歴代のVTuber最協決定戦を通して振り返るV界のFPS文化 中編

↓前編

●最“強”決定戦から最“協”決定戦へ……

2018年7月に開催されたVTuber最強決定戦から3ヶ月後――2018年10月に、渋谷ハルは新たなVTuber限定のPUBG大会を開催すると宣言します。その名も『VTuber最協決定戦』

“強”のかわりに“協”という字がつけられている通り、ルールはTPPのスクアッドルール(4人一組のチームで戦うルール)を採用するということで、個人開催としてはなかなか類を見ない規模の大会になるのではと、当時も話題を呼びました

参加チームもにじさんじからゲーマーズチーム(後のシリンソウ)の他に渋谷ハジメ海夜叉神ホロライブからも計6名。他企業勢や有名個人勢も多数参加と、事前の期待を裏切らないメンツが揃い

↓第一回最協(PUBG)のHP。参加メンバー表もHP内にあり

(改めて見返してみると2020年1月現在は引退された方もちょこちょこいたり、直近の最協ver.APEXにも参加したおだのぶキス部が既にこの時点で出来上がっていたり……)

こうして大会の規模感や参加VTuberの豪華さからリスナー一同の期待が高まる中、各参加者達がそれぞれチーム練習を始めていきます

そんなある日、参加チーム中で最も注目度が高かったであろうにじさんじゲーマーズチームの練習風景にて、ちょっとした事件が起こりました

叶、葛葉、本間ひまわりの三人でプレイしている時に、本間ひまわりが安全地帯外のスリップダメージによって移動中の車両からダウンしそのままデス。その試合自体は叶と葛葉の連携によって見事1位を取るのですが、試合後に本間ひまわりが「もっとちゃんとできた」と思わず涙してしまうのです


叶と葛葉、そしてリスナーまでも彼女の突然の泣き声に驚いた一方、元々FPS経験者であり先の動画で叶からもエイムを褒められているほどのストイックな気質たる彼女だからこその悔し涙に、葛葉は「最近適当にやっちゃってた」「気合入り直した」と感化されます

……ここからは私見ですが、個人的にこの一幕が後の最協にも繋がる大会全体の空気感を作り上げたのではと思っています

通常、プロシーンや競技性の高い大型大会ではない初心者も参加するような比較的緩いゲーム大会というのは、そもそも事前練習をしない、もしくは顔合わせがてらの練習配信を一回取るだけというのも珍しくありません

VTuber最協決定戦に関しても、先ほどの本間ひまわりの涙があるまではそこまでガッツリ練習して優勝しよう!という空気はそこまで強くなかったと思いますが、あの一幕を経て大会を取り巻く雰囲気がリスナー含めてガラッと変わり、お祭り的扱いだった大会にグッとシリアスな一面が新しく付け加えられたように感じました

むろん、参加者全員がそういったスタンスで参加していたわけではなかったと思うのですが(特にPUBG時代は全試合で一切装備を持たずハイドして生き残り続けたりとんでもない僻地に全員で降下するといったエンタメに振ったチームも多かった)、少なからず優勝に向けて高いモチベーションで挑むVTuberが増えたのは確かで、次回以降の最協決定戦においては開催発表以前(おそらく内部連絡が届き始めた段階)からもう既に各VTuberがチームメイトととの練習配信を始めたりするところからも意欲・意識の高さが伺い知れるでしょう

●最協決定戦開催!そして大成功!!……とはいかず?

そして迎えた当日、記念すべき第一回のVTuber最協決定戦は最強決定戦の時よりさらに増加した視聴者達が見守るなか、開始の火蓋が切って落とされます

↓第一回最協決定戦(PUBG)本戦

各自それぞれがキルしたりキルされたり、はたまたとんでもないハプニングがあったり(※後述)と様々な見どころが作られていきました……が、2試合目が終わったあたりから段々とコメント欄に不穏な空気が漂っていきました

というのも参加チームの一つである『かがちゃむ』が八面六臂の大暴れをし、結果的に2位のチームとポイントにして1.5倍近い大差をつけて優勝してしまったからなのです

特に全3試合中、2試合目と3試合目は他チームに対してその圧倒的なエイムと立ち回りでキルを量産しながらドン勝したため、「一方的すぎてつまらない」「結果がわかりきってて冷める」といった発言を一部リスナーがしはじめ、それに対しかがちゃむを擁護する人たちとの論争にまで発展してしまいました

しかも、かがちゃむメンバーが全員デビューからほどなくしての参戦(当時設立してすぐのゲーム特化事務所であるVGamigから二人、ぶいすぽっ!及びLVG設立以前のデビュー直後だった花芽姉妹が二人)、さらにはチームのエースである青猫えいむ元プロゲーミングチームに所属していたプレイヤー(※後述)というのもコメント欄での場外乱闘をさらに加速させてしまいます

もちろん、かがちゃむの優勝は何ら不正なく彼ら自身が実力で掴み取ったものであり称賛されるべきものなのですが、ともあれ全体のパワーバランスが崩れてしまっていたこともまた事実であり、最後まで結果のわからないシーソーゲームが見たかった層の求めるものでないことは確かだったでしょう。結果としてPUBG版の第一回最協決定戦は良くも悪くも話題をさらう形で閉幕することとなってしまいました

フォローしておくと、大会内容そのものや特殊ルール含めたエンタメ特化の前夜祭・後夜祭といった基本的フォーマット、そして真剣に取り組むからこそ生まれるエモーショナルなドラマ性といった現在の最協決定戦にも繋がる良さはこの頃から大まかに出来上がっており、チームバランス面の反省も次回開催時に活かされているので、第一回最協決定戦という大会の存在は、主催の渋谷ハルだけでなく多くのVTuberリスナーにとっても本当に大きなターニングポイントとなったことは間違いないと思います

↓恐らく第一回最協で最も話題をかっさらった大ハプニングの切り抜き。この後しばらくはVTuber界においてPUBG内の車両で事故ることを指して「アベる」と言われるようになってしまった

●増えていくゲーム特化V、そして第二回最協決定戦

第一回最協終了後、少しづつFPSを多くプレイするゲーム特化のVTuberが増えていきます

まず第一回最協優勝のかがちゃむの内2名が所属するVGamingはその他にも多数のVTuberがデビューした他、当時個人勢だった白雪レイドも一時期VGamingに入り企業勢として活動していたりしました(現在は事務所自体が解散。レイドくん含め一部は個人勢として活動継続)

同じくかがちゃむの一員だった花芽姉妹(花芽なずな、花芽すみれ)も、Lupinus Virtual Gaming(LVG)として新たに2名(一ノ瀬うるは、小雀とと)を追加し、チームとしての活動を開始。後にA-SCRIMというPUBGのスクリムに長期間参加するなど、よりeSports系VTuber事務所としての側面を前面に押し出した活動をしていくこととなります

その他にも、現在はFPS強者なVTuberとして知られている杏戸ゆげもブイアパの一員として世に出るなど、界隈全体でFPSのうまいVTuberが着実に増えていっていました

そして第一回最協から半年後、2019年4月に第二回最協決定戦が開催されることがアナウンスされます

↓参加者・チーム一覧

メンツの中には先日開催された最協ver.APEX S2に参加していたVTuberがこの頃から数多く名を連ねており、まさしく名実ともにVTuber界の最協を賭けた大会になったと言っても過言ではなかったでしょう

また、大会内容は基本的に前回とはあまり変わっていませんでしたが、第一回にてチームバランスが偏ってしまった反省を活かしチーム編成時のポイント制を導入したのが大きな変更点でした

「参加者の強さに応じて各自にポイントが付与され、チーム全体で上限を超えないように組まなければならない」というルールで、これは現在の最協ver.APEXにも引き継がれており、失敗するにしてもただでは転ばないぞという渋ハルの強い意思を感じます

↑ver.APEXにおけるポイントシステム発表時の切り抜き。この動画内では「完璧なルール」と言っていましたが、先日のver.APEX S2終了後に行った反省会配信では各ランクポイントのさらなる微調整案をリスナーと共に考えていたりと、改善に余念がありません


それで、実際そのポイントシステムを採用した第二回最協(PUBG)の本番はどうだったのか?

これはあくまで自分から見た感想ですがポイント制の導入は大成功だったと思っています

↓本戦配信

PUBG時代は順位に対してキルポイントの比率が低く、ポイント制のおかげもあってか各チームの実力がうまくバラけており、最後までどこが優勝かわからない接戦が繰り広げられました

たとえ総合優勝は果たせなくとも各試合でドン勝を決めたチームはそれぞれとても嬉しそうな様子で互いを称え合っていたのも印象的で、その他のチームも笑いあり涙ありにしっかり撮れ高を残し、総じて多数のリスナーにとって満足のいく内容になっていたと思います

↑個人的に印象に残ったチーム鍋・天羽よつはによる第二回最協決定戦終了後の感想配信。最強決定戦と第一回最協決定戦で司会を務めた彼女ですが「PUBGはそんなに好きじゃない」と当初は第二回最協も参加する気はなかったとか。それでも第二回最協関連の活動を振り返って「このチームで参加できてよかった」と涙ながらに語る姿に“最協決定戦という場が生み出す面白さ”の一端が表れているような気がします

↑しかしエモあれば笑いもありなのが最協決定戦。チーム鍋が開催した非公式な後夜祭にて組まれた即席チームですが、にじさんじのコミュ障代表・葛葉に対する日ノ隈らん先端恐怖症の大暴れっぷりがとにかく圧巻の一言でした

●広がったようで広がらなかったVとリアルの輪

第一回優勝チーム・かがちゃむの青猫えいむ。先述したように彼はVTuberデビュー以前はプロチームに参加していたのですが、その正体(いわゆる前世)は現在APEX界隈で活動し、渋谷ハルと同じKnot Not Rankに所属するBobSappAimその人だったのです(一応VTuberとして引退する時に最後の配信で競技シーンへの挑戦を公言していましたし、YouTubeチャンネルもそのままBobSappAim名義に移行していたはずなので転生の流れについてもここで言及します)

VTuberとなる前の彼は野良連合に所属し、日々配信を行いながらPUBG PARKDONCUPなどで名を挙げていたため、PUBG界隈ではちょっとした有名人でした

その後、VGaming所属の青猫えいむとしてVTuberデビュー。確かなオーダーと圧倒的なキルポテンシャルで第一回最強決定戦でチームを優勝に導き、自らも最多キル賞を獲得します。大会後もPUBG最強クラスのVTuberとして活動し、当時から渋谷ハルとも配信でコラボするなどして交流がありました

そしてしばらく経ったころ、「PUBG公式リーグであるPJSに参加できる年齢になったのでプロシーンに挑戦したい」とVTuber活動に幕を閉じます。ほどなく古巣の野良連合戻り本格的にプロゲーマーとしての活動を開始。V引退から少し間をおいた後に見事PJSへ参戦することも叶いました(PJS時代の名義は諸事情あってかBSAim

PJS選手として引退したあとはリリース直後だったAPEXを中心に活動するようになり、渋谷ハルらと共にKNRに所属することにもなるわけですが、この繋がりは当時両者がVだった頃から見ていた自分からするとなんだか少し不思議な感覚でもあります

ただその他におけるVTuberとリアル配信者・プロゲーマーとの絡みは、思ったより大きく広がることはありませんでした

PUBG時代の最協決定戦で解説を務めたSUMOMOXqX(すもも)や、叶と定期的に配信を共にしていたRuytvなど、以前からVと繋がっていたところは継続されていたり、叶と以前から繋がりのあったDustelBox経由でレインボーシックス シージのプロチームである父ノ背中のけんき等がにじさんじとの交流をはじめ、そこからVTuberと定期的にコラボすることになったり、意外なところでいえばPUBGの世界大会にも出場したCrest Gaming XanaduのAries選手が白雪レイドといつの間にやらコラボしていたりと、チラホラと新たな繋がりが出来たりすることはありましたが、界隈全体として大規模にV↔リアルの世界が交わることはあまりなく、「VはVとコラボする」という風潮は未だ根強かった感があります

↑VTuberに挟まれるAriesの立ち絵に毎度笑ってしまう。白雪レイドがメインでプレイするFPSをAPEXに移してからコラボはあまり見なくなりましたが、最近のBIG★STARによるARK配信内でAriesがコメントを打つなど、現在も交流は続いている模様


そしてこの頃、PUBG版第二回最協決定戦と前後する形でVTuber界のFPS史を語る際に無視できないゲームタイトルがリリースされました

――そう、『APEX LEGENDS』です



 続く

↓後編


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