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第三話「性」

アキは都会に勤めるアラサー。
今日は休日で、溜めていた動画を朝から見ていた。
おすすめに誹謗中傷のすえ亡くなった、著名人のサムネがあった。
その方は心は女性、体は男性だ。
とても煌びやかな方で、カリスマ性もあったせいで格好の的になってしまったようだ。
その様はまるで中世の魔女狩りだ。
そんなに性は大切なことなのか。
お腹も空いてきたので、アキはラーメンでも作りながら考えることにした。

この世には男性と女性という性が自然界上に存在する。これは体の性で男性と女性の間とかはほぼ存在しない。
つまり体はほぼ白黒はっきりついている。

しかし、心の性は実にグラデーションで豊かである。
はっきり男性、女性と分かれている人もいれば、この時はこっちあの時はあっちと使い分けている人もいる。他にも性のことなんかより私であることが大事という性もある。

心と体の性が一致していれば、普通に人生を送れる超ラッキボーイ&ガールな訳だ。
ただ、実はそういう人は少ないと思う。

アキは鍋を手に取りインスタント麺を茹でるためのお湯を沸かす。また、沸かしている間思いを馳せる。

自分は以前インターネットで心の性の診断テストを受けた。
その時トランスジェンダーと出た。
でも、体は女性でそれを否定的には思わない。
だが確かに、女性のひらひらとした服やドレスなどは着たいと思わない。
だからと言って、男性なのかと言われるとそういうわけではない。女性らしい体のシルエットが好きだからだ。
だから、また変わったのかもしれない。
心の性は環境の変化によって移りゆくものなのだ。

お湯が沸いたので、インスタント麺を入れる。
スープの粉まで入ったので箸を使って火傷しないように慎重に取り出す。
タイマーを3分セットする。

世の中のものは実に不安定で、未来永劫形を保てるものなんてない。
これを理解していないと、この世は実に生きにくい。
自分以外の他人を否定し、自分を肯定しないといけないからだ。実に疲れる。エネルギーの無駄だ。
他人は他人の物差しで生き、自分の物差しでは生きていない。
心の性が多種多様であることを理解できないようでは、今後もっと起こりうるであろう多様性には追いつけないだろう。

だが、それらについていけない、受け入れられないという他所様は私には関係ない。

タイマーが鳴り茹で上がった。
スープの粉を入れて、インスタント麺の完成だ。
器に盛るのは面倒なので鍋から直接いただく。

うまい。

心の性がなんであれ、うまいもんはうまい。
アキは世の中の真理はそれだけでいいような気がした。

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