼女は自分が持ってきたスパークリングワインをおもむろに開けて、私がダイニングテーブルに出していたシャンパングラスにどほどぼと注いだ。泡が溢れて炭酸を孕んだ水たまりができた。グラスのプレートからぽとぽとと水滴が落ちるのも気にせず、彼女はそれをグイと一口飲んだ。それは勝利の宣言なのか、あるいは赦しの表明なのか。私は何ひとつ理解できないままに立ち尽くしていた。

 麻布競馬場と窓際三等兵。「タワマン文学」と言われて久しいが実のところ私の本にはタワマンはあまり出てこない。その夜、加奈子からラインで無言で送られてきた「息のできない場所」みたいな、私の本のパクリみたいなタイトルのその本のゲラデータを読んでみたらタワマンが舞台の話だった。彼女は一度たりともタワマンに住んだことがない。そうであるからには彼女はタワマンを「想像」して書いていて、もしかすると彼女にもモデルがいて、それはもしかすると―― いや、私ではないはずだ。文字数からするに私がここに引っ越してきた頃には既にほぼ書き終わっていたはずで、だとすれば彼女は、鷺沼の実家の子供部屋でいったいどんな気持ちであれを書き、そして今日の私をいったいどんな気持ちで眺めていたのだろうか。背筋が冷たくなるような感じがして、私は今年初めての床暖房を入れた。カーテンを閉め忘れた窓からは東京タワーがよく見えた。

 加奈子の本、売れませんように。
 お互いに誰かの人生を勝手に想像して、勝手に決めつけて、そのうえ笑いものにするような忌まわしい二人が書いた二冊の本が、せめて売れませんように。この国の想像力が、せめて美しいものを考え、消費することに使われますように。でもせめて、私の本が少しだけ、加奈子の本よりも売れますように。



■漫画『新宿太郎総帥伝説』㉜反対運動


鴨鍋不動産(以下、鴨鍋):今回もペンギンが大暴れしてましたわ。
どエンド君(以下、エンド):ついにぐう畜ペンギンが本性を現しました。

エンド:たかが半世紀!
鴨鍋:デベの皆さんの前で言ってみてほしい
エンド:お気持ち反対勢は全員うすら寒くて雨漏りする旧耐震に住んで欲しい。

鴨鍋:口は出してもお金は出さず、築浅に住んでる皆さんにグルもお怒りです。
エンド:グルはいつも怒ってるよ。
鴨鍋:お気持ち表明する皆さんの落とし処、どのあたりかとても気になる。
エンド:なんかぼくが知らないだけで反対運動するとデベから裏でお金がもらえるとかあるのかな…。
鴨鍋:この手の近隣対策、いつか全チンで特集してほしい!
エンド:それ読みたい!表に出せないことばかりだったりして…。
鴨鍋:さて次回は年内最後の新宿太郎総帥伝説です!頑張ります!(この1年ネタが続いてよかった…
エンド:みなさま待望の単行本も出ます!
鴨鍋:そんな話聞いてないんだけど!



【コメンテーター:匿名希望】

【グラビアン塊:あいみ・かずお君・あくのふどうさん】

【タワーマンションは黄昏れて:麻布競馬場】

【新宿太郎総帥伝説:鴨鍋不動産・どエンド君】

【編集:かずお君】

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